当初、従業員は「不当に解雇された」と考え、労働基準監督署の是正勧告を経て「解雇予告手当」を受け取る。
しかし、“真の争点”はその先にあった。合意書へのサイン後、自身が最低賃金以下で働かされていたと知った従業員が、最低賃金との差額にあたる未払い賃金等の支払いを求めて提訴。裁判では、一度はサインした「請求放棄の合意」が有効なのか、それとも労働者の「自由な意思」が欠けていたとして無効になるのかが争われた。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
Aさんは70歳を超えてから、自動車製造業などを営むX社で働き始めた。Aさんの日給は6000円(日給が6000円か7000円かについては争いがあったが、裁判で6000円と認定された。詳細は後述)で、時給換算すると750円。X社が所在する地域の当時の最低賃金である時給762円を下回っていた。
約16年後、AさんとX社の労働契約が終了する。
■ 解雇予告手当の請求
退職から約2か月後、Aさんは「自分は解雇された」として、X社に「解雇予告手当を払ってほしい」との請求書を送付した。
労働基準法20条1項本文(※)は、会社が従業員を解雇するには30日以上前に解雇を予告しなければならず、それ未満の期間内に解雇する場合には「解雇予告手当」(30日分以上の平均賃金)を支払わなければならないと定めている。
※労働基準法20条1項本文:使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。
Aさんは「X社から解雇され、しかも、その予告が30日未満の日程でなされた」という認識を持っていたのだろう。
しかし、X社がAさんの送付した請求書を無視したのか、その後、Aさんが労働基準監督署に駆け込んだ。そして、労働基準監督署がX社に対して「是正勧告書」を交付した。
■ 「今後一切の請求をしない」合意書にサイン
翌日、AさんがX社を訪問し、取締役と面会する。取締役は「労働基準監督署から是正勧告を受けたので解雇予告手当を支払う」と述べ、次の内容が記載された合意書を示した。
【誓約書および確認合意書】
私は●年●月●日で貴社を退職しましたが、下記事項についてここに誓約し、また確認合意しました。
1.本日貴社より受領しました10万8810円をもって、貴社と私との間に何らの債権債務がないことを確認し、今後貴社に賃金等一切の請求をすることはありません。
2.今般の退職に際し、異議・不満なく承諾し、その後何らの申し立てや問題化しないことをここに誓約します。以上。
Aさんは、この合意書に署名押印。そして解雇予告手当の10万8810円を受け取った。
しかし、その後Aさんは、自身が最低賃金未満で働かされていたことに気付いたのだろう。再びX社に請求書を送る。そして、X社は追加で約21万円を払ったものの、Aさんの不満は収まらず、最低賃金で算出した本来の解雇予告手当との差額、およびX社で働いていた約16年間の未払い給与の支払いを求めて提訴した。
裁判所の判断
裁判所はX社に対して「約34万円を払え」と命じた。3つの争点について順に解説する。争点①:日給はいくらか?
日給について、Aさんは「7000円」、X社は「6000円」との認識を示した。
これについて、裁判所は、Aさんが書いていたノートに「日給1日あたり(3月分だけ7000円)~(4月より6000円)」との記載があったことを根拠に「たしかにX社の言うとおり6000円で合意している」と判断した(※筆者注:「3月分」は入社した月のこと)。
争点②:最低賃金を下回っていないか?
裁判所は、Aさんの給料(日給6000円、時給換算で750円)が最低賃金を下回っていたことに着目。「最低賃金で計算すると、約16年間の給料と解雇予告手当を合わせて約55万円が未払いである。X社はすでに約21万円をAさんに払っているので、残り約34万円を払え」と命じた。
争点③:合意書の効力は?
裁判において、X社はAさんが「今後賃金等一切の請求をしない」との合意書にサインしており、これ以上は請求できないはずだと述べている。
しかし、裁判所は「Aさんの自由な意思に基づいたサインとは言えないから、和解契約は成立していない」と、X社の主張を退けた。
■ 解説
給料を放棄する合意は「労働者の自由な意思に基づく」ことが必要とされている(シンガー・ソーイング・メシーン事件:最高裁 S48.1.19)。
給料を放棄することは「異常事態」であるため、裁判所は「本当に従業員は納得していたのだろうか?」と極めて慎重に検討する。
最後に
本件は、「最低賃金の遵守」と「退職時の合意書の効力」という、労働事件で非常に重要なポイントが重なった事案だ。最低賃金を下回る賃金で働かせることは、どれほど長期間にわたり労使間で黙認されていたとしても「違法」であり、労働者の請求権が失われることはない。
また、「これでお互い文句なし」といった書面にサインしたとしても、労働者が内容を正確に理解していない場合や、自由な意思でサインしたと言い難い場合は、効力が否定されるという点も、極めて重要である。参考になれば幸いだ。

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