介護が必要な人の自宅を直接訪問し、日常生活の継続に必要な支援を行う専門職です。
具体的には掃除や洗濯、食事づくりや買い物等の「生活援助」と、入浴介助やおむつ交換等の「身体介護」を行います。
介護保険制度上の正式名称は『訪問介護員』ですが、現場では「ヘルパーさん」と呼ばれることが多く、この記事でも、一般的な呼び方である「ホームヘルパー」「ヘルパー」という名称を用います。(ホームヘルパー・藤原るか)
介護保険制度と「在宅介護」への転換
「介護の社会化(家族の負担を社会全体で支えること)」を目的として、介護保険制度が2000年に施行されてから、今年で26年目を迎えています。40歳以上の人は、全員が収入に応じた形で介護保険料を支払っていますが、要介護認定を受けてはじめてサービスを利用できる仕組みであり、医療保険のように誰でもすぐに使える制度ではありません。
介護を受ける当事者やその家族になって初めて、制度の仕組みや制約を知るケースも少なくありません。
この制度では、介護を受ける人が自立した生活を送ることを目指す「自立支援」に重点が置かれています。そのため、ヘルパーが行えるのは、この「自立」につながる「生活援助」と「身体介護」に限られています。
ここが、家政婦との大きな違いです。しかし「ヘルパーは何でもしてくれる」と思われていることも多く、現場での対応は大変です。本当はヘルパーには制度上「やってはいけない事」も色々あるのですが、その制約を説明すると「使えない」等と言われて、ヘルパーが悲しい思いをすることもあります。
削られる訪問時間、追い詰められる現場
介護保険制度は、3年に1度見直されてきましたが、利用者の増加に伴い、給付抑制の目的でヘルパーの訪問時間が短縮され続けてきました。2000年当初は1回90分だった訪問時間は、2009年に60分、2012年には45分へと短縮。現在では10分単位の訪問も認められています。
その結果、ヘルパーはコマネズミのように、地域を自転車や車で動き周り、時間に追われながらケアを提供する働き方を余儀なくされています。
ここからは、短時間の訪問のなかで、ヘルパーがどのような判断と対応を迫られているのか、実際のある朝の様子を紹介します。
90歳を超えて在宅で暮らす須賀さん(仮名)夫婦宅を訪問した際のケースです。夫の敬一さんは要介護2、妻の和子さんは要支援2で、お二人とも認知症状があります。
「1分も無駄にできない」ヘルパーの奮闘
チャイムを押しても難聴のある和子さんには届かない事が多く、この日の朝も2回押して返事がありませんでした。やむを得ず玄関の扉を開けて入室します(こういった場合に限り、キーボックス等を準備していただいています)。須賀さん夫婦宅への訪問時間は30分。1分も無駄にできません。
玄関で「和子さ~ん」とできるだけ大きな声で呼び掛けると「ヘルパーさん、来てくれて良かった!」と大きなボストンバックを持って和子さんが現れました。
デイサービスの日ですが、和子さんの記憶の中では、いつのまにか「入院の日」にすり替わっているご様子です。
居間の散らかり具合を確認しながら、和子さんにはカレンダー見ていただき「今日はデイサービスの日ですよ」と説明。足はそのまま敬一さんの部屋へ向かいます。
敬一さんは、昨夜飲んだ薬の空袋を額に貼りつけたまま、うとうとされていました。部屋にはわずかに尿臭もあり、ベッドパットの交換が必要かもしれないと判断します。
本来なら、時間をかけて着替えをしたいところですが、すでに5分が経過しています。
台所に行きタオルを絞ってレンジに入れ、和子さんに「タオルを2本、電子レンジにかけるから、チンとなったら教えて!」とお願いします。その間にデイサービスに持っていく荷物・薬・朝食用のヨーグルトを準備します。
前夜に訪問したヘルパーが用意していた衣類が洗濯機に移されていました。しっかり者だった和子さんらしい行動だと感じつつも、リハビリパンツまで入っていたので、洗濯機のスイッチが入っていなかったことに胸をなでおろします(リハビリパンツを洗濯機にかけると大変なのです)。
和子さんが律儀にレンジから音がしたと知らせてくれました。「顔からふきますよ~」と声をかけてホカホカの蒸しタオルで、敬一さんの体を拭いていきます。
敬一さんの額についた薬の空袋を見て、和子さんは「昨夜、探したんだけれど、見つからなかった!こんなところにあったのね~」と笑顔を見せます。思わずこちらも頬が緩みますが、作業は止められません。
長年バスの運転手だった敬一さんは、「時間」の認識はしっかりしています。「後5分で着替えましょう」と伝えベッドに座りなおしてもらい、和子さんの手も借りながらまずは上半身を着替えていきます。
次にベッドの柵に掴まって立ち上がってもらい、尿で汚染されたベッドパッドを交換。
和子さんに「青い蓋のお薬はありますか?」と聞いてみましたが、要領を得ません。
薬箱を探しに行く間に、和子さんには着替えた衣類を洗濯機に運ぶ作業をお願いしました。きれいな服と別にしておかないと、しっかり者だった和子さんは認知症状から、汚れたシャツをまた敬一さんに着せてしまうこともあるからです。
「和子さんがいてくれないとデイサービスのお迎えに間に合わないね~」と慰労しながら、敬一さんの尻に薬を塗り、下半身の着替えも終わらせます。
尿失禁があったことで予定より5分押して、残りは10分です。
最後の10分で朝食。敬一さんの寝室から居間までは3メートルほどですが、けがをしないよう肘を支えながら両手を引きます。椅子に座るまで転倒や膝折れの危険があるので気は抜けません。「右・左」と声をかけながらリズムをとりゆっくり歩きます。
この日のメニューはコーヒーと、ヨーグルト。
しかし、「また、明日」という挨拶もそこそこに自転車で次のケアに向かわなければなりません。このような訪問が午前中3件も続けて入れば、正午前にはもう夜かと思うほどぐったりします。
「ゆっくり、やさしく、穏やかに」が許されない現場
これが2000年の介護保険制度成立以降、国が削りに削っているヘルパーの訪問時間の実態の1コマです。こんな風に時間に追われる働き方に疑問を持たない日はありません。何がどうして、介護保険の中では1分1秒を争う曲芸の様な在宅ケアになってしまったのでしょうか?
認知症ケアは「ゆっくり、やさしく、穏やかに」が認知症の人と家族の会の合言葉になっているのに、専門職と言われるヘルパーの労働現場はゆっくりできない現状があるのです。
■藤原るか
訪問介護事業所のヘルパー。学生時代に障害児の水泳指導ボランティアに参加したことから福祉の仕事に興味を持ち、区役所の福祉事務所でヘルパーとして勤務。介護保険スタートにあわせて退職し、以来訪問ヘルパーとして20年以上活動している。

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