都立高のアメリカ人英語教師ら「団体交渉拒否は違憲」と訴えるも… 非正規公務員の“労働基本権”制限は「合憲」と地裁判決
1年間の任期で自治体に雇用される「会計年度任用職員」には団結権や団体交渉などの憲で保障されている「労働基本権」が強く制限されているのは違憲であるとして、労組が東京都と総務大臣を訴えた訴訟で、1月29日、東京地裁が原告の訴えを棄却する判決を出した。
本訴訟の主な当事者は、都立高校で生徒らに英語を教えてきたアメリカ人らだ。

訴訟の概要

会計年度任用職員は、通常、会計年度(4月1日から翌年3月31日)に合わせて1年間の任期で雇用される。2020年に地方公務員法が改正されこの制度の運用が始まり、これまで臨時職員や嘱託職員と呼ばれていた非正規職員も会計年度任用職員として採用されることになった。
従来、専門知識や学識・経験に基づく職務に従事する「特別職非常勤職員」として採用されていた層も、多くの自治体で2020年4月以降、会計年度任用職員としての採用に切り替えが進んだ。しかし、特別職非常勤職員には労働基本権が認められていたところ、会計年度任用職員は「一般職」とされるため、権利が制限されることになった。
具体的には、会計年度任用職員は労働組合を結成することができず、職員団体制度に係る団結権、協約締結権を除く団体交渉権のみが認められている。
本訴訟の原告は、都立高校で外国語指導助手(ALT)として働いてきたアメリカ人2名が所属する、東京ゼネラルユニオン(東ゼン労組)ALT支部。
東ゼン労組は2020年7月に東京都教育委員会に団体交渉申し入れを行ったが、拒否されたため、不当労働行為救済申し立てを行った。しかし、2022年7月、東京都労働委員会が却下決定を行ったため、2023年3月、却下決定の取り消しを求める行政訴訟を提訴した。
また、2024年8月からは総務大臣が被告側に訴訟参加(※)した。
※裁判所が、処分・裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させる必要があると認める場合に、当事者・当該行政庁の申立て、または職権により訴訟へ参加させる制度(行政事件訴訟法23条、民事訴訟法45条1項・2項参照)。

争点は「地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置」

原告側は、会計年度任用職員は「官製ワーキングプア」を生み出す制度であると主張している。
原告代理人の山本志都弁護士によると、官製ワーキングプアについては様々な訴訟が提起されているが、労働基本権がはく奪されたという点について正面から初めて争ったこと、また会計年度任用職員の制度設計を所管する総務省の意見が法廷で示されたことが本訴訟の特徴であるという。
本訴訟の争点となったのは「地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置」。被告側は、会計年度任用職員であっても人事委員会や公平委員会に不服申し立てを行うなどの制度が用意されていることから、労働基本権の制約は認められるとしていた。

これに対し原告側は、会計年度任用職員は委員会や制度の存在をそもそも知らされていないこと、また任期が1年であるために時間のかかる不服申し立てが機能しない場合が多いことから、代償措置が実質的には機能していない、と主張。
しかし判決は「会計年度任用職員も、一般非常勤職員として、これら代償措置が適用されるのであるから、会計年度任用職員制度の創設に際し、重ねて代償措置を設けなかったとしても、改正地方公務員法が直ちに(労働三権を定めた)憲法28条に違反するということはできない」として、原告の訴えを退けた。
また判決では、地方公務員法には勤務条件に関する利益保障や身分保障が規定されている点や、職員団体制度が設けられている点も代償措置に含まれている、としている。
これに対し原告代理人の山田省三弁護士は「正規の職員には安定性など公務員としての特性があるが、非常勤職員にはそのような特性がない。だからこそ団体交渉をするしかないのに、それを禁止するのは、法治国家としてあるべきではない状態だ」とコメント。
同じく代理人の指宿昭一弁護士も「(会計年度任用職員の)代償措置は形式的なものに過ぎず、周知も利用もされていない」と指摘。
また、正規職員の代償措置について判示した1970年代の「旭川学力テスト事件」に関する判決(昭和51年(1976年)5月21日大法廷判決)を、非正規公務員について機械的に当てはめたものであるとして、今回の判決を批判した。
原告側はすでに控訴の意向を固めている。

「日本社会における自分の立場を失ったように感じた」

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メアリーさん(中央)

東ゼン労組専従オルグのジェローム・ロスマンさんは「裁判の結果は誠に残念。非正規公務員の労働基本権を実現するための戦いは非常に厳しいが、重要な権利なので、負けられない」と語った。
「会計年度任用職員にあるのは、指示された労働条件を受け入れるか・受け入れないかの選択肢のみ。非常に弱い立場に置かれている。
東ゼン労組は、この状況を許すことができない。
憲法上の権利を取り戻すために、必要な限り、戦い続けていく」(ジェロームさん)
当事者の一人であり、数十年にわたり都立高校などで働いてきたメアリー・ハンソン・ダガティさんは「この法律における、(団体交渉ができないという)自分の立場を知った時、日本社会における自分の立場を失ったように感じた」と語る。
「会計年度任用職員は『服従』と『支配』を生み出す制度。労働者としての権利も公務員としての地位も持たない人々を生み出すことが目的の制度だ。社会正義にも憲法にも反している」(メアリーさん)
メアリーさんは当初アメリカ国内にて日系銀行で働いていたが、「日本とアメリカの間で働き続けたい」と思い、夫と共に来日。その後、日本国内で子どもが生まれた。日本で過ごす人生を好きになり、子どもが成人したあとも日本で働き続けてきたという。
英語スピーチの指導なども教師として担当してきたメアリーさんは、生徒から将来の夢を聞く機会が多々あった。「社会福祉やケアワークに携わりたいという夢を持つ子どもたちも多かったが、それらの仕事も、公立で働く場合には会計年度任用職員になってしまうだろう」(メアリーさん)
同じく当事者の一人である、東京都で7年間働いてきたアンソニー・ドーランさんは「今日の判決にはがっかりした」と語る。
「しかし、非常勤公務員の公正と正義のための戦いの第一歩であると考えている。すべての非常勤公務員の組合の権利が復活するまで、戦い続けたい」(アンソニーさん)
現在、メアリーさんもアンソニーさんもALTとしては働いていない。
指宿弁護士は「会計年度任用職員制度は、3年で雇い止めされることが多い。
それを防ぐため、雇用関係がある間に団体交渉を行い雇用の継続を求めたいのに、その交渉すらできないというのが本件の大きな問題だ」と整理する。
「公務員の労働基本権は、1970年代には大論争となり社会的な問題になった。現在はあまり話題になっていないが、いまだに重要な問題だ。
本件は、非正規公務員の権利をどのように守っていくかに関わる、労働法上でも注目すべき問題が扱われた訴訟。おそらくは最高裁まで行くだろう」(指宿弁護士)


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