大阪・生野“ハンマー強盗”殺人事件から4年…現場が「子ども食堂」に 誰も買わなかった事故物件で“何が”起きたのか
強盗殺人事件の現場が、子どもたちの居場所として生まれ変わろうとしている。
大阪市生野区に1月31日オープンした子ども食堂「カンクリキッズキッチン」は、事故物件をリノベーションして作られた。

事件発生からおよそ4年、その凄惨さゆえに複数の不動産業者が扱いを断った場所に、あえて子ども食堂を設ける理由とは何か。プロジェクトを主導した人物に、その真意を聞いた。(ライター・倉本菜生)

事故物件に「新しい役割を与えたい」

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事件発生当時の建物外観(写真提供:関西クリーンサービス)

2021年12月に発生した「大阪・生野区強盗殺人事件」。男女3人が深夜に住宅へ侵入し、住人の高齢男性(82)をハンマーで複数回殴って殺害。金品を奪って逃走したが、3人は後に逮捕された。
このうち強盗殺人罪などに問われた解体工事会社経営・請川正和被告は、2022年10月、大阪地裁判決で無期懲役を言い渡され、控訴している。
現場となったのは、住宅街にある鉄骨3階建てのビル。1階が店舗、上階が住居スペースとなっており、侵入経路となった裏手の住宅も含め、被害者やその親族の名義で所有されていた。
事件後、遺族は2棟の売却を希望したが、事件の凄惨さや社会的な影響から、見積もりすら断られる状況が続いたという。そんな中、物件の購入と活用に踏み切ったのが、事故物件の特殊清掃から不動産売買までを手がける「関西クリーンサービス」(※本社:奈良県奈良市)だ。
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関西クリーンサービス代表の亀澤範行さん(写真提供:関西クリーンサービス)

遺族から相談を受けたのは2022年の夏。同社代表取締役の亀澤範行氏にとっても、強盗殺人事件の現場を引き受けるのは初めての経験だった。現場に足を踏み入れた際には、血痕が残る室内の惨状に言葉を失ったという。

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当時の特殊清掃の様子(写真提供:関西クリーンサービス)

それでも同社が購入を決断したのは、観光地に近い立地の資産価値に加え、「重い記憶が残る場所だからこそ、新しい役割を与えたい」という思いからだった。

オープンイベントには区長も視察に

「会社を立ち上げてから約18年間、毎日のように特殊清掃や遺品整理、ゴミ屋敷清掃といった“孤立の最終地点”を見続けてきました。
社会的な孤立が静かに、徐々に進むと、孤独死や自死、セルフネグレクトに行きついてしまう。そうした現場に向き合ってきたからこそ、孤立を少しでも防げるような、人が集まりつながれる場所を作りたいと考えました。
特殊清掃員として、そして不動産業者として、物件の悲しい記憶を消すのではなく、その先に新しい意味を生み出したかったのです」(亀澤範行さん、以下同)
当初は民泊としての活用も検討していたが、調査を進めるなかで、生野区には子ども食堂が少ないことを知ったという。地域のニーズを感じ、「子どもたちが集まる場所になれば、物件のイメージも変えられるのでは」と考えたそうだ。判断の背景には、これまで関わってきたゴミ屋敷清掃での経験もある。
「保護者がセルフネグレクトに陥り、家庭崩壊しているケースをいくつも見てきました。なかには、シングル家庭で経済的に苦しく、働き詰めでお子さんの世話ができないという方もいらっしゃいました」
同社にとって、飲食事業は初の試みだった。亀澤さんは「正直、最初は何をしたらいいか分かりませんでした」と振り返る。
「社会福祉協議会に相談し、子ども食堂の運営に必要なことを一から教えていただきました。他地域の事例も参考にしながら、少しずつノウハウを学んでいった形です」
地域の自治会長が集まる会議に参加する機会もあった。7つの町の町会長が参加していたが、全員が事件のことを把握していたという。

「皆さん『殺人があった家ですよね?』とご存じでした。それでも『子ども食堂ができるのは嬉しい』『いい取り組みですね』と前向きな声をかけていただいて。本当にありがたかったです」
子ども食堂オープンの告知後、オープンイベントの予約は即日で満席となった。イベント当日には生野区の区長も視察に訪れ、新たな空き家対策の一環として行政の注目も集めている。
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オープンイベントには大阪市生野区の筋原区長とインフルエンサーのジョーブログ氏が訪れた(写真提供:関西クリーンサービス)

今後は毎月第3土曜日に子ども食堂を開催する。予約なしでも利用できる予定だ。当面は調理師免許を持つ社員が調理を担当する。地元の飲食店にも協賛を募り、子どもたちに本格的な“食の体験”を届ける場を目指すという。

「事故物件の告知義務」はなくなる?

子ども食堂として活用しているのは、建物1階部分の元店舗スペースのみ。上階および隣接する住居スペースはフルリノベーションを施し、賃貸物件として再生した。
「入口や建具もすべて変えて、間取りも一新しました。5部屋に区切って賃貸に出したんですが……さすがに時間がかかりましたね。
満室になるまで1年半はかかったと思います。入居者は20代から60代までの男女と幅広いです」
もちろん民間企業である以上、社会貢献だけでなくビジネス面での狙いもある。
「物件の価値をどれだけ高められるか。それが不動産業の仕事です。事業としても成立させる必要があります。生野区は『あべのハルカス』など主要な観光地へのアクセスが良く、若者や観光客が集まるコリアンタウンも近い。もともとポテンシャルが高い土地なんです。事故物件というマイナスイメージを払拭できれば、物件の資産価値は十分に上がるはずです」
とはいえ、たとえ資産価値が上がったとしても「事故物件の告知義務」がなくなるわけではない。自殺や殺人があった物件についてネット上では「一度誰かが住めば、次の入居者に伝えなくていい」といわれているが、こうした情報には誤解が含まれている。
国土交通省が2021年に定めた「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、賃貸契約における告知義務について、他殺・自死・特殊清掃を伴う死は、たとえその後に誰かが入居したとしても、事案の発生または発覚から概ね3年間は告知が必要とされている。
さらに、その期間を過ぎても、社会的影響が大きい事件などの場合には、「借主・買主が契約時に知るべき重要事項」として、引き続き告知義務が生じる。
違反した場合の罰則こそないものの、借主からの損害賠償請求や、信用失墜による事業への影響などリスクは大きい。

「今回の物件に関しては、事件の重さや社会的な影響の大きさから、告知義務が消えることはないと考えています。少なくとも、今後5年から10年は告知を続けるつもりです」
事件の記憶が刻まれた場所に、新しい命が吹き込まれる。その未来に、亀澤さんはこう想いを馳せる。
「私たちは、かつて命が失われた場所を、子どもたちが安心して集える居場所へと生まれ変わらせました。不動産をたんなる資産として扱うのではなく、社会的な価値を生み出す拠点として再設計し、人のつながりや地域の未来を作っていく。それこそが、私たちがこの取り組みに込めた本質です」
事故物件や空き家といった課題に向き合う新たなモデルとして、不動産業界における選択肢のひとつになれば。そうした思いは、「人の最期」を見届けてきた亀澤さんならではの覚悟といえる。
「命の重さを知っているからこそ、次の世代の未来に本気で向き合いたい。それが、私たちがこの場所に込めた想いです」
■取材協力
関西クリーンサービス:https://www.k-clean.jp/
亀澤範行さんX:https://x.com/KAMESAWA_Kclean
■倉本菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。
フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。

主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。
X:@0ElectricSheep0/Instagram:@0electricsheep0


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