41歳の警察官が、仙台市内のファストフード店で迷惑行為をしていた客の対応中、顔面を殴って全治1か月のけがを負わせ、減給の懲戒処分を受けた。報道によれば、同事案は2025年7月のことで、「挑発され怒りが頂点に達し、手が出てしまった」という。

ネット上で目立った“同情”の声

挑発されたとはいえ、一般人に対する暴力は警察官としてはあるまじき行為。ところが、この報道に対するネット上の反応は、“同情”する声が目立った。
「暴力はいけなかったけど、気持ちはとても分かります。悪いのは迷惑で挑発をした客の方です」
「理不尽に我慢することも警察官の仕事なんだろうか?そんなわけないよね」
「悪態ついたり、挑発する方に対しても公務執行妨害でワッパ(手錠)かけられるようにしてほしいです。結果的に手を出した警察官は処分されて然りかもですが、依願退職しないでこれからも頑張ってください」
こうした反応が多かった背景には、事件発生時の状況も関係しているかもしれない。報道によれば、対象の相手は午前5時過ぎにファストフード店で酒に酔い、寝込むなどの迷惑行為をしていたという。
そこで当該の警察官が対応したが、従わないどころか挑発行為までされ、怒りが頂点に達し、手を出してしまった――。

警察OB明かす、現場の困った人々

実際のところ、こうした取り締まり対象相手からの警察官に対する荒くれた対応はよくあるのか。『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の著者で、約20年在職した元警察官の安沼保夫氏は次のように明かす。
「よくあります。私も何度も経験しました。特に留置場では常に被留置者と接しているため、たまにモンスタークレーマーがいると地獄です。あと警察の受付をしていると電話でも“カスハラ”がよくあります。
舐められやすいのは、経験も浅く若く見られる卒配時ですね。
私も駆け出しのころ、慣れない夜勤を終えてフラフラになりながら自転車で交番に帰る途中、自転車2人乗りの少年に出くわした際、疲れすぎてスルーしたら『注意しろよ!』と逆切れされました。
こんな警察官よりは当該の警察官の方がよほど頼りになると思います」
警察官は手を出してこない。そうした部分を見透かすように、警察官を前にすると空威張りするような不届き者が多いのも実情のようだ。

「法律論争にも応じるな」どこまでが我慢の限界?

では、警察官はそうした相手に対する対応をどこまで我慢するのか。安沼氏が続ける。
「一般人には手出しをしないのはもちろんのこと、『法律論争にも応じるな』とよく言われました。ただ、相手が手を出してきた場合には、事情は変わってきます。身を守る必要がありますから」
限界まで冷静さを保ち、忍耐が基本のようだが、警察側も悪質な相手に対し、完全に無防備というわけではないという。
「いわゆる“カスハラ対策”の一環と思われますが、警察署の電話は、いまほとんど音声案内になってます。受付にたどりつくまでにいくつかのステップを踏む必要があります。
これはクレーマー対策に効果があると思います。一方で私は、不慣れなお年寄りが相談をしたいときに困るのではないかとも思っています」
なお、警察官に対する“カスハラ”を働いた場合、場合によっては2つの犯罪が成立する可能性があることに留意する必要がある。

まず、威力を用いて人の業務を妨害した場合に成立する「威力業務妨害罪」(刑法234条、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)。判例は、警察による被疑者の逮捕など「強制力のある権力的公務」を除き、公務は威力業務妨害罪の対象となるとしている(※)。したがって、本件のような、警察官に対する“カスハラ”については、同罪が成立する可能性が考えられる。
※大塚裕史ほか『基本刑法Ⅱ 各論 第4版』(日本評論社)P.110~113参照
次に、威力がエスカレートして暴行・脅迫を用いた場合には、威力業務妨害罪に加え、「公務執行妨害罪(公妨)」(刑法95条1項、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)も成立しうる。
安沼氏はこの2つの罪について、「警察官に対して威力業務妨害というのはあまり聞かないです。また、一部のベテラン警官の間では公妨は恥として認識されています。私も公妨で検挙できる機会がありましたが、しませんでした。笑いものですから。
もちろん警察官に悪意を持って攻撃し、時には命を狙ってくる輩もいますので、そういった者は確実に公妨で逮捕すべきです」と補足した。
■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。
20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。


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