罪を犯した人を支える「よりそい弁護士制度」とは 刑務所の外で“更生”を支える専門家たち
2025年6月、懲役刑と禁錮刑を一本化した「拘禁刑」が導入されたことにより、日本の刑事司法は大きな転換点を迎えた。
拘禁刑の目的は、ただ受刑者を刑務所に収容するのではなく一人ひとりの特性に応じた柔軟な処遇を行い、「再犯防止」を徹底することにある。

しかし、刑務所の中での教育を充実させるだけで再犯は防げるのだろうか。不起訴が決まった後、あるいは刑をまっとうして刑務所の門を出た直後に、社会とのつながりをまた失い、再び罪を犯す人は決して少なくない。
そこで国内では、弁護士や社会福祉士などを中心に「よりそい弁護士制度」や「地域生活定着支援センター」を通して、罪を犯した人の社会復帰を支えている。
課題も多いとされるそれぞれの現場に精通する専門家へのインタビューを通して、更生の地平を見つめた。(ライター・岩田いく実)

兵庫県弁護士会の挑戦――「よりそい弁護士制度」とは

「かつては、判決が出れば弁護士の仕事は終了。『判決後の関わりは社会福祉の問題だ』という認識が弁護士の間では主流でした。今でも、多くの弁護士はそう考えているかもしれません」
よりそい弁護士制度は兵庫県弁護士会が国内で最初にスタートさせた制度だ。制度の現状と課題について、同弁護士会所属の松本隆行弁護士(みなと元町法律事務所)に聞いた。

兵庫県弁護士会での立ち上げ経緯を教えてください。

「兵庫県弁護士会では2016年によりそい弁護士制度をスタートさせました。現在、兵庫県以外では愛知県弁護士会や札幌弁護士会、第一東京弁護士会や第二東京弁護士会など、試行も含めて全国で10の弁護士会が独自によりそい弁護士制度を採用しています。
兵庫弁護士会の場合、よりそい弁護士制度の立ち上げより前から、不起訴(起訴猶予)処分後や判決後などに、とても放ってはおけない状態にあった元被疑者・被告人の一部について、弁護士が頭を悩ませつつも社会復帰に向けてサポートを行っていた現状がすでにありました。
元被疑者・被告人を車で迎えに行き、役所の窓口へ同行して生活保護や住居の確保をサポートするなど、再犯を繰り返す結果にならないように弁護士個人が陰ながら支援していたのです」

実際に「よりそい弁護士制度」を利用された方からは、どのような声が届いていますか。

「よりそい弁護士の活動がすべて上手くいくわけではありません。
支援によって社会復帰できた方は『助かりました』と感謝してくれます。しかし、途中で行方がわからなくなったり、関係が切れてしまったりする方も多い。そうした方々の『不満』や『要望』は、私たちのもとには届かないという課題があります。
また、兵庫県弁護士会でもまだまだ本制度に取り組んでいる弁護士は少数です。経験を重ねている弁護士は増えているものの、運用の課題もあります」

しかし、弁護士個人の善意だけに頼るには限界があります。

「そうなんです。だからこそ『制度』が必要です。本来、これらは国の予算(公費)で賄われるべきものです。
現在はまだ弁護士会の持ち出しで運営している地域が多いですが、徐々に制度化する単位会(※)も増え、日弁連の支援も始まりました。今後もシンポジウムなどで議論がなされる予定ですので、全国的な支援の輪が広がると良いと考えています。
※編集部注:全国に52ある、地域レベルの弁護士会のこと(東京は3つ(東京、第一東京、第二東京)、北海道は4つ(札幌、函館、釧路、旭川)、府県ごと1つずつ)
国が再犯防止推進法や拘禁刑導入などで民間等とも連携した『再犯防止』を掲げる以上、『よりそい弁護士制度』にも公費による支援を行い、若い弁護士も安心して取り組める環境を整えるよう、今後も訴え続けていきたいですね」

よりそい弁護士制度がない地域での支援とは

一方、兵庫県のような独自のよりそい弁護士制度がない地域ではどうなっているのか。2009年に厚生労働省は各都道府県に「地域生活定着支援センター」を設置しており、出所者などに対する生活支援を行っている。

たとえば、福井県では「福井県地域生活定着支援センター」が受刑者などへの生活支援を実施しており、65歳以上の高齢者や障害のために自立した生活が困難な人を福祉サービスへつなぐなどのサポートを行っている。
センターは同県福井市にある福井県済生会病院内に、県の委託事業として設置されており、予算は国と福井県から拠出される仕組みだ。
被疑者・被告人などへの支援は、検察庁や弁護士、地域の支援者などからの相談を受けて始まることが多い。また被疑者の段階からでも、弁護士が接見を通して支援が必要だと判断したら福井県地域生活定着支援センターへ連絡できる。
同センターには、身寄りがなく孤独な状況にあったことから、刑務所への入所歴が10回以上に及んでいた高齢受刑者のケースにも対応した経験がある。
この元受刑者は障害を持っている可能性が疑われていたが、支援につながったことをきっかけに、障害者就労支援(B型事業所)に通えるようになった。これまでは出所直後から刑務所へと戻るために万引きなどを繰り返していたが、現在は再犯に手を染めず生活を継続できている。
主任を務める社会福祉士の川端敬之氏は「毎日やるべき仕事や役割があり、定期的に相談できる相手がいると再犯率の低下につながると感じます」と語る。地域生活定着支援センターは、今後も積極的に支援を実施していく構えだ。
同センターは、1~2か月に1度のペースで保護観察所や県の人権室、福井弁護士会や検察庁の担当者が集まる情報共有会を開いている。それぞれの立場は異なっているものの、いずれの組織も、円滑な生活支援と再犯を防ぐというベクトルを共有している。
しかし、この支援にも課題はある。
福井県のセンターも「利用する弁護士の数は徐々に増えてきてはいるが、必要な人に支援が届くためにも、より多くの弁護士に利用してもらいたい」と模索している。今後は弁護士向けの広報にも力を入れる予定だ。

全国で見られる「よりそい」の課題とは

罪を犯した者への「よりそい」は弁護士会、地域生活定着支援センターを中心に行われている。しかし、今後、刑事弁護全般に関わろうとする弁護士は減少していく可能性が高い。
当番弁護士制度(※)は全国で崩壊の危機にあり、大阪弁護士会では数百人が登録を外れ、昨年7月に緊急事態を宣言するに至った。
※刑事事件で逮捕・勾留され身体を拘束されている被疑者が無料で1回限り弁護士を派遣してもらえる制度
苦労の割に対価を得られにくい刑事弁護は個々の弁護士の使命感頼りになりやすい。その結果、よりそい弁護士制度や地域生活定着支援センターの活動に手を差し伸べる弁護士は限られてしまうおそれがあるのだ。
法務省が発表した「令和6年版犯罪白書」によると、刑法犯により検挙された者のうち、再犯者(※)は、2023年(8万6099人)は前年の2022年(8万1183人)より6.1%増加している。検挙人員に占める再犯者数も1996年(8万1776人)を境に増加し、2006年(14万9164人)をピークとして、その後は徐々に減少傾向にあったが注視が必要である。
※刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者
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法務省作成「令和6年版 犯罪白書 第5編/第1章/1より」

「よりそい弁護士制度」が各地に広がりつつあるとはいえ、現状では法律で定められた制度ではなく、弁護士会の自主事業にとどまっている。一方の地域生活定着支援センターでは弁護士の利用率が課題だ。支援内容は地域によって異なっており、新たな不平等を生んでいる。

今後、受刑者などへの「よりそい」は弁護士や弁護士会の献身を求めるものではなく、全国統一基準の社会インフラへと進化していく必要があるのではないか。
■岩田いく実
損害保険会社、法テラス、一般民事系法律事務所に勤務後、ライターに転身。パラリーガル経験を活かし、年間60人を超える弁護士・税理士を取材。相続や離婚、不動産売却、債務整理、損害保険などのテーマを中心に執筆。第一法規『弁護士のメンタルヘルスケアの心得』で記事執筆、自主出版に『ルポ豊田商事』がある。


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