学校の部活動は、目標に向けて努力し、チャレンジする場だ。一生懸命に頑張った経験は、生徒にとって大きな財産にもなる。
また、友人関係を築き、よき指導者とのかかわりを通じて人間的に成長できる場でもある。
そんな反面、辛い思い出が残ることもある。
昨年は部活動内の「いじめ」と、その対応における問題が噴出した。
中でも広陵高校(広島県)の硬式野球部や、仙台育英高校(宮城県)のサッカー部などスポーツの名門校で「いじめ」が発生し、世間を騒がせた。
それぞれの事例をたどると、個々の問題にとどまらない共通点が浮かびあがる。(ライター・渋井哲也)

甲子園「辞退」へ…広陵高校「暴行」事件

夏の甲子園(第107回全国高校野球選手権大会)に広島県代表として出場した広陵高校は1回戦に勝利した後、2回戦を目前に大会出場を辞退するという異例の判断を下した。
理由は、寮内で起きた上級生から下級生への暴行事件が、SNSで拡散されたことだった。
同校によると、暴行事件が発生したのは2025年1月22日。「寮で禁止されているカップ麺を食べた」などとして上級生4人が被害生徒の部屋を個別に訪れ、胸ぐらを掴む、胸や頬を叩く、腹部を押すなどの暴行を加えたという。学校はこれらの経緯を広島県高野連に報告し、高野連は学校に厳重注意、加害生徒には対外試合出場停止1か月の処分を下した。
後日、上級生4人は、被害生徒に謝罪したが、被害生徒は3月末に転校した。
なお被害生徒の保護者らによれば、被害生徒は部を率いた監督からも、上級生による暴行の事実を外部に漏らさないよう圧力をかけられていたという。

広陵の言い分「いじめではない」のワケ

被害生徒が暴力を受け転校を強いられた今回のケースは「心身に重大な被害が生じた疑い」があるといえるだろう。こうした場合、いじめ防止対策推進法における「いじめ重大事態」(28条)に当たる可能性がある。

ただ、いじめやいじめ重大事態を認定するのは、「学校」または「学校設置者」(この場合は、学校法人広陵学園)とされている。つまり、学校が「いじめ重大事態」ではないと判断すれば、県への報告義務はない。
広陵高校も、暴行の事実を認めつつも「いじめには当たらない」と判断。広島県学事課へ報告していなかった。
県学事課は、筆者の取材に対し、経緯を次のように説明した。
「『広陵高校でいじめがあるのではないか?』という情報提供を受けて、事実確認を行いました。学校からは『(情報提供された話は)事実で、いじめがあった』と報告を受けた。ただ、県への報告義務がないため、報告をしなかったということでした」(県学事課)
学校に対し県学事課は、いじめ防止対策推進法や国のいじめ防止基本方針、文科省のいじめ重大事態調査に関するガイドラインに基づき、調査と報告をするように助言したという。
この事案では、加害生徒である3年生2人が12月に家裁送致されたことで、報道等は一段落したようにも見える。しかし、広陵高校では同じ野球部で起きた過去のいじめ被害をSNS上で告発するOBの声もあり、火種はくすぶっていそうだ。

仙台育英サッカー部が認めた「構造的いじめ」

昨年、部活内での「いじめ」が発覚したのは、広陵高校だけではない。
11月4日、スポーツ強豪校である仙台育英高校のサッカー部で「いじめ重大事態」が発生したと報道された。
報道や同校の公表によると、被害を受けたのは3年生のサッカー部男子部員。
1年生の春頃から、複数の同級生による「うざい」「デブ」などの暴言が繰り返されていたという。被害生徒は次第に心身の不調を訴えるようになり、医師から抑うつ症状と診断された。
同校が発表した「体育会サッカー部『いじめ重大事態』について」(以下、公表文書)によると、被害生徒は2024年5月までに学校に相談。同月以降、生徒はいじめによって部活動に参加していないが、学校としては生徒が求める避難措置を含む保護体制を継続していたという。ただ、この時点で学校は本件を「いじめ重大事態」とは認定していなかった。
転機となったのは2025年10月だった。報道等によれば、被害生徒が自殺未遂を起こし、警察に保護されたという。
学校は公表文書の中で、10月11日に「当該生徒に2024年5月までの事案に対する多大な心理的苦痛がみられたことから」いじめ重大事態として認知。被害生徒の了承のうえで、29日にサッカー部3年生の延べ53人と顧問団に対して聞き取りを行ったと説明した。
そうした調査の結果、学校は問題原因を「必ずしも一部の生徒だけに限られたいじめ事案ではなく、サッカー部全体、顧問団ならびに生徒の人権意識が不十分なために、『構造的いじめ』を生じさせ、これを見逃してしまう体制であった」と結論づけた。
公表文書では、部内の指導や規律のあり方にも踏み込んでいる。
「部内規律の名のもとに、遅刻や無断欠席などの部内ルール違反や練習時におけるノルマ不達成に対する連帯責任が慣習化する中、その罰則の回避のために意図せずして一時期の資質・能力によって生徒間の上下関係が固定化し、特定の生徒が集団から疎外され、いじりや過剰な注意、さらに強要につながるといったことが確認できました」
同校は第104回全国高校サッカー選手権大会の出場を辞退。
年内の対外試合はすべて停止した。また、監督およびコーチ兼部長は、被害生徒に謝罪した上で辞任。部内ルールや指導体制の見直しも進めるとしている。

部活動の上下関係と閉鎖性が生む“極端な例”

また、上下関係や支配が強固に固定された部活動内の風土では、指導者が逮捕されるような深刻な事件も起きている。
昨年起きた事例ではないが、サッカーの強豪校として知られる修徳中学校・高校(東京都)の男子サッカー部では、総監督を務めていた元顧問(当時29)が、複数の部員に対する不同意性交や性的姿態撮影、児童ポルノ製造などの罪に問われた。
起訴状など公判で明らかになったところによると、元顧問は2023年春頃から、男子部員を呼び出し、性器を触る、肛門に指を入れる、マスターベーションを手伝うなどのわいせつ行為を加えていた。また、その様子を自らスマートフォンで撮影したり、部員らに撮影させたりしていたといい、逮捕時、元顧問の端末からは、少年が映る動画や画像が100点以上見つかったという。
元顧問は、裁判で公訴事実を認めたが、未成年の全裸の映像を撮影したり陰部に触れたりすることについて、「面白いことと認識しふざけていた。体育会のノリだった」と主張し、情状酌量を求めていた。
一方、被害を受けた部員のうち一人は「要求を拒めば試合に出られなくなると思った」と証言したという。
2024年11月、東京地裁(矢野直邦裁判長)は元顧問に懲役10年(求刑12年)の実刑判決を言い渡した。
部活動は、学校の中にありながら、独自のルール(部則)や慣習によって部員たちを強く縛る空間でもある。

勝敗や序列を重視する競争主義的な構造のもとで、内部統制が強まれば、そこからこぼれ落ちる生徒が生まれ、いじめや排除が正当化されやすくなる。
スポーツ名門校と呼ばれる学校で同時多発的にこうした事例が相次いだことを踏まえれば、特定の生徒や指導者の資質だけに原因を求めることはできない。「部活動」が生む、歪んだ力関係や閉ざされた環境そのものを、改めて問い直す必要があるだろう。
■渋井哲也
栃木県生まれ。長野日報の記者を経て、フリーに。主な取材分野は、子ども・若者の生きづらさ。依存症、少年事件。教育問題など。


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