大阪府泉大津市の多目的施設「泉大津フェニックス」で、釣り人が立入禁止区域にフェンスを越えて繰り返し侵入しているとして、管理者の堺泉北埠頭株式会社が「1回あたり22万円の施設利用料を請求する」と警告し、SNS上で大きな議論を呼んでいる。
“最終警告”と題した掲示には「50回侵入なら最大1100万円」という具体的な金額も示されており、インターネット上では「高額すぎるのでは」「裁判になれば減額されるはず」という疑問の声と、「立入禁止の場所に入る方が悪い」「管理者の負担を考えれば当然」という意見が対立した。

管理者は、どのような思いで「警告」を出したのか。施設を管理する堺泉北埠頭に現状を聞くとともに、自身も釣りが趣味であるという酒向滉也(さこう こうや)弁護士に、この請求額の妥当性や無断侵入に伴う刑事・民事の責任について、専門家としての見解を仰いだ。

運営開始当初から続く不法侵入

泉大津フェニックスは、約8ヘクタールの広さを持つ多目的広場で、イベントやスポーツ大会、フェスなどに使われる有料の貸し会場だ。 堺泉北埠頭は2024年2月から大阪府から預かる形で運営管理を担っている。
同社施設管理課の担当者によると、運営開始当初から、釣り客と思われる人物がフェンスを乗り越えて侵入する様子を監視カメラで確認してきたという。
「当初は『不法侵入があれば監視カメラの映像を警察に提供します』といった文書を添えた看板を設置していましたが、より強く注意を促すために2024年の夏頃、現在の文書の掲示を行いました」と担当者は説明する。
現在掲示されている文書では、「無断侵入が判明した場合、個人を特定の上、施設利用料として22万円×回数を請求することがある」と警告している。

侵入による事故リスク「強く危惧」

この22万円という金額は、同社の施設使用料金表における「学生・市民利用」で全体面積8ヘクタールを1日利用した場合の設定額だという。
「50回というのは、仮に50回侵入された場合という例示で、50回侵入が確認できれば22万円×50回=1100万円という計算になります。ただ、実際に請求するかどうかは、現時点で当社として方針を決めているわけではありません」(同社担当者)
一方で、同社が重く見ているのは金銭的な問題だけではない。
「現時点で侵入者による施設の汚損や損壊といった実被害は出ていませんが、柵を乗り越える際に転落したり、管理用地内やその先の釣り禁止エリアで事故に遭ったりすることを強く危惧しています。
不法侵入が不法侵入を呼び、施設に落書きや破損、ボヤ騒ぎなどが生じる恐れもあり、厳にお断りしたいというのが本音です」(同前)

“建物”に侵入していなくても、法的リスクが生じる恐れ

では、立入禁止区域への無断侵入には、法的にどのような責任が生じるのか。酒向弁護士はまず、刑事責任について次のように解説する。
「フェンスなどで囲まれた有料施設の敷地内に、管理者の意思に反して入る場合、建造物侵入罪(刑法130条)が成立する可能性があります。
建造物侵入罪というと、建物に入った場合に成立する犯罪というイメージがありますが、フェンスなどで囲まれた有料施設の敷地内に無断で侵入する場合でも、成立する犯罪名は建造物侵入罪です。

また、敷地内に全く建物がない場合には、建造物侵入罪ではなく、軽犯罪法違反(同法1条32号違反)として刑事責任を負う可能性があります」
次に民事責任について、酒向弁護士は次のように説明する。
「民事上、釣り人は、施設側に対し、正規に利用していた場合に支払が必要となる、入場料や施設利用料相当額の損害賠償責任を負う可能性があります。
また、釣り人がフェンスを壊して当該敷地内に侵入するなど、施設側の設備を破損させて侵入した場合には、その修繕費用等の損害賠償責任を負う可能性があるでしょう。
さらに、釣り人の利用により、施設の営業に支障を及ぼしている場合には、営業損害として、一定の金額を請求される可能性もあります」

「22万円×回数」がそのまま認められるとは限らないが…

ただし「22万円×回数」の請求がそっくりそのまま認められる、というわけではないようだ。
「今回のように、管理者が警告文などによって『22万円×回数の施設利用料を請求する』と警告していても、裁判になった場合、当然に管理者の言い分どおりの施設利用料の請求が認められるわけではありません。
管理者側が侵入者に対して請求できる施設利用料は本来、侵入者が正規に利用した場合に負担すべきであった施設利用料金に限られると考えられます」(酒向弁護士)
では、どのように金額は決まるのか。酒向弁護士は以下のように解説する。
「その金額は、無断で利用した施設の設備、利用方法、利用時間等をもとに判断されます。
端的にいえば、侵入者が無断で利用した実態に即して判断されるため、施設側が主張する金額が、実態にそぐわない高額なものである場合には、実態に即した限度でしか認められないこととなります」
つまり、裁判所は無断利用の具体的な状況を見て、「その行為に見合う金額」を判断することになる。
「本件で、仮に施設管理者側が、無断で侵入した釣り人に対して請求した場合、その釣り人がどの程度無断で利用していたかによって、請求が認められるかどうかが変わってくると思います。
もちろん、施設利用料だけではなく、そのほかにも損害が発生した場合には、その分も含めて支払う必要が生じるので注意が必要です」(酒向弁護士)


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