警視庁は6日、万世橋署地域課の男性巡査部長(59)を詐欺と公電磁的記録不正作出・同供用容疑で書類送検し、停職3か月の懲戒処分にしたと発表した。
報道によると、巡査部長は2024年5月~25年7月にかけて、超過勤務手当の申請に使うシステムに、宿直勤務時の残業時間を実際より長く入力。
残業代として計9万円を不正に受給したという。
警視庁は「警察官として言語道断の行為であり厳正に処分しました。今後、職員に対する業務管理・人事管理を徹底し、再発防止に努めます」とコメントしたというが、約20年在籍したOBで『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の著書がある安沼保夫氏は、「よくあること。何をいまさらという感じ」とクールに指摘した。

水増し請求は常態化?なぜ横行する?

驚きの実態といえるが、なぜ警察組織でこうした水増し請求が横行してしまうのか。安沼氏が解説する。
「超勤手当(民間でいう残業代)が100%支給されないからです。朝練などのサービス早出勤が問題だと思います。所轄か本部、地域課か刑事課などで支給率も違うようです。所属毎に総支給時間が決まっているという噂もありましたので、がめつい人ほど我先にと超勤請求していたと記憶しています」
今回の事案では、泊まり勤務の際、休憩をとれなかったことを理由に“水増し申請”していたとされ、こうした事情を知ったうえで、超勤請求していた可能性はある。
さすがに組織内に“裏マニュアル”はなかったようだが、暗黙の架空請求は横行していたようだ。安沼氏がその一端を打ち明ける。
「例えば留置のときには22~0時と2~4時、または0~2時と4~6時の計4時間の休憩があるのですが、22~0時には自弁(主に被留置者の翌昼食の注文)に伴う金銭処理、0~2時は点検簿(被留置者の一覧)を署長等の幹部席に配布したり日誌作成したりして、超勤をつけるといったものがありました。
慣れないうちは時間がかかるのですが、慣れると30分もかかりませんし、暇なときだと休憩に入る前に全ての処理が終わっていることもあります。それでも超勤をつけている人もいました」
そもそも残業代が出ない組織体質のなかで、少しでもその穴埋めをすべく、架空の超勤で取り戻す。正義感にあふれる警察官のイメージとは乖離するせせこましさだが、それだけ酷使されるハードな職業という裏返しなのかもしれない。

「バレる」というより黙認の実態

ではなぜ、今回、巡査部長の不正はバレてしまったのか。安沼氏は「バレるというより、組織も黙認しているという印象です。ただ、今回のケースは上司からの度重なる警告に従わなかったか、内部通報の可能性も考えられます」とした上で、次のように問題提起した。
「それにしても処分を受けたのが59歳の巡査部長とのこと。定年間際で狙い撃ちされて不憫に思います。もちろん不正受給は許されることではないですが、他にやっている職員も一律に処分すべきだと思います」
当該の巡査部長は定職3か月の懲戒処分を受け、依願退職したという。

一般企業における残業代不正請求はどうなる?

一般の企業でも残業代を不正受給すれば、就業規則上の懲戒事由に該当する。処分の程度は、自覚の有無・金額・常習性などを踏まえた悪質性などによる。
今回の巡査部長のケースは、詐欺と公電磁的記録不正作出・同供用容疑とされているが、法定刑は詐欺罪が「10年以下の拘禁刑」、公電磁的記録不正作出・同供用が「10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」と、重罪だ。
なお、本件で仮に両罪がいずれも成立する場合、「併合罪」という処理が行われ「15年以下の拘禁刑」となる。
雇用者側は不正を行った従業員に対し、残業代の返還を請求できるが、今後支払うべき給料からの天引きはできない。
労働基準法で定められる「全額払いの原則」に反するためだ(労働基準法24条1項)。
また、従業員の懲戒解雇となると客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるケースに限られ、そのハードルは高いといえる。

再発防止は可能なのか…

安沼氏によれば、警察組織の水増し請求は常態化しているという。警視庁は「再発防止に努めます」としているが、額面通りに受け取っていいのか…。
「本気でやるなら、スマートウォッチのようなものをつけて管理するしかないかと思います。ただ、他にも、喫煙所が一部の職員の溜まり場になっているなどの実態もあり、その点は問題にしないのか?と問いたいですね。とってつけたような対応では、その場しのぎにしかならず、体質自体を抜本的に変えない限り、再発は防げないでしょう」
市民の安全を守るべく、日々体を張って奮闘している警察組織。もしも、体質的に問題があるなら、その解消に努め、従事する人が十分に報われ、誰からも憧れられる存在であり続けてほしいものだ。


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