警察官のなり手が減少の一途をたどっている。警察庁によれば、2024年度の全国の警察官採用試験の受験者数は4万2830人。
2015年度の9万2894人の半数にも満たない。
日本の治安維持を担う警察官の人材不足は深刻で、採用条件にも苦悩ぶりがにじむ。警視庁の社会人採用における年齢制限は現在60歳までとなっているが、これは職業の特性を考えるとなりふり構わぬ対象拡大にも映る。
なぜ、警察官人気はここまで凋落してしまったのか…。『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の著者で、約20年在職した元警察官の安沼保夫氏に聞いた。

警察官減少の真因は?

なぜ、警察官のなり手は減り続けているのでしょうか。

安沼氏:「時代の流れだと思います。バブル期の頃は警察の人気はなく、『名前を書ければ受かる』とも聞いたことがあります。

一方、氷河期世代では警察は高嶺の花でした。それが今は超売り手市場で転職のハードルも下がっていることから、再び警察人気が下がるのもうなずけます」

「警察はブラック企業」といわれています。実際の残業時間や休暇の取りやすさはどう変わってきているのでしょうか?

安沼氏:「勤務時間でいえば、そこまで苦ではありませんでした。交番などの4交代制勤務だと一当(日勤)、二当(夜勤)、非番、週休のサイクルで回るのですが、4日に一度休みがあり、非番は特に扱いがなければ午前中には帰れるので、若手の頃はそのまま遊びに行って一日半の休みを満喫していました。

上司は……ガチャによるところが大きいです。
同じ部署で同じ業務をしていても上司によって評価が違いましたね」

年齢制限60歳引き上げの背景

警視庁が年齢制限を60歳まで引き上げ、体格基準(身長・体重)を撤廃する自治体も増えています。これは選り好みしていられないほど現場が人手不足で追い詰められているという裏返しなのでしょうか?

安沼氏:「そのとおりだと思います。他方で、『誰でもいいから採用したいが、できない』という事情もあります。

たとえば、本人の身元がまったくクリーンであっても、親族や友人に『思想的に問題のある人』がいたりすると、どんなに成績が優秀でも絶対に合格しないとも聞いたことがあります。公安職ゆえの事情ですが、せめてそれ以外の条件は緩和したものと思われます。

さすがに60歳でまったくの未経験者だと厳しいと思いますが、40代や50代でも運動習慣のある人なら問題なくいけると思いますし、氷河期世代の受け皿になればと思います。

私の予想では、自衛官や刑務官から流れてくると思います」

「警察官が来なくなる」は現実になる?

定員割れや採用辞退の続出により、将来的に15秒に1回という特に都市部での110番通報に対応できなくなる、あるいは到着まで1時間かかるような治安の崩壊が現実味を帯びているのでしょうか?

安沼氏:「定員割れや採用辞退が続いているのは事実のようですが、だからといって『警察官が来ない』時代がくるとは考えにくいです。人数が少ないのなら少ないなりに、運用で充分に対応可能だと思います。

たとえば交通機動隊や自動車警ら隊は基本的には110番に対応しません。もちろん重大事件が発生した場合は別ですが、こうした部隊を投入することによって解決できると思います。

また、現場の警察官は110番対応よりも職質検挙や交通取り締まりの件数で評価されるので、そうした評価制度もあらためるべきだと思います。

それと110番マニアという些細なことで通報してくる人もいますので、その対策も必要でしょう」

なぜ若者の警察離れは加速したのか

警察官が「嫌われる職業」になり下がってしまった自覚はありますか? SNSで高圧的な職務質問が拡散され、「強い者に弱く、弱い者に強い」といった批判の声が可視化されやすくなっており、それが若者の警察離れに直結しているようにも見えますが、いかがでしょうか?

安沼氏:「おっしゃるとおりです。ただ、この警察叩きも度を過ぎると、真面目にやっている警察官の士気も下がり、結果として治安の低下につながると思います。

メディアが警察の不祥事をこれみよがしに取り上げ、それにネットが同調する風潮には眉をひそめております」

愛知県警では、休暇を増やした部署で事案処理件数が4割増えたとされています。「休めば検挙率が上がる」のに、なぜいままで休ませなかったのでしょうか?

安沼氏:「卵が先かニワトリが先かの論争となりますが、成果の上がってない部署に休みを与えようとすると、『成果上がってないのに休みだと?もっと成果が下がったらどう責任を取るんだ?』というオールドタイプな管理職が蔓延(はびこ)っているのが現状です。


なので、成果の上がってない部署は点数稼ぎのために休日出勤を強いられ、ダラダラと意欲も生産性も低い仕事をするという悪循環に陥っています。

合理的な考えの人には耐えられないと思います。他方、成果がなくても給料は出ますので、不器用だけどコツコツ頑張りたい人には向いていると思います」

命の危険やプライベートの制約、不規則な勤務を踏まえると、今の若者のシビアな「コスパ意識」から、待遇面での魅力が薄れているという側面はありませんか?

安沼氏:「それは『太陽にほえろ』など刑事ドラマの観すぎではないでしょうか。実際のデータでは、林業や漁師、建設業などの方が危険度は高いそうです。

ごくまれに警察官が殉職すると大々的に取り上げられるので、そのイメージが強いのだと思います。

また、給料も行政職より少し高く設定されています。警視庁ではさらに20%の地域手当がつきますので、決して悪くはないです。

プライベートの制約や不規則な勤務があるのは確かです。外泊にもいちいち届け出が必要ですし、海外渡航には1か月前までの報告が求められていました。今はどうなっているのか知りませんが」(後編へ続く)
■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。
20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。


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