事故機は前年に導入されたばかりの最新鋭ジェット機、ボーイング727。引き揚げられた機体を徹底的に調査したが、原因となる欠陥は見つからなかった。最終報告書は「原因不明」という、極めて異例の結論で結ばれることになる。
しかし、この「原因不明」という言葉の裏には、1960年代の航空業界が抱えていた、「新しい時代への移行期」特有の問題が潜んでいた。そして興味深いことに、原因を特定できなかったにもかかわらず、この事故をきっかけに航空安全は大きく前進することになる。(本文:島崎敢)
「現在ロングベース」応答を最後に“消えた”60便
プロペラ機の2倍以上の速度と高度で飛行できるジェット機は、当時の人々にとって「未来の乗り物」そのものだった。全日空は「東京-札幌間60分」と大々的に宣伝していた。事故当夜、視界は良好。経験豊富な機長は、管制官が指示する遠回りのルートではなく、東京湾上空を直線的に横断するショートカットを選択した。
当時は燃費削減や時短のため、視界が良ければこのような「目視での近道」が推奨されていたのである。
千歳空港を定刻に出発した60便は、順調に飛行を続けた。午後7時、管制官との最後の交信で副操縦士は「現在ロングベース」と応答した。
後続機が次々と着陸する中、60便の姿はどこにも見えない。午後7時30分、捜索救難体制が発令された。そして午後11時過ぎ、東京湾上で機体の残骸が発見される。
その後の捜索で機体の大部分が引き上げられ、調査が行われたものの、結局機体の異常は見つからなかった。
高度計に潜んでいた“重大な欠陥”
この事故で大きな問題として浮上したのが、当時の高度計の設計だった。1960年代の高度計は、時計のように3本の針で高度を表示していた。短い針が1万フィート(約3000メートル)、中くらいの針が1000フィート(約300メートル)、長い針が100フィート(約30メートル)を示す。一見すると合理的な設計に思えるが、これには人間工学的に重大な欠陥があった。
問題は、着陸に向けて高度を下げている最中に起きる。着陸進入中のパイロットは、高度だけでなく、速度、進路、他の航空機との距離、管制官との交信など、多くのことに同時に気を配らなければならない。
さらにジェット機はプロペラ機の約2倍の速度で飛んでいるため、高度の変化も速く、針も速く回転している。回転する長い針に気を取られて、中くらいの針を1メモリ読み間違えてしまうと、それだけで1000フィート——約300メートルもの誤差が生じてしまう。着陸進入中の航空機にとって、300メートルの高度差は致命的である。
この三針式高度計の問題は、人間工学における失敗例として現在でもよく引用される。
実際、この時期に発生した複数の航空事故で、高度計の読み間違いが疑われている。この教訓から、現在の旅客機では高度を数字で直接表示する方式のみが許可されており、三針式高度計は商用航空機から姿を消した。
プロペラ機とは違う、ジェット機の“クセ”
もう一つの大きな問題は、ジェット機特有の「クセ」だった。ボーイング727は、地方の短い滑走路でも着陸できるように、高い揚力を生む大型のフラップ(翼の後縁から展開する板)が装備されていた。
このフラップは確かに強い揚力を生むが、同時に大きな空気抵抗にもなる。そのため速度が落ちすぎて、思った以上に高度が下がってしまうという特性があった。プロペラ機に慣れたパイロットに、これらの特性が十分に理解されていなかった可能性がある。
実際、アメリカでは、ボーイング727による事故が1965年だけで3件発生している。
さらに厄介だったのが、エンジンの反応の遅さである。プロペラ機ではレバーを動かせば即座に推力が変わるが、当時のジェットエンジンがフルパワーに達するまでには数秒を要した。先程の予想以上の降下が低い高度で起きた場合、降下を食い止めるためのエンジンの出力上昇が間に合わない可能性があったのだ。
現代の飛行機ではジェットエンジンは反応も格段に速くなっているし、失速のリスクが高まる危険な組み合わせ(フラップの角度とエンジン出力など)は、システムが自動的に回避するようにできている。しかし当時は、すべてがパイロットの判断に委ねられていた。
「機長の判断が絶対」現在とは違う役割分担
そして、管制システムにも限界があった。現代では飛行機のセンサーから高度の情報が常時自動的に管制塔に送られるため、管制官も高度をモニタリングできるのだが、当時のレーダーでは、飛行機の位置は見えても高度は把握できなかった。
管制官が飛行機の高度を知るには、パイロットに無線で尋ねるしかなかった。パイロットが高度計を読み間違えていれば、管制官にも間違った情報が伝わってしまう。そして実際に60便が危険な低空を飛んでいても、管制官はそれに気づくことができなかったのである。
さらに当時の航空業界には、パイロットの経験と勘を重視し「機長の判断が絶対」とする雰囲気があったようだ。この事故では、コックピット内でのやり取りが残っていないため、あくまで推測の域を出ないが、当時の一般的な状況から考えると、クルー内の役割分担に問題があった可能性が浮かび上がる。
現代のCRM(クルー・リソース・マネジメント:コックピット内での役割分担を効率的に行う考え方)では、機長が操縦に集中している間、副操縦士が高度計を監視するといった明確な役割分担が決められる。さらに、クルーの誰もが気づいたことを躊躇なく声に出せる文化も重視されている。
しかし1960年代には、こうした考え方はまだ確立されておらず、機長が全てを取り仕切るような運用がなされていた可能性がある。この便の機長が、全日空の中でもエース級の腕利きパイロットだったことも、役割分担や間違いの指摘を妨げていたかもしれない。
義務化されていなかったブラックボックス
そして事故機には、ブラックボックスが搭載されていなかった。ボイスレコーダーやフライトデータレコーダーといった、現代では当たり前の装置が、当時は義務化されていなかったのである。このため、パイロットが最後に何を見て、何を考え、どのような操作をしたのかを知る術がなかった。これが60便の事故が「原因不明」になった主な要因だろう。
高度計の読み間違いの可能性、ジェット機特有の急激な降下、エンジンの反応の遅さ、判断ミスの可能性、機体の特性——状況証拠となる要素はいくつも浮かび上がった。しかし、ブラックボックスがないため、これらのうち「何が決定的な原因だったのか」を証明するものがなく、「原因不明」と結論づけざるを得なかったのである。
しかし興味深いのは、冒頭の通り「原因不明」とされたにもかかわらず、この事故を受けて多くの安全対策が実施されたことだ。
“すべてのリスク”に対策を
当時の航空安全の専門家やエンジニアたちは、「これが原因だ」と断定できなくても、「これも原因になり得る」という姿勢で一つ一つの問題に向き合うことで、同じような事故を防ごうとしたのだ。まず、ブラックボックスの搭載が航空法で義務づけられた。
飛び方のルールも厳格化された。管制官の指示に従う計器飛行が徹底され、パイロットの判断での「近道」や目視に頼る飛行は禁止された。高度計も改良され、読み間違いが起きない表示方式への移行が進められた。地面に近づくと機械が自動的に警告する地上接近警報装置や、失速を自動的に回避するシステムも導入されていった。さらに、機長一人の判断に頼らず、タスクを分担させるCRMの考え方も徐々に確立されていく。
「墜落」「全員死亡」「原因不明」などのキーワードだけを聞くと、オカルトめいた出来事を連想してしまう人もいるかも知れない。しかし、現代の空の安全は、60年前に発生した133名の犠牲の上に、幾重もの防御壁を築くことで守られている。
かつての「職人(機長)の勘と経験」に頼る時代から、「データとシステムが人間を支える」時代へ。そして「機長が絶対」の時代から、「チーム全員で安全を守る」時代へ。
60年という月日は、航空安全に携わる人々が「人間は間違える。だからこそ、間違えても墜落させない仕組みが必要だ」という思想と向き合い続けてきた歴史でもある。
ボーイング727はその後、世界的なベストセラー機として活躍した。1984年までに1832機が生産され、その知見は後継機であるボーイング737の設計へと受け継がれた。
当時、事故原因を特定できなかったことは、確かに調査上の汚点だったのかもしれない。しかし、それでも考えられるすべてのリスクに対策を講じるという地道な努力の積み重ねが、今日の航空安全を支えている。
■島崎敢
1976年東京都生まれ。早稲田大学大学院にて博士(人間科学)取得。同大助手、助教、防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学特任准教授を経て、近畿大学准教授。元トラックドライバー。全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など、多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学~本当の確率となぜずれる~」(光文社)等。

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