人気が凋落した警察官の採用事情について、『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の著者で、約20年在職した元警察官の安沼保夫氏に聞いた前半(「警察官」10年で受験者“半減”の衝撃 「60歳まで」採用拡大の自治体も…条件緩和せざるを得ない“特殊事情”とは)に続き、後半では、どうすれば警察人気を復権できるのかに迫る。
パワハラや隠ぺい体質の組織風土…。
警察には若者が忌み嫌う側面がいまだ蔓延(はびこ)るともいわれるが、なりたい職業として再び羨望される道はあるのか。
OBだからこそ知る実情や具体的な改善策について、ズバリ提言してもらった。

警察学校はふるいにかける場所

採用辞退率が4割という数字があります。せっかく合格しても3~4割が辞退し、警察学校でも約1割が退職する現状は、いまだに組織と若者との間に深刻なミスマッチがあるからではないですか?

安沼氏: 「ドラマ『教場』の風間教官も言っているとおり、『警察学校は優秀な警察官を育成する機関でなく、適性のない人間をふるい落とす場所』でもありますので、ある程度の厳しさは必要です。
ただ問題なのは、教場(クラス)ガチャや教官ガチャがあることです。実際の教場では教官よりも助教がメインとなって学生の指導をします。我が教場の担当助教は同期8教場の中でも最も厳しいと自負しており、他教場の学生からも恐れられていました。
さらには教場内の学生同士においても上下関係が発生しやすく、私のような『のび太』タイプは体育会系『ジャイアン』タイプの餌食(えじき)となっていました。
私は教官が特定の学生に対して集中的に厳しい指導や懲罰を行う『マンキョウ』もやらされ、警察人生の三大危機の一つでした。
全員一律に課される厳しさなら良いと思いますが、特定の個人に偏るような厳しさはよくないと思います。最近の若者は『他者からどう見られているか』を気にする傾向があるとも聞きますので、マンキョウのような見せしめ懲罰が存在する限り、ますます若者から避けられると思います」

不祥事や隠蔽体質は、本当に改善されたのか

不祥事や隠蔽体質は、本当に改善されているのでしょうか? 内部告発の保護が不十分であったり、組織の論理を優先して不祥事を隠したりする体質が、正義感を持って入署した若者の意欲を削いでいる可能性はありませんか?

安沼氏: 「拙著でパワハラなどの内部告発をしましたが、関係者が処分されたという話を聞かないところを見ると、まだまだ改善には至ってない印象です。これをきっかけに、正義感のある若手警察官が声を上げやすい組織風土に変わることを願います」

AIやドローンの導入も対策になり得ると思いますが、単なる「人手不足の穴埋め」に過ぎないのでしょうか?

安沼氏: 「機械に頼らざるを得ないというより、機械にできることはとっとと機械化させるべきだと私は思います。
たとえば、コソコソ隠れてやる“ネズミ捕り”取り締まりなんかは、防犯カメラで代替可能だと思います。オービス(自動速度違反取締装置)やNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)が稼働していますので、技術的にも実現可能なはずです。

テクノロジーの活用によって余った人員を現場に投入することで有給取得率を上げたり、110番に対応できる人員が確保できると思います」

深刻な人手不足で日本の治安は守れるのか

「警察官なんていくらでも代わりがいる」と言われた時代は終わり、10年前から受験者が5割以上も減少しています。いまのままで「日本の治安」は守れるのでしょうか?

安沼氏: 「治安は警察と国民が協力して守るものだと考えます。警察の不祥事を殊更に取り上げて国民の不信を買い、警察へのリスペクトがなくなれば、結果として治安の低下にメディアや国民も加担することになります。
SNSを見ていると嫌でも警察関連の記事が目に入りますが、私の体感では批判と応援が5:1くらいです。もちろん警察の不祥事は包み隠さず全てオープンにすべきですが、それを闇雲に拡散してそれをよしとする風潮に、民度の低下を感じます。
元駐在警察官が書いた本で、地元住民に地道な啓発活動を行った結果、同住民の協力により検挙率が向上し、激励の声も多数届いたという事例が紹介されていました。ここに治安再生のヒントがあると思います」

蝶を採りたいのなら、住みつくような環境をつくれ

最後に、OBとして現状を変え、警察組織を魅力あるものにするためのご提言をお願いします。

安沼氏: 「2026年1月13日付け時事通信社の記事で『警視庁が人員不足で対策 若手リクルートチーム結成―夜間の2署統合運用も』というものがありました。
同記事によると、若手警察官を中心にリクルートチームを結成し、就活生への接触や内定辞退の防止に努めるとのことです。
私はこの記事を読んで、『蝶を採りたいのなら、住みつくような環境をつくれ』という話を思い出しました。虫取り網を振り回すより、就活生に選ばれるような組織作りをまずはするべきだと思います。
同記事は、『誰かの幸せや力になりたいという気持ちを持っている人を求めている』という同庁幹部の言葉で締めくくられていました。
おそらく本心だと思いますが、綺麗事にも聞こえます。というのも、警視庁採用サイトを見ると『資格経歴等の評定』として、武道の段位やスポーツ経歴や語学やITスキルがあった方が有利なようにできているからです。

婚活女子が『優しい人が好き』と言いながら、結局は相手男性に年収や学歴などのスペックを求めているようなものだと感じた次第です。
もし警視庁が本気で『誰かの幸せや力になりたいという気持ちを持っている人を求めている』というのなら、資格経歴等の評定を見直すべきだと思います」
■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。


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