かつては“おじさんの趣味”といわれた競馬が変わりつつある。きっかけのひとつは、昨年放送されたドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)のヒットだ。
これを機に新たなファン層が競馬場に流れ込み、年末の有馬記念では売上が前年比で約163億円増加。総額713億円超という異例の数字を叩き出した。
新規参入者が増える一方で、ひそかに問題視されているのが「鑑賞マナー」だ。
人気Vtuber・さくらみこ氏による実況配信では、JRAの有料放送(※グリーンチャンネル)のパドック解説を配信内で復唱・共有したとして炎上し、一時活動休止する事態となった。
じつはJRAは、一般人にも関係のある「競馬場での撮影・配信」に関しても細かいルールを設けている。だがその内容は、一般の特に新規ファンには必ずしも周知されていない。ただ馬を撮るだけでも、ルール違反になる可能性があるという。
新規ファンには“厳しすぎる”とも取れるJRAのルールだが、その正当性について、民事事件などに多く対応する三木悠希裕弁護士に話を聞いた。(ライター・倉本菜生)

競馬場では何が禁止されているのか

まずは、JRAが定めている競馬場内での撮影・配信ルールをおさらいしておこう。
代表的なものが、パドックなど馬がいる場所でのフラッシュ撮影禁止だ。三脚などの自立する器具を使った撮影や、踏み台・脚立に上っての撮影も認められていない。
さらに注意が必要なのが、権利侵害に関するルール。
JRAは公式に「JRAの職員などを含む他者の肖像権を侵害するおそれのある撮影、行為」および「JRAなどを含む他者の著作権、商標権等の権利を侵害するおそれのある撮影、行為」を禁止している。

前者は、自分以外の来場者やJRAの係員が写った写真・動画を、本人の同意なく撮影・公開する行為と解釈できる。一方で後者は、競馬場内の映像や表示物、ロゴ、ターフィーショップで販売されている商品などを指していると考えられる。
とくに強調されているのが、営利・商用目的での撮影や配信で、JRAは「私的使用の範囲を超える撮影全般」を原則として禁止している。あくまで「私的使用目的」の範囲内であれば、撮影やSNSへの投稿も可能のようだが、その場合でも、他者の肖像権や著作権、商標権を侵害しないよう、十分な配慮が求められている。
他方で、ライブ配信については扱いが異なる。
営利・非営利を問わず「インターネットその他メディアを使用し、公衆向けにライブ配信、録画配信、投稿、アップロード等する行為」を禁じており、たとえ収益化をしていない個人の配信であっても、私的利用を理由に認められるわけではないと読み取れる。
解釈の余地がある文言が並ぶため、具体的にどんな行為がNGなのか戸惑う人もいるかもしれない。私的利用と商用・営利利用の線引きや、「著作権、商標権等の権利を侵害するおそれのある撮影、行為」の具体例についてJRAに問い合わせたところ、「管理部署が複数に渡るため、即答が難しい」との回答があった。
こうした一見厳しく、かつ曖昧にも見えるルールの法的根拠はどこにあるのだろうか。

撮影・配信が制限される法的根拠とは

競馬場内でのライブ配信や、私的使用を超える撮影・投稿が制限されている理由について、三木弁護士は「施設管理権に基づくものと考えられます」と話す。
「施設を所有・管理している者には、その施設の安全や秩序を維持するため、一定のルールを設ける権限があります。来場者がそのルールや指示に従わない場合、施設管理者は退場を求める、出入りを禁止するなどの対応を取れます」
ただし、施設側が利用者にルールを設ける際には、その施設の利用目的を踏まえ、合理的といえるかどうかが問われ得るという。
「競馬場は、競馬を公正かつ安全に開催することを目的とした施設です。
許可を得ずに行う営利目的などの撮影や配信活動は、競馬場の目的に必要な行為とはいえません。また、無許可での撮影行為により、他者のプライバシーや肖像権を侵害するおそれもあります。私的使用以外での撮影行為の禁止は、合理的だといえるでしょう」
一方で三木弁護士は「JRAからのお願い・ご注意」の記載について、「やや広く読み取れる表現になっている」と指摘する。
「現在の記載を見ると、撮影対象の限定などがなく、一律に公衆向けの投稿をすべて禁止しているようにも読めます。そうすると、本来JRAが想定している範囲を超えて、必要以上に広い制限を課していると受け取られる可能性もあるでしょう。その結果、来場者が競馬場の魅力や楽しさを発信するという、SNSが持つプラスの効果まで抑えてしまうおそれがあります」
もっとも、そうしたマイナスの影響を踏まえたうえで、どこまでルールを設けるかは「経営判断の範囲内」だという。

どこまでが「私的使用」なのか

多くの競馬ファンにとって特に気になるのは、「私的利用」の範囲だろう。筆者も競馬にハマりたての頃、場外馬券売り場へ行き記念に外観を撮ろうとしたところ、警備員に注意されたことがある。ところが、施設内に飾ってあったグッズについては、撮影許可を求めるとOKされた。そのため、線引きはどこだろうかと悩んだことがある。
今思えばおそらく、私的利用であっても来場者の顔が写り込む可能性があるとして禁止されたのだろうが、一般的には、どこまでが許され、どこからがアウトになるのだろうか。
「私的使用目的について、JRAのホームページ上では明確な定義が示されていません。
著作権法における『私的使用のための複製』を参考に考えると、自分ひとりで楽しむ目的や、家族や特定の友人に見せる目的などであれば、問題はないと思われます」
一方で、不特定多数の者に公開したり、販売や譲渡を目的として撮影・投稿したりする目的の場合は、私的使用の範囲を超える可能性があるという。
また、企業が業務目的で撮影する場合には、たとえ社内利用に限られていたとしても、私的使用に当たらないと判断されることがあり得るそうだ。
JRAは撮影禁止行為として、「著作権、商標権等の権利を侵害するおそれのある撮影、行為」も挙げている。この点について三木弁護士は、「JRAや、JRAが許可した事業者が撮影した公式の写真や映像、音声などを、無断で転載したり編集したりする行為が考えられます」と話す。
「商標権については、競馬場で販売されている商品の名称やロゴだけでなく、馬名も商標登録されている場合があります。それらを無断で使用したり、パロディに使ったりすると、問題となる可能性が高いです。
実際にJRAがどのような運用をしているかは、ケースごとに異なる可能性があります。不安なときは、事前に確認や許可を取っておくと安心でしょう」
競馬人気が高まり、発信する人が増えた今だからこそ、「知らなかった」では済まされない。ルールを正しく理解したうえで競馬を楽しむ姿勢が、ファン一人ひとりに改めて求められている。
■倉本菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。

フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。X:@0ElectricSheep0/Instagram:@0electricsheep0


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