「求人情報に書いていた金額と違う」
「月給が6万円も低い...」
Aさんは、手渡された内定通知書を見て驚いた。その後、条件交渉を重ねたが折り合わず、採用は白紙撤回となった。

これに対し、Aさんが訴訟を提起。
裁判所は「求人情報とは違う内定通知書を渡すこともあり得る」と判断して、Aさんは敗訴した。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

経営コンサルティングや不動産売買などを行うX社で起きた事件だ。同社の面接を受けたAさんは30代の男性である。
Aさんが面接を受けてから約1か月で採用が白紙撤回になっている。経緯は以下のとおりだ。
■ 求人情報に書かれていた月給
Aさんは、次の月給が記載された求人情報を見てX社に応募した。
月給46万1000円~53万8000円
みなし残業手当45時間分を含む(11万2680円~13万1490円)
■ 提示額の減額
その後、社長との面接が行われた。面接のあとに手渡された採用内定通知書の月給欄には以下の記載があった。
月40万円(45時間相応分の時間外手当を含む)
なんと、求人情報の金額より6万円以上、少なくなっていたのだ。その2日後、Aさんが社長に電話をかけ「基本給40万円に45時間相応分の残業代は含まれるのでしょうか」と質問した。
この時点では明確な回答は得られなかったようだが、その後、Aさんと社長がメールのやりとりを行い、条件に火種を残したまま、ひとまず出社日は面接日の約1か月後に設定された。

■ 労働契約書の提示
面接から約2週間後、AさんがX社に赴き、労働契約書を受け取ったところ、その月給欄には以下の記載があった。
月給30万2237円
時間外勤務手当9万7763円(時間外労働45時間に相当するもの)
これらの合計額は、以前手渡された採用内定通知書と同じ40万円だ。求人情報に書かれていた金額から6万円以上も少ないままである。
Aさんは納得できなかったのか、サインせずに契約書を持ち帰った。
その日、取締役本部長がAさんに電話をかけた。Aさんがサインしなかったので気持ちを確認したかったのであろう。するとAさんは「基本給40万円に固定残業代は含まれるのでしょうか」などの質問をした。Aさんとしては、当初の求人条件とのかい離について改めて確認を求めた格好だ。
■ X社が決断を迫る
これを受け、X社側は話し合いでの解決は難しいと判断したのか、2日後、取締役本部長がAさんに、次の内容が記載されたメールを送り、決断を迫る。
  • 労働条件は採用内定通知書のとおり(※求人情報の月給より下がった金額)
  • その条件で働くことが難しければ辞退を申し出てほしい
  • 固定残業代を含まず基本給40万円を希望なら再度選考を行う
さらに2日後、取締役本部長が再度Aさんにメールを送り、今後の準備などもあるので明日までに返信してほしいと督促した。
これに対しAさんは、「お話ししたとおり出社はいたします。他手当7万8000円の内訳が分からないので教えてください」と返信した。

取締役本部長は「他手当7万8000円とは、どの書類に記載されていた内容か?」と困惑し、メールで質問を返した。しかし3日ほど返信がなかったため、「明日までに返事がほしい」とメールしたが反応はなく、Aさんに電話をしても応答がなかった。
■ 労働契約書の内容を“修正”して提出
事前に設定されていた入社日に、Aさんは予定通り初出社し、サインした労働契約書を提出した。しかし、Aさんは「月給の30万2237円を二重線で消して、40万円と書く」という修正を加えていた。
「私はこの月給を認めていない」という意思表示だ。X社側はAさんに帰宅するよう伝えた。
■ 白紙撤回
翌日、取締役本部長がAさんに「弊社が提示した給与条件をAさんが了承できないのであれば、労働契約は締結されていない状態にあると考えている。弊社がAさんに対して行った雇用契約の申し込みを撤回する」とのメールを送信。
その後、採用は白紙撤回となった。
これに納得できないAさんは提訴。「求人情報どおりの条件で契約が成立している。白紙撤回になった日からの賃金を支払ってほしい」などと主張した。

裁判所の判断

結果はAさんの敗訴だ。裁判所は「6万円ほど高い求人票どおりの契約は成立していない」旨を判断した。思考過程は以下のとおりだ。理解を深めるため会話風に記載する。
裁判所:
「求人票を見てAさんはX社に打診している。これは【契約の申し込み】だ。この申し込みを【X社が承諾したのか?】が問題だが、X社がAさんに手渡した採用内定通知書は求人情報に記載されていた内容と異なっている。なのでX社が求人どおりの条件を承諾したとはいえない。なので求人票どおりの契約は成立していない」
Aさん:
「求人情報に月給を記載しておきながら、採用内定通知書にはそれより減額された金額を記載することは信義則に反すると思います」
裁判所:
「信義則に反しない。企業には契約締結の自由があるので、採用面接の内容を考慮した結果、求人情報と異なる労働条件を内容とする採用内定通知書を交付することもあり得る」
以上のように判示して、Aさんの請求は棄却された。

最後に

求人票に記載された条件と、その後の面接で実際に提示された労働条件が異なる――。就職活動の現場では、決して珍しい話ではない。求人票はあくまで「申し込みの誘引」にすぎない場合があるため、ご注意いだければ幸いである。



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