「ランチセット950円」のはずが…お会計は1045円 税込み表示“義務化”から5年、なぜ今も「税抜き」の店が?【弁護士解説】
全国の飲食店は私たちの胃袋を支える大切な存在だ。近年はインド料理や中国料理など、外国人が経営する店も身近になり、街の食文化は一層多様化している。

その一方で、店頭メニューに掲載されていた料理が実際には提供されていなかった、表示が税抜き価格だったため会計時に想定より高額になった、などメニュー表示をめぐるトラブルも少なくない。

珍しいレッドカレーが食べられると思ったら…

会社員男性のAさんは、ある日、都内の某タイ料理店の前を通りかかったところ、外に掲示されているランチメニューにレッドカレー(ゲーン・ペッ)があることを発見した。
グリーンカレー(ゲーン・キアオ・ワーン)ならどこのタイ料理店にもあるが、レッドカレーをランチで出す店は意外と少ない。レッドカレーが好物なAさんは店の中に入った。
ところが、席に着き注文しようとすると、店員に「外にあるランチメニューは古いものであり、もうレッドカレーは出していない」と言われてしまった。
Aさんは釈然としない思いを抱きつつも、すでに水とおしぼりが出されていたため、代わりにパッタイ(タイ風焼きそば)のランチセットを注文した。メニューには950円と書かれており、「近隣の店のランチはどこも1000円を超えているんだから安い方だ」と自分に言い聞かせた。その味も悪くなかった。
ところが、会計で要求された金額は1045円。メニューに表示されているのは税抜きの値段であり、税込み価格はどこにも記載されていなかったのだ。
お目当てのものは食べられず、思っていたよりも高い金額を支払わされたAさんは二重にだまされたような気持ちになり、そのタイ料理店には「もう二度と行くものか」と心に誓ったという。
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結局、Aさんが食べることになった「パッタイ」(K321/PIXTA)※写真はイメージ

提供されない商品が掲載されているメニューは「おとり広告」

そもそも、店頭のメニューや広告に記載されている商品が、いざ店内に入ると実際には提供されていない状況は、法律的に問題がないのだろうか。
飲食業法務の専門家であり、自身でも飲食店を経営している石崎冬貴弁護士によると、実際には購入(注文)できないにもかかわらず購入できるかのような表示や、購入数や購入期間が限られているのにそれを明示しない広告は「おとり広告」として規制されている。
具体的には、景品表示法5条3号及び平成5年公正取引委員会告示第17号「おとり広告に関する表示」によって規制が定められている。
そして、違反すると飲食店の経営者などの事業者には消費者に対する説明と、再発防止策の実施などが命じられる(措置命令)。
さらに、この措置命令に従わない場合には、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科もあり)に処せられる。また、法人の場合はそれに加え法人自体にも3億円以下の罰金が科される。
情状(違反の悪質性や故意の程度など)によっては拘禁刑と罰金の両方が科される可能性もあるため、罰則は重いと言えるだろう。
ただし、おとり広告として規制対象になるかどうかは、個別具体的な事情により判断される。
「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」では、「当該店舗において通常は店頭展示販売されている商品について、広告商品が店頭に陳列されていない場合」が例として挙げられている。
そのため、Aさんの事例については、「レッドカレーの提供を“現在は”中止しているということの実態が重要です」と石崎弁護士は語る。
「例えば、メーカーの欠品や調理担当者の休暇などで、ごく短い期間、レッドカレーが一時的に提供できていないというのであれば、ランチメニューにレッドカレーが表示されていても『おとり広告』と言い切るのは難しいと思います。
逆に、当面提供できないことが明らかであるのに『レッドカレー』の表示を続けていれば、それはまさに『おとり広告』です」(石崎弁護士)

税込み価格を表示しない場合にも罰則の可能性が

2021年4月から、消費者向けの商品・サービスの販売にあたって、消費税込みの価格を表示(いわゆる「総額表示」)することが義務化されている(消費税法63条)。
あくまで総額を表示することが求められているため、「1000円(税別)」や「1000円+税」などの表示も認められていない。一方で「1100円(税別価格1000円)」のように税別額や税額の表示を併記することは可能だ。
しかし、Aさんがランチを食べたタイ料理店のように、一部の飲食店では税抜き(税別)価格を表示し続けている場合がある。
また、「税別表示」であることが、メニューの隅などにわかりづらく記載されている場合もある。
こうした状況が散見される背景には、全ての商品やサービスの価格表示を変更することは事業者への負担が大きいとして、総額表示の規制に罰則が定められていないという事情がある。
「そのため、現在でも、一般社会では、税別表示が多くみられます。ただし、罰則がないと言っても、消費税法上の罰則がないというだけです。
表示価格が税込み価格でないにもかかわらず税込み価格であると一般消費者が誤認すれば、景品表示法5条2号(有利誤認)に該当する可能性があります」(石崎弁護士)
そして、「おとり広告」についてと同様に、景品表示法違反に対しては措置命令が行われる。
過去には、メニューなどで実際には税別表示であるにもかかわらず、税込み価格であるかのように表示していた居酒屋チェーンに対して再発防止措置命令が出されたケースもある。
「また『おとり広告』と異なり有利誤認の場合には、『課徴金納付命令』が出されることがあります。
課徴金の金額は、不当な表示があった商品・サービスの売上高の3%相当となります。そのため、規模が大きくなれば、課徴金も莫大(ばくだい)な金額になります。
消費者の期待に応えるという意味でも、事業者には、税込み価格について適切な表示を行うことが求められるのです」(石崎弁護士)


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