離婚後に養育費を支払わない親が少なくない。
こうした「養育費の未払い問題」を防ぐため、国は民法を改正し、今年4月から「法定養育費制度」が導入される。

離婚時に養育費の取り決めを行っていない場合でも、監護親(子を監護する親)が別居親に「子ども1人当たり最低月額2万円」を請求できるというもの。
しかし、この法定養育費の金額が報道されると、SNS上などでは「養育費が月2万で足りるわけがない」「法務省は子どもを育てるのにいくらかかると思ってるんだ」「支払い能力があるのに2万円しか支払わないケースが増えない?」などと不安の声が相次いだ。
また、ひとり親の支援団体などからも「少なすぎる」との批判が出ている。

「国も2万円払えばいいって言ってる」?

そもそも「子ども1人当たり2万円」という金額は、どのように設定されたのか。
法務省は、ひとり親家庭の消費実態や児童扶養手当といった社会保障の額などを考慮し、月2万円を算出。昨年8月に省令案を公表し、9月からパブリックコメント(意見公募)を実施した。
物価高を理由に増額を求める意見も多かったというが、同省は「法定養育費は、養育費の取り決めがなされるまでの暫定的・補充的なもの」として、原案を維持し今年4月1日からの導入を明らかにした。
離婚調停を控え、子どもを一人で育てているAさん(30代女性/埼玉県在住)は、「2万円という数字が一人歩きしていて、養育費“減額”の口実に使われないか不安」と吐露する。
「私の場合は、すでに公正証書で養育費を取り決めて現在は支払ってもらっていますが、相手が減額を希望しています。給与は私の倍くらいもらっているのに、どうもギャンブルをして友達に借金もあるようです。
聞きかじった情報で相手が『国も2万円払えばいいって言っている』なんて言い出すんじゃないかと憂鬱です」
こうした監護親が抱えている“不安”は的中してしまうのか。離婚・男女問題に多く対応する安達里美弁護士に、制度本来の狙いと“注意点”を聞いた。

「決まるまで1円も払わない」を防ぐ2万円

まず安達弁護士は、法定養育費の導入は「あくまで養育費を取り決めずに離婚した場合に、適切な養育費額が決まるまでの期間に最低限の支払いを求められる仕組み」だとして、次のように説明する。
「これまで養育費が決められないまま離婚し、その後の協議も整わない場合、調停を申し立て、調停が成立するか審判が確定するまでは養育費を差し押さえることができませんでした(保全が認められた場合を除く)。

そのため、別居親が『調停・審判で養育費が決まるまでは一切支払わない』という姿勢をとると、数か月以上の間、本来原則月払いであるはずの養育費が支払われませんでした(※調停成立や審判が行われると、調停申し立て時以降の未払い分については一括での支払いが命じられる)。
しかし、今回、法定養育費が導入されることによって、裁判所としても、「支払い拒否したところで差し押さえができてしまうので、最低2万円を仮払い金額として任意で払ってはどうですか」と別居親を説得しやすくなります。
その2万円は後で正式に決定した養育費の既払いとしてカウントされるというのも併せて説明すればさらに理解を得やすいと思います。
また、法定養育費制度の導入に先だって、養育費を支払わない場合に監護親が『先取特権』を行使できるようになりました。先取特権とは、ほかの債権者より優先して財産の差し押さえができる権利です。
つまり、調停成立や審判確定がなくても、直ちに相手の給与や預金を差し押さえる『強制執行』もできることになります。
このように、正式な養育費が決まっていない間も、最低限2万円は仮の支払いが確保されやすくなるというのが一番の変更点かつ制度導入の“利点”でしょう」

養育費“減額”の理由には「ならない」

しかし、今後「法定養育費が2万円なのだから、それ以上養育費は出さない」と別居親が減額を主張することはないのだろうか。
こうした不安を投げかけると、安達弁護士は「その主張には全く意味がありません」と一蹴する。
「まず、すでに話し合いで養育費を決めている場合は、当然それが優先されます。
今後正式な養育費を取り決める場合も、これまで通り両親の収入や子の状況によって額が決まりますから、別居親が『養育費は2万円だけ支払えば良い』という訳ではありません。
なお、家庭裁判所が審判で定める養育費(形成養育費)は、公表している算定表(※)がおおよその基準額として機能しています」(安達弁護士)
※標準算定方式・算定表(令和元年(2019年)版)https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/youikuhi-tetsuzuki/index.html
つまり、すでに決まっている養育費の減額の交渉材料になるものではなく、養育費の算出方法も何ら変わらない。
また、法定養育費を支払ってもらうのに、債権の消滅時効である5年以内に請求する必要はあるが、特別な手続きなどはいらないという。
「監護親が別居親に『払って』と請求すればよいだけです。
決まりはないので、口頭でも、メールやLINEなどでも大丈夫です」(安達弁護士)

場合によっては損をする? 法定養育費制度の“注意点”

一方で、法定養育費制度には“注意点”もあると安達弁護士は続ける。
「養育費の取り決めを行わないまま離婚するケースで、法定養育費より、形成養育費の方が高くなる可能性がある場合には、速やかに養育費についての調停を申し立てた方が良いと思います。
通常、形成養育費の効力が発生するタイミングは、『調停を申し立てた時』とされることが多いからです。
具体的に説明すると、2026年1月に離婚し、形成養育費が月6万円の場合、2月に調停を申し立てれば1月は法定養育費の2万円、2月以降は形成養育費の6万円で計算されます。
しかし、もし8月に調停を申し立てた場合には、1~7月までが2万円、8月から6万円で計算されます。もちろん別居親が1月分から6万円支払うことに合意すれば別ですが、話し合いがつかない場合の審判はこのような計算になる可能性が高いと思われます」

ひとり親家庭の5割以上「養育費を受けたことがない」

国の調査によれば、「養育費の取り決めをしていない」割合は、母子家庭で51.3%、父子家庭で69%となっている。さらに、「養育費を受けたことがない」割合は、母子家庭で56.9%、父子家庭で85.9%に上る(いずれも厚労省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」より)。
一方、法務省民事局はパンフレット「父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました」の中で、親の責務について〈父母は、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、こどもを扶養する責務を負います〉と明文化している。
今回の養育費制度導入が「養育費は2万円で足りる」という誤解を生まないよう、現場での丁寧な説明と運用が求められる。


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