報道によると、メモには、コカイン入りのカプセルをマンションに置き、事情を知らずに飲んだと装うよう指示する内容が記されていたという。
接見の場における「不正文通」の実情
刑事訴訟法39条1項は、弁護人依頼権を保障した憲法34条を受け、被疑者・被告人に弁護人とだけは自由な接見(面会)ができることを保障している。これを弁護人と被疑者・被告人との接見交通権という。弁護人にとって接見は、被疑者に対する不当な取り調べを防いだり、嘘の自白をしないよう励ましたりするなど、その職責を果たすための不可欠な機会だ。一方で、捜査機関にとっては捜査妨害につながる可能性もあり、両者は常に緊張関係にある。
元警察官で留置担当官の経験もある『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の著者・安沼保夫氏は、接見現場の実態を次のように証言する。
「今回の容疑のような内容かはともかく、法的にグレーかもしれない文通などの現場は、留置時代に何度も接しました。
弁護士接見は文字通り密室で、ノックすることすら憚られますので、内側で何が行われているかは知る由もありませんが、声が外部に漏れ聞こえることがありますので、たまに聞き耳を立てていました。たとえば、接見禁止の被疑者が弁護士の携帯電話を通じて家族と通話しているような声が聞こえたこともあります。
また、接見禁止の被疑者が本来禁止されている家族宛ての手紙を弁護士に宅下げ(被疑者・被告人や受刑者が、留置施設(警察署や拘置所)で所持している私物を、外部の家族や弁護人などに渡す手続き)するなんてことはよくありますが、強制的に取り上げることもできないので、半ば黙認されていました」
施設の構造上、声が外へ漏れ出ることはあっても、接見が行われるのは被疑者と弁護人だけの“密室”。やろうと思えば何でもできるのが実情だ。
なお、弁護士に頼らずとも、「同房者等と共謀したいわゆる『ハト飛ばし(※)』は昔からの常套手段です」とのこと。
※ 身体拘束されている者と他の者が何らかの方法によって互いに連絡をとること。
なぜ「不正が行われるかもしれない状況」が黙認されるのか
ではなぜ、捜査機関側はこうした状況を黙認するのか。安沼氏が明かす。「接見時、たとえば一般面会者には携帯電話などの通信機器をロッカーにしまうように“お願い”はします。ですがそれ以上の持ち物検査はできないのが現状です。身体検査などもってのほかです。
弁護士にも同様にお願いベースではやっていたと記憶しています。
ただし、弁護士に無理強いはできません。被疑者の防御権・接見交通権に対する不当な侵害になりかねないからです。
実際に、弁護士とってスマホは、その場で被疑者の話の裏取りをするためGoogle Map等で犯行現場の状況等を把握したり、過去の裁判例等の調べものをしたり、必要な書類を事務員に手配させるため連絡をとったりするのにも必要なので、やむを得ない面もかなりあります。
したがって、留置担当官は、ある程度黙認せざるを得ないのが実情です。目に余る行為がある場合、弁護士会に通報することもできるそうですが、実際にそこまでやったというのは聞いたことがありません」
“業界のあたりまえ”ではないが、弁護士と捜査機関の間で、一定の許容範囲の下、暗黙の了解があるようだ。
接見が悪用された事例
今回、証拠隠滅教唆の疑いで書類送検された弁護士は、接見した際、証拠隠滅を指示する内容のメモを携帯電話で撮影し、被疑者の親族に送信したという。この行為について安沼氏は、次のように推察する。「弁護士は被疑者の味方である一方、それが過ぎて捜査妨害をしてしまう人や、黒を白にするような人がいるのも事実です。スマホで証拠隠滅の指示を撮影して外部に送るなんて、やろうと思えばできるし、倫理観の低い弁護士がやってしまっていても、私は不思議とは思いません。
この弁護士はやり方が稚拙だったのではないでしょうか。写真をそのまま送らず、口頭で伝えることや秘匿性の高いアプリを使うことなどは可能であり、そうすれば発覚しなかった可能性があります」
弁護士の接見交通権の悪用は言語道断だが、過去には不祥事も起こっている。記憶に新しいところでは「ルフィ」事件(2023年2月)の事案がある。弁護士が被疑者との接見時、自身の携帯電話を使って被疑者と外部の人物との口裏合わせの電話を仲介。証拠隠滅容疑で家宅捜索を受けた。
また、直接の「文通」ではないが、大阪・富田林署の逃走事件(2018年8月)では被疑者が面会室の仕切り板を壊して脱走した際、接見していた弁護士は警察官に終了を告げずに立ち去り、結果として逃走の発覚を遅らせる要因となった。接見の密室性が悪用された象徴的な事件だ。
不正文通の捜査への影響
日弁連は捜査機関が接見交通権の秘密性を侵し、接見内容について取調べの際に尋問したり、接見内容を取調べて供述調書化したりする例も見うけられるなどとし、そのやり方の是正を求めることが課題であるとして活動していく強い姿勢を示している。今なお、捜査機関による冤罪作出が問題になることからすれば、被疑者・被告人の弁護士との接見交通権自体は、強く保障されなければならない。
特に、外部との面会を禁止され、孤立無援の状況にある被疑者にとって、唯一の外部との“接点”となる弁護士との接見は極めて重要だ。
結局、接見交通権の保障は弁護士の倫理観があって初めて成り立つものであり、かつ、そこに委ねざるを得ない。
上述のような不正行為に関与している弁護士がごく一部の特殊な例外だとしても、彼らの一線を越えた行いが、正当な接見交通権の行使までをも過度に制限する口実として利用されかねない危険性がある。
その意味で、今回の事件に関与した弁護士の責任はきわめて重大であり、倫理観を疑わざるを得ず、強く批判されて然るべきものといえる。

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