外資系生命保険大手のプルデンシャル生命において、1991年~2025年の間に100名を超える営業社員が顧客から総額約31億円をだまし取っていたことなどが判明した問題で、金融庁が28日、同社に対し、保険業法に基づく立ち入り検査に入った。調査結果等を踏まえ、業務改善命令や業務停止命令などの処分が検討されることになる。

それに先立ち、同社は24日に東京都内で記者会見を開いた。会見で間原寛社長は、一連の問題の背景として、営業社員の報酬制度が営業成績に連動する「完全歩合制(フルコミッション)」を基本としていること、顧客との関係が「密室化」していること等を挙げ、報酬制度の見直し、管理体制の強化を行う考えを示した。また、顧客に返還されていない金銭について専門家で構成する第三者委員会を設置し、補償を行う方針であると述べた。
他方で、会見場での質問を当初「日銀記者クラブ加盟社」等に限るとしていたなどの高圧的・閉鎖的な姿勢、重要な点についてしばしば回答を拒否したこと、不正行為が繰り返し発生していたことを知りながら長年にわたり「個別の問題」と扱い抜本的な対処を行わなかったこと、第三者委員会による調査を行う予定がないとしたこと等、様々な点について批判を浴びている。
一連の不祥事はプルデンシャル生命に特有の問題なのか、それとも保険業界全体にかかわる問題なのか。プルデンシャル生命と同様の「フルコミッション制」をとるX生命で約4年間にわたり営業マンとして働いた経歴をもつA氏(40代前半・男性)に話を聞いた。
A氏はX生命を退職後、保険代理店の営業マン、保険会社の代理店担当者(ソリシター)等を経て、現在は生命保険とは無関係の不動産業界で働いている。

「元司法試験受験生」のフルコミッション営業マン

A氏がX生命に入社したとき、同期入社の男性の営業マンは40名近くいたが、そのうち、退職時に残っていたのはA氏1人だけだったという。
これは、フルコミッション制の営業がきわめて過酷であることを物語っている。
A氏はなぜ、厳しい世界に敢えて飛び込んだのか。
A氏はもともと司法試験受験生だった。法曹の夢をあきらめ撤退した時は30歳になっており、就職活動には苦労したという。最初に正社員として就職したのがある大手電機メーカーのコールセンター。
給与は低かったが、腐らず、商品・サービスの知識を必死に勉強し、顧客一人一人に丁寧に向き合うことを心掛けた。
その結果、顧客の相談への対応やクレーム処理等のスキルが向上し、上司からの評価も高かった。しかし、給与がなかなか上がらなかった。
そんな折、A氏は、X生命に転職し営業マンをしていた元同僚から「うちなら青天井で稼げるよ」と声をかけられたという。
A氏:「話だけならと思い、元同僚と一緒にその上司の営業所長と面談しました。そうしたら、所長がすごくいい人で、仕事内容にも魅力を感じたので、入社することにしました。
顧客のニーズをくみ取り、そこにどのような商品・サービスがフィットするか考えることは、司法試験の勉強の『法律の解釈、事実認定』等に通じるところがあると思いました。また、何より、生命保険は国の社会保障制度でまかないきれない保障を提供する重要なインフラとして機能しているので、それを扱うことに魅力を感じました」
とはいえ、X社の営業マンはフルコミッション制。初期には固定給が支給されるが削減されていき、3年経てばゼロになる。A氏は顧客を自分で見つけなければならなかった。
A氏:「家族、親戚、友人・知人のリストを作りました。また、いろいろあって運よく、とある職域のツテを得ることができました。
そこから紹介をいただいて、広げていきました。
友人・知人に連絡して、会ってくれた人に保険の話をして営業したら、中には絶交された人もいました。断られたら『こんなにいい商品で、加入すればメリットが大きいのに、かわいそうな人だ』『こんなことで離れるならそこまでの人間関係だ』などと本気で思い込んでいました。
しかし、今思えば浅はかでした。後で他の保険代理店に就職してから、X生命の保険商品が他社と比べて優れていると言えないことに気付きました。プルデンシャル生命の保険商品にもほぼ同じことがあてはまります。
同業他社の営業マンと比べて、かなり不利な土俵で戦っていたことになります。でも、当時は気付きませんでした」

痛感した「教育体制の不備」

それでもA氏は、自身の努力に加え、持ち前の人当たりの良さもあり、紆余曲折を経て、X生命の営業マンとしてそれなりの実績を挙げられるようになった。
しかし、その過程で、営業マンとしてわが国の社会保障制度、税金、投資、金融等の知識が必要不可欠と思われるのに、会社の教育体制が不十分であることを実感したという。
A氏:「私のときは、入社後の研修はおよそ1か月間でした。まず、販売する保険商品の知識をしっかり身に付けます。あとはお客様とのトークの広げ方、信用される喋り方といった営業スキルについて、バイブルのような冊子を使って学習します。
公的制度などの勉強はある程度はやりますが、みっちりやるというわけではありません。
それらを織り込んで計算できる高性能な設計ソフトがあるので、それで十分だと考えられていたのかもしれません。
営業マン有志の勉強会はさかんに開かれていましたが、それも『どうしたら売れるか』というものが多かったように思います。
私自身は、公的制度を自分の頭で理解しないままお客様に提案するのが怖かったので、自分で本や信頼できるウェブメディアの記事を読んだり、公的機関のHPで調べたりして勉強しました。でも、本来は保険会社が責任を持って、小手先の営業スキル以前に、みっちりと営業マンに叩き込むべきことだと思います」

「顧客に必要なもの」ではなく「売りたいもの」を売る営業マンも

A氏は、X生命の営業マンのあり方は、プルデンシャル生命と共通する部分が多かったという。
A氏:「『契約を獲得することが正義』という風潮がありました。『2W』といって、1週間に2件契約の獲得を目標とすべきと言われていました。もう少し古い世代だと『4W』だったらしいですが、厳しすぎて退職者が続出したので『2W』になったようです(苦笑)。
でも、重要なのは契約の獲得件数ではないはずです。お客様の役に立ったかどうかです」
とはいえ、顧客の利益になる保険を提案し、契約を獲得しても、必ずしも自身の利益に大きくつながるわけではなかったという。
A氏:「私が担当したお客様で一番多かったのは30代の子育て世代です。お金に余裕がなく、また、働き盛りで、万一があると家族が経済的に困窮するリスクが一番大きい世代です。なので、安い保険料で大きな死亡保険金額を設定できる掛け捨ての生命保険を提案することが多かったです。
掛け捨ての保険は保険料が安いので、契約獲得数の割には、私の実入りはそれほど多くはありません。
でも、お客様に最も必要なものと考えると、保険料の高い貯蓄性のある『終身保険』(※)などよりも、優先順位が断然高いので、そうせざるを得ません。
他の営業マンの中には、顧客が必要とするものではなく、自分が得意なもの・売りたいものを提案しているとしか思えない人も見られました。近年、『米ドル建て保険』『変額保険』などの貯蓄性の保険を、お客様のニーズもリスク許容度もわきまえず販売するケースが問題になっていますが、それと疑われるケースも耳にしたことがあります。
そういう営業マンは、もともと『カネがすべて』で顧客軽視なのか、知識や理解が不足しているのか、もしかしたらその両方だったのか、私にはわかりません。
しかし、いずれにしても、会社の教育体制・チェック体制の不備と、数字さえ上げられればいいという体質が原因だと思います」
※保障が一生涯続く生命保険。保険料の払込期間を「60歳まで」などと設定し、払込期間満了後に解約するとまとまった額の「解約返戻金」を受け取れるので、貯蓄性保険の一種とされる。

「フルコミッション」は営業マンの不祥事を生む温床

A氏は、フルコミッション制度こそがプルデンシャル生命の不祥事を生んだ温床と考えられ、同様のシステムをとる他社にとっても決して他人事ではないと指摘する。
A氏:「前述のように、X社の保険商品は他社と比べて優れているとはいえません。しかも、これも後で保険代理店に転職してから知ったのですが、保険の契約を獲得した場合の手数料率(コミッションの額が年間保険料の額に占める割合)はそれほど高くありません。
プルデンシャル生命も似たようなものだと思います。一社専属のフルコミッションの保険営業マンは、かなり厳しい状況での戦いを強いられています。
そんな中で、契約がなかなか獲得できない人は収入が得られず、逆にたくさん稼ぎたい人は、ある程度無茶しなければ稼げないということで、どちらにしても、魔が差すことがあるのではないかと思います」
プルデンシャル生命が、1990年代から営業マンの不正が断続的に発生していることを認識しながら、抜本的な対応をとってこなかったことについては、「100人以上の営業マンが不正を行っていること自体、個人の資質の問題ではなく組織の構造的な問題であることが明らかなのに、漫然と放置し対応を怠った」との厳しい見方を示す。

A氏:「生命保険というしくみは素晴らしいものだと思います。また、私は保険の仕事を通じてお客様の役に立ってきたという自負があります。
それでも私が退職したのは、会社や保険業界の体質に疑問を感じ、自分の力ではどうにもならないと思ったのに加え、この仕事を長く続けていく自信が持てなかったからです。
生活が安定しないし、肉体的にも精神的にも厳しくて追い詰められるし、割に合わないと感じました。その決断は正しかったと思っています」


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