富士通グループの派遣社員Aさんが「無期転換権を妨害されて一方的に転籍させられた」として起こしていた訴訟の控訴審(東京高等裁判所)で1月16日、和解が成立した。原告の転籍合意が無効であることが確認され、富士通は謝罪と解決金の支払いに応じた。

12年以上勤務も、虚偽の説明受け転籍

原告の男性は2005年に富士通子会社の富士通ビー・エス・シー(BSC)に派遣社員として登録。ネットワークエンジニアとして、2018年4月の時点で12年以上、富士通グループ各社に派遣される形で就業していた。
その後、Aさんは2018年7月には労働契約法18条に基づく無期転換申込権を取得。富士通BSCに無期転換の申し込みを行っていた。
しかし、Aさんによると、富士通BSCからは「BSCは無期転換の申し込みを拒否することが可能」「転籍に同意しなければ実体不明の契約社員となり、同年8月以降就業できなくなる」など虚偽の説明が行われたといい、その説明に基づいて転籍に同意させられたという。
さらに、Aさんは転籍後、事前に説明された労働条件と異なる取り扱いを受けたうえ、2022年7月に解雇された。
そこで、Aさんは2023年2月、富士通らを相手取り、労働契約上の地位確認や未払い賃金などを求めて東京地裁に提訴した。
一審判決(東京地裁、2025年3月12日)は、男性が無期転換申込権を行使していたこと自体は認めたものの、転籍合意における意思表示に錯誤・詐欺があったとする原告側の主張を退けた。

「富士通側に問題あり」と裁判官が指摘

しかし、控訴審では裁判官が和解を進言する際に「富士通側に問題があった」と明言。
Aさんは富士通側と以下の条件で和解した。
  • 転籍の合意は無効であり、Aさんは富士通に対する労働契約上の地位にあるとともに、2025年12月末で同社を合意退職する
  • 富士通が解決金を支払う(解決金の金額は非公表)
  • 富士通がAさんに対し転籍させたことを謝罪する
原告代理人の海渡(かいど)雄一弁護士は「判決で得られたであろう内容よりも、Aさんにとって有利な内容の条件となった」と評価。「和解という形ではあったが、ほぼ全面勝訴だと思っている」と述べた。

「2018年問題」として全社プロジェクト化

原告側は今回の事件の背景に、富士通内の「2018年問題」があったと主張している。
改正労働契約法では、有期契約が通算5年を超えた労働者には、申込みにより期間の定めのない雇用契約に転換できる権利が認められており、2018年4月から多くの派遣・契約社員に無期転換申込権が発生した。
しかし、Aさんによると、富士通社内ではこの無期転換行使を「2018年問題」と呼び、「全社プロジェクト」として無期転換をさせない方策を進めていたといい、その一貫として、富士通BSCの派遣事業を切り離して新会社「FUJITSU UT株式会社」(後のFJUTプラス)を設立。
その株式の51%を人材派遣大手・UTグループに譲渡したとしている。
また、UTグループの投資家向け資料には、富士通だけでなく他の大手製造業からも無期転換権の発生する社員を受け入れていることがうかがえる記載があり、原告側は「本来は無期転換できる社員を、大企業がUTに売り飛ばす目的で作られた仕組みだ」と批判。
さらに、原告側によると、Aさんは、転籍をさせられた際に就業規則の提示を何度も求めたものの、富士通側からは最後まで就業規則が提示されなかったという。
労働基準法では、使用者が労働者に対して労働条件を明示することが義務付けられており、Aさんのケースでは、就業規則そのものが存在しない可能性も指摘されている。
また、富士通BSCからFUJITSU UTへ転籍したのはAさんを含めて当時62人だったが、このうち、無期転換権を行使できる勤続5年以上の社員が15人いたものの、誰一人として無期転換は実現しなかったという。

「せっかく作られた法律の目的が全く果たせていない」

Aさんは会見で配布した資料の中で次のようにコメントしている。
「(今回の事件は)大企業が法律を捻じ曲げ、絶対に無期転換させないようにできてしまった、つまり大企業が法律を蔑ろにできたという事件であり、せっかく作られた法律の目的が全く果たせていないということを意味します。
ですので、今後は企業がこのような脱法スキームを作れないよう、国にはしっかりとした法整備をしてほしいです」(Aさん)
なお、富士通は弁護士JPニュース編集部の取材に対し「コメントは控える」と回答した。


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