従来の現金給付(出産育児一時金=現行50万円)から新たな給付体系へ移行することが確実になり、時期は2027年度からが有力視されている。
厚労省は妊婦の窓口での負担を原則ゼロとする設計を描いているが、産婦人科医サイドでは危機感を強めている。(ライター・松田隆)
示された制度設計
医療保険部会による「議論の整理」では、ここまでの議論をまとめて、出産に関する新たな給付体系などについて明記している。名称は「議論の整理」であるが、事実上、これに沿って制度設計が行われていくことは確実である。以下、その主な点を抜粋する(小見出しは筆者作成)。(1)保険適用化:現行の出産育児一時金に代えて、保険診療以外の分娩(ぶんべん)対応に要する費用について、全国一律の水準で保険者から分娩取扱施設に対して直接支給することにより、現物給付化を図るべきである。
(2)妊婦の負担ゼロ:出産独自の給付類型を設けた上で、妊婦に負担を求めず、設定した費用の10割を保険給付とするべきである。これにより、保険診療以外の分娩対応に要する費用について、妊婦の自己負担が生じない仕組みとなる。
(3)施設の体制・役割により加算:分娩1件当たりの基本単価を国が設定した上で、手厚い人員体制を講じている場合やハイリスク妊婦を積極的に受け入れる体制を整備している場合など、施設の体制・役割等を評価して基本単価に加算を設けることが適当である。
(4)現金給付:現行の出産育児一時金は(中略)保険診療以外の分娩対応の費用が出産育児一時金の支給額を下回る場合には、差額は妊婦に支給され、保険診療が実施された場合の一部負担金を含め、様々に発生する出産時の費用負担軽減に充てられている実態がある。
こうした保険給付の目的を引き継ぐ等の観点から、新たな給付体系において、分娩1件当たりの基本単価とは別に、すべての妊婦を対象とした現金給付を設けることが適当である。
(5)新給付体系への移行時期:(中略)妊婦が希望に応じて施設を選択できるようにした上で、当分の間、施設単位で現行の出産育児一時金の仕組みも併存し、可能な施設から新制度に移行していくことが適当である。
(以上、社会保障審議会医療保険部会・「議論の整理」から)
現金給付から現物給付へ
これまでの出産育児一時金という形での現金給付から、保険適用化へ移行し、10割を保険給付することで妊婦の自己負担をなくす。産科医療機関については、手厚い人員体制やハイリスク妊婦を積極的に受け入れる体制を整備している場合などには、保険の基本単価に加算を設け、医療機関に過度の負担がかからないようにする。一方、これまで出産育児一時金以下の費用で済んでいた場合は一時金との差額分を他の費用負担に充てていた実態があるため、すべての妊婦に対して現金給付を行うこととした。こうした新給付体系への移行については、当分の間は出産育児一時金の制度と併用され、現物給付が可能な施設から新制度に移行していくことになる。
これが上記(1)から(5)の内容。詳細については、今後、日本医師会、日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会と厚労省との交渉に委ねられることになるが、実質的には医会側の要望を厚労省がどこまで受け入れるかにかかっている、と言える。
妊産婦にすれば、現金給付で出産費用が賄える場合であれば、新たな給付体系になった場合でも自己負担ゼロは変わりなく、短期的にはそれほど関心がないことなのかもしれない。
しかし、家賃も人件費も高い都市部の医療機関ではこれまでは自由診療を前提としたコスト構造で施設が運営されていたものが、保険適用で全国一律の金額となると一気に経営が圧迫される可能性がある。
地域差のある人件費や設備投資を反映できなくなり、自由診療で提供してきた安全・安心のための付加的サービスも十分に評価されなくなるリスクも指摘されている(詳しくは昨年4月に公開された筆者記事を参照)。
関連記事:「世界一安全」な医療が崩れる!? 少子化に苦しむ“産婦人科”「出産費用の保険適用化」がもたらす“負”のシナリオとは
そして少子化の進行で産科医療機関の分娩の取扱件数そのものが減少しており、苦しい経営を余儀なくされている機関は多い。
日本産婦人科医会の副会長である前田津紀夫氏が、「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」の資料として作成した「『正常分娩』の保険化に対する日本産婦人科医会の考え方」によると、2023年、産科有床診療所(19床以下のベッドを持つ小規模な産婦人科施設)での分娩数は1万9072件減少し、1施設あたり年間844万円の減収となった。
また、2022年度の産科有床診療所のうち、経常利益が赤字の施設割合は約3割に達し、損益分岐比率は2022年度で99.5%まで上昇している(日医総研調べから、前田氏が抜粋)。
こうした状況をふまえ前田氏は「現在の日本の周産期医療は収益的には崖っぷち」(前出の前田氏資料から)と評した。ここで給付体系が大きく変更されれば、多くの機関で損益分岐比率が100を超え、赤字に転落することも予想される。
現金給付は5万円から10万円?
保険適用化を進めたい厚生労働省や保険者と、現金給付の制度の継続を望む医師会側は「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」や、その後の社会保障審議会で激しい意見の対立があったが、最終的には保険適用化+現金給付という、足して2で割る形の決着となった。給付方法が決まれば、問題となるのは給付内容。医会は各施設の維持を前提に、高い給付を求める。実際に昨年11月20日の社会保障審議会で、日本産婦人科医会の石渡勇会長は以下のように発言している。
「ローリスクの妊婦を中心に対応する施設でも経営を維持するよう、現在の出産一時金(50万円)よりも上乗せした給付をお願いしたいと思っております。
1次施設(産科医院・助産院・診療所等、低リスク妊婦を主に担当する医療機関)には公的な補助金、助成金はございません。全く企業努力のみで経営しているわけであります。したがって1次施設に配慮した給付水準としていただくことを強く要望いたします。
(中略)都市部だけを優遇するのではなく、お産難民がこれ以上発生しないように、地域で頑張っている先生たちが希望を捨てずに分娩を続けられるように、全国一律でなるべく高い水準の設定をお願いいたします」
そのため、医会側では正常な分娩でも現物給付+現金給付で少なくとも75万円を超えて、100万円近くまで求めるのではないかという見方が出ている。
一方、厚労省側は現物給付を現在の現金給付レベルか、多少上積みする程度、さらに現金給付は5万円から10万円程度で、合計55万円から65万円程度のレンジで考えているのではないかともささやかれている。
それらが事実であれば、その差は小さくない。どこまでその差を埋めることができるのか見通せない。
また、医会側にとっては、前述の(3)施設の体制・役割により加算されるという部分も見逃せない。
もっとも、安心・安全のためのコストをかけている、かけていないという線引きをどこでするのかは難しい。
日本産婦人科医会・石渡勇会長(撮影・松田隆)
産科医療機関の持続性そのものに関わる問題
新たな給付体系に関して、妊産婦の自己負担がゼロになるということにフォーカスされているせいか、マスメディアは総じて好意的に見える。産科医療機関が赤字に転落し、分娩取扱中止が続出するかもしれない危機にはあまり目が向けられていないのが現状のように感じられる。ある産婦人科の関係者は「24時間365日頑張って、地方でのお産の取り扱いをしてきた1、2名の少数医師の医療機関では既に気持ちが萎えているところもあり、順番にやめていくことでしょう。今後、公定価格での診療報酬では設備投資や施設・設備改修や建て直しなど、到底無理です。頑張るという気も失せてきているのが実情です」と語る。
こうした現場の実情をふまえれば、出産費用の制度設計は単なる財政調整の問題ではなく、産科医療機関の持続性そのものに関わるといえる。
少子化が進む中で産科医療機関の経営が厳しくなるのは事実であるが、医療は単なるサービス業ではなく、人の生命と健康を支える強い公共性を持つ分野である以上、需要と供給だけで存廃が決まる状態を放置すべきではない。
医師法19条1項は「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と、いわゆる『応招義務』を定めていることからも、産科医療機関は市場の原理に委ねて淘汰される存在ではなく公共的なインフラとして位置付けて、社会全体で支え、守っていく必要がある。医療機関の淘汰による最終的な被害者は妊産婦やその関係者であることを忘れるべきではない。
■ 松田隆
埼玉県生まれ。

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