朝日新聞出版の社員から「親の顔が見たい」「無礼」「非常識」などとメールを送られ、パワーハラスメント被害を受けたとして、フリーランス編集者の女性が同社と社員を訴えていた訴訟で、控訴審の東京高裁において和解が成立した。
和解は1月16日付で、会社側が7つの言動について謝罪し、再発防止策を約束したが、加害者とされる社員本人からの謝罪はなかった。

2月2日に都内で記者会見を開いた原告の依田さん(仮名)は「一審と控訴審の費用を合わせると赤字だが、朝日新聞出版でパワハラが起きてほしくないから受け入れた」と複雑な心境を明かした。

メールで“人格攻撃”「『失礼』『無礼』に準じます」

2018年11月、依田さんは朝日新聞出版から医学部関連のムック本51ページの編集業務を受託した。当初は25万円の報酬で、2人体制での作業と説明されていたが、実際には編集者の追加配置はなく、企画のスタートも例年より遅れていた。
また、本来は編集のみを担当するはずだったが、人員が追加されないまま進行が遅延し、取材先探しなど本来の業務以外の作業も発生。編集責任者であるX氏からの具体的な指示もないまま、そのまま年を越したという。
その後、2019年1月7日に、X氏はライターやデザイン事務所担当者らも宛先に含めたメールで、依田さんについて「考え方が非常識とまでは言いませんが、『失礼』『無礼』に準じます」と記載。さらに「今回、迷惑をかけた方々、一人ひとりに頭を下げてください」と求めた。
その後もX氏からの人格攻撃などが続いたといい、依田さんはこれらのハラスメントが原因で、精神的・身体的症状が現れ、不眠や震えといった苦痛の中で仕事を継続できなくなり、休業せざるを得なくなったという。

会社側は再発防止策を約束

和解条項では、会社側が上記のメールなど7つの言動について「(X氏が)編集責任者という優越的関係に基づき業務の適正な範囲を超えて精神的な苦痛を与え、名誉感情を害した」ことを認めて謝罪。
さらに、社内研修を徹底し、相談窓口の存在をフリーランサーにも周知するなどハラスメント防止に努めることを約束した。
加えて、「フリーランサーが編集業務を円滑に遂行することができるよう編集スケジュールに配慮し、必要な情報を提供する」ことも明記された。

一審での和解協議も…会社側は不法行為を認めず

一審では約半年にわたって和解協議が続いた。だが、会社側は「業務が遅れたから、つい強い表現を使った」という弁明を繰り返し、不法行為を一切認めようとしなかったという。
さらに、依田さんは、X氏が依田さんについて「取材を2件もすっぽかして、ライターから苦情があった」など、“作り話”をしていたと主張する。
「こうした会社側の行為の責任が、曖昧なまま和解をしてしまったら、結局『いろいろときつい言葉を使ったけれども、問題ない』ということになってしまう。
解決金としては大きな額が提示されたが、それは絶対に認めるわけにはいきませんでした」(依田さん)
こうして依田さんは控訴を決断。控訴審では、和解条項に「編集スケジュールに配慮し、必要な情報を提供する」という文言が入ったことで、依田さん側も「X氏がスケジュール調整できていなかったと会社側が事実上認めた」と受け止め、和解を受け入れた。

「理不尽な社風をなくしてほしい」

この日の会見では和解額については明かされなかったが、依田さんは「一審と控訴審にかかった費用を合わせると赤字だ」と説明。それでも和解を受け入れた理由について、次のようにコメントした。
「朝日新聞出版とは30年ぐらい前からのお付き合いがあり、取材のメモの取り方などさまざまなことを教えていただいた。
そんな会社でパワハラが今後起きてほしくないし、理不尽な社風をなくしてほしい」(同前)
ただし、和解条項については不満も残るという。
「和解条項が会社からの謝罪にとどまり、X氏からの謝罪がなかった点は残念です。
もし、会社員として謝罪をするのは気まずいとか、自分の評価が下がるから嫌だという気持ちがあるのであれば、私に直接何か言っていただきたいと思います」(同前)
なお、朝日新聞出版は弁護士JPニュース編集部の取材に対し「裁判所の仲介によって、控訴人、弊社が歩み寄ることができました。弊社の仕事に携わる様々な人の立場に配慮した職場環境づくりに努めていきたいと考えています」(担当者)と回答している。


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