「発達障害」理由の解雇やアウティングは「違法」、障害者事業所に80万円賠償命令 賃金請求は認められず
横浜市内の障害者介護事業所で働いていた男性が、発達障害を理由に不当に解雇されたとして事業所側に慰謝料など損害賠償(計300万円)と未払い賃金を請求した訴訟の判決が1月29日に言い渡された(横浜地裁)。
判決では慰謝料80万円の支払いが命じられた一方、解雇後に就労できなかった期間の賃金請求は認められなかった。
代理人の土田元哉弁護士は「障害者差別について一応は正面から認めた判決になっている」としつつも、控訴する方針を示した。

発達障害を明かした直後に解雇される

本件の被告は、重度身体障害者の在宅介護派遣を行う事業所を運営する有限会社である。原告は、発達障害の一つである自閉スペクトラム症を有し、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている男性。
男性は2018年から事業所に雇用され、重度訪問介護の派遣ヘルパーとして働いていた。雇用契約時に実施されたアンケートには「得病・障害等について」という設問があったが、発達障害があることを記載していなかった。しかし、問題なく勤務を続けられていたという。
2021年8月、勤務時間が減少していると感じた男性が、時間の延長を求めて事業所の代表と面談した。その際に、自身に発達障害があることを初めて明かしたところ、上述のアンケートに記載しなかったことが「虚偽の報告または申告」であり就業規則違反にあたるとして、8日後に解雇された。
その後、事業所は労働組合と団体交渉を行い、解雇を撤回した。しかし、男性は自身の解雇を行った責任者である代表(重度障害者)の下でヘルパーとして働くことを命じられる。これについて原告側は「安全配慮に欠けた業務命令」と主張。
「実質的な復職調整が行われず、組合員は復職を阻まれている」として、解雇の差別性による損害賠償等を求めて2022年11月に提訴した。
発達障害であることを事業所に開示した直後に解雇されたことは「障害者であること」を理由とした不当な差別的取り扱いにあたるとして、人格権侵害に対する慰謝料約200万円を請求。

また、被告代表者が男性の発達障害を本人の同意なく複数の従業員に伝えた行為(アウティング)2件について、プライバシーと人格権が侵害されたとして、1件につき50万円の慰謝料も請求した。
さらに、男性は2022年2月以降就労できていないが、これはシフト表の提示をしないなどの就労妨害を行った被告側に責任があるとして、1か月あたり約13万円の未払い賃金も請求した。

解雇や「アウティング行為」の慰謝料は認められたが…

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原告男性(1月29日都内/弁護士JPニュース編集部)

訴訟にて被告側は、就職時のアンケートで発達障害を記載しなかったこと(不実記載)が解雇の直接の理由であると主張。
しかし判決では、事業所の雇用者には原告男性の他にも就労にあたってスキルなどについて不実申告を行ったケースがあったが、これまで不実申告を理由として解雇した例はなかったことを指摘。
また、男性が就労してきた3年間、具体的な問題が指摘されていなかったのに、発達障害を明かした翌日には代表が解雇を決断していた経緯などから、解雇の理由は男性が発達障害であることしか考えられない、と判断。違法な解雇であるとして、50万円の慰謝料を認めた。
また、アウティング行為については、2件中1件のみ、30万円の慰謝料を認定した。
一方で、労働組合と被告との間で雇用契約終了を前提とした協議が重ねられていたこと、男性がシフト希望を提出しない時期があったこと、被告が提示したシフトを男性が断っていたことなどから、未払い賃金の請求は認めなかった。
土田弁護士は「発達障害というセンシティブな問題について、ある種の示唆を行う判決にはなっている」とコメント。
一方で賃金請求が棄却されたことについては「労働者をどうやって安心な環境に復帰させるかというのも、労働関係の問題では重要なトピックとなる。特に今回は、障害者差別という、絶対に許されない行為に基づく解雇」と指摘し、不服を示した。
原告男性も、自身に解雇を言い渡した被告代表者のもとで働くことを命じられたことについて、「(被告は)私が介助者としてケガする可能性などをなにも考えていなかった」とコメント。

「そんなところで働き続けられないし、そこを考慮しない裁判所の判断もおかしいと思う」(原告男性)


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