生成AIの浸透でさまざまな作業で劇的な進化が起こるなか、法的請求等の現場でも目にみえた変化がみられるという。
労働問題に詳しい向井蘭弁護士は4日、Xに次のようにポストした。

〈最近の労働紛争では、(元)従業員の方が弁護士を通さずAIを駆使して自ら法的請求を行うケースが顕著に増えています〉
手軽に使えるようになったAIを活用し、残業代や慰謝料の請求を自身の手で行うケースが珍しくなくなり、会社側が思わぬ展開に苦慮しているという。
向井弁護士がその状況について補足する。
「これまでなら金額が少額で弁護士に依頼するのが難しかった、いわば閉ざされていた労働問題の扉が、AIによって突然開かれたような印象を受けているといいます」
請求といってもあくまで少額が主流といい、会社に打撃を与えるほどの金銭的な負担がのしかかるというような話ではないものの、これまではスルーされていた事案が次々と掘り起こされる展開は、静かなる恐怖として、法務担当者の首筋に冷たいものを感じさせているという。
試しに、AIに「退職するので支払われていない残業代を請求したい。手順とひな型をつくって」とお願いしてみた。すると、ものの1分で、手順と残業代請求の通知書のひな型を作成してくれた。
その最後には「退職後の請求は時効(3年)との勝負でもあります。まずは内容証明の準備から始めてみてください」という助言のおまけつきだ。

法的請求をAIで行う人の3つのパターン

これだけ簡単とあって、退職にあたり、少しでも疑念や不満を抱えていれば、利用してみる人が増えるのも道理だろう。向井弁護士によれば、AIを活用し、法的請求を自分で行う人は、具体的に以下の3つのパターンに分類されるという。
① 証拠は少ないものの、AIを駆使して少額の請求を行い、会社側が応じざるを得なくなった
② 本人に法的知識がないため、AIを使用しても意味不明な文章を量産するだけに留まっている
③ 最初は自力で訴状を作成し、途中からAIを活用して勝訴判決獲得を目指している
現実的には①もしくは②のパターンが多そうだが、いずれにせよ、これまでなら確実に泣き寝入りしていたケースが含まれている可能性があり、予備軍は大量に潜在していそうだ。

AIで訴訟に挑んだ人にコンタクト

弁護士JPニュース編集部では、労働領域ではないものの、③のパターンにあてはまる、個人で不動産会社を営むAさんにコンタクトし、話を聞いた。
Aさんによれば、原状回復に関する戸建て賃貸の居住者とのトラブルで訴訟を提起。当初は自力で訴状や準備書面を作成し、相手側弁護士とやりあっていたという。

「こちらには証拠がそろっていましたので、簡単に決着すると想定していましたが、相手側がのらりくらりと対応。かなりストレスがたまる展開でしたが、途中から知人にAI活用を勧められ、以降はAIにどっぷりで、裁判官の反応も変化したように感じました」
Aさんは法律知識が豊富ではないものの、AIを駆使することで準備書面の質も作成スピードも格段に向上し、いまでは勝訴への道も見えているという。
「妄信はしていませんが、全面的にAIに頼っています。今回は勉強と割り切っている面もありますが、相手の弁護士の振る舞いや態度があまりに不誠実なのに対し、AIはどんなときもプレミアムなほどに誠実なんです。
正直いって、裁判官の方もなんだかフニャフニャした感じで、どこを見ているんだろうと不信感もあります。すべてのケースでとは言いませんが、明確に証拠があり、間違いがないような事案であれば、AIにジャッジしてもらうのが一番公正なのでは、というのが私の今の正直な感想です」
何度か弁護士にも依頼したことがあるというAさんの言葉だけに、決して軽くはない。

AI活用が拡大する中で価値が高まるものとは

今後、AIを活用して法的アクションをとる人がさらに増えるのは必然といえそうだが、その際にどのような点に注意が必要か。向井弁護士は次のように見解を述べた。
「AIは『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドのような存在。強力な武器にはなりますが、使い手の読解力や論理構成力、いわゆる『本体』の素養によって、その威力にはかなりの差が生まれます。
道具が進化しても、それを制御する人間のリテラシーが結果を左右する本質は変わらない気がします」
煩雑な作業や膨大なデータを一瞬で解読し処理する能力は、まさに万人力ともいえるAI。だが、使う人に最低限のリテラシーや該当分野の知識がなければ、結局はそれらを支える“人間力”に勝る側に分があるといえそうだ。



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