社長から「例のプロジェクトの打ち合わせに参加してください」と指示されたにもかかわらず、Aさんはそのメールをスルー。しかも、自身の取引先より上流の企業に「打ち合わせには参加しない」と連絡して、プロジェクト自体にも参加しなかった。

これを受け、勤務先のX社はAさんを懲戒解雇した。ところが、Aさんが不服を訴えると、裁判所はその懲戒解雇について「無効」と判断した。
言うことを聞かない社員であっても懲戒解雇が有効とされるハードルは高い。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

Aさんは、コンピューターソフトウエアの開発、販売などを行うX社の正社員で、ソフトウエアの開発業務を行っていた。
入社から約2年半後、Aさんは、会社から命じられていたにもかかわらず、取引先とのプロジェクトの打ち合わせに参加しなかった。さらに、自分の判断で、プロジェクトへの参加自体も断った。
X社は、これが就業規則に違反するとの理由で、Aさんを懲戒解雇した(会社は、2年半にわたるAさんの勤務態度等に不服だったようであるが、解雇通知書には上記事実のみが記載されていた)。
そして、解雇に納得できないAさんが「解雇は無効である」と主張して提訴した。

裁判所の判断

裁判所はAさんの主張を認め、懲戒解雇を「無効」と判断した。
たしかに、プロジェクトの打ち合わせに参加しないなどの非違行為は軽微とは言えず、判決文には、裁判所の悩みもにじみ出ている。要約すると以下のとおりだ。
  • 社長は、Aさんに対して、取引先とのプロジェクトの打ち合わせに参加するよう指示をしていた。にもかかわらず、Aさんは、そのプロジェクトにおける上流の会社に対して「参加を断る」旨の連絡をし、社長からの指示に対しても応答しないまま、打ち合わせに参加しなかった
  • このようなAさんの行為は、業務上の指示に合理的な理由なく従わなかったものである上、取引先より上流の会社に対して直接断りの連絡をした点において、X社の取引先に対する信用を害するものと言わざるを得ず、非違行為として軽微なものとは言えない
しかし、裁判所の判断は「懲戒解雇はやりすぎだ」というものだった。
下記がその理由だ。
  • しかしながら、プロジェクトに参加しなかったAさんの行為によって、X社が、直ちにその存続を左右されるような巨額の損害を被った等の事情はうかがわれない
  • 一般に、懲戒解雇が労働者に重大な不利益を与えるものであり、他の種類の懲戒処分を行うことによっては目的を達することができない場合に採られるべきものであることにも鑑みると、今回のAさんの非違行為のみをもって、直ちに懲戒解雇により本件労働契約を終了させなければならない程度の事由とは言えない
■ Aさんには他にも問題行動があったが…
X社は裁判を通して、プロジェクトへの不参加以外にも、Aさんには下記のような問題行動があったと指摘していた。
  • 取引先から「業務遂行能力に問題がある」旨のクレームがあった
  • 昇給や評価をめぐるやり取りで会社方針に従わなかった
  • 通勤定期代の返還や精算方法をめぐり会社指示に従わなかった
  • 客先での勤務態度や「報連相」の不足、トラブル対応の遅れ
  • 客先とのトラブル自体を否定
  • スキルアップ学習や計画表提出の指示に対して消極的
  • 取引先から「日中、Aさんに連絡がとれない」とのクレーム、など
しかし、裁判所は「それでも懲戒解雇はムリだ」と判断。具体的には「X社の主張はいずれも失当(しっとう:当を得ていないという意味)であるか、本件労働契約の存続を不可能にするような事情とまでは認められない」「これらを総合的に考慮したとしても、懲戒解雇は無効という他ない」とされた。
■ 普通解雇ならOK?
X社は「懲戒解雇できないとしても、普通解雇ならば可能だ」という趣旨の主張もした。
しかし裁判所は、「そもそも解雇通知書には“プロジェクトに参加しなかった”という理由だけが記載されており、解雇が“懲戒解雇”であると示されている。なのでこの解雇を普通解雇と捉えることはできない」「仮に普通解雇であったとしても、本件解雇は社会通念上相当とは言えないので無効だ」という旨の判断をしている。
すなわち、上記のような問題行動があったとしても、解雇は無効と結論付けられた。

最後に

問題行動があった=クビにしていい【わけではない】。これは労働法の基本原則だ。
今回、裁判所は、Aさんの行為について「軽くはない」と認定したが、それでもなお、懲戒解雇は重すぎると判断した。理由はシンプルだ。
懲戒解雇は、労働者の職業人生を断ち切ると言っても過言ではない“もっとも重い処分”だからである。
会社が従業員に対して多少不満を持っていたとしても、軽い懲戒処分などを経ない懲戒解雇が有効とされることはほとんどない。若干、ハードルが下がるとしても普通解雇も難しい。参考になれば幸いだ。


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