1月26日にYouTubeの自民党公式チャンネルに投稿された、高市早苗首相が出演する動画(タイトルは「【高市総裁メッセージ】日本列島を、強く豊かに。」)の再生回数は8日時点で1億回を超えており、同日、自民党は「党としても想定外であり、大変驚いている」などと見解を記したコメントを発表した。選挙後も再生回数は伸び続けており、2月25日時点で1億6000万回を突破している。

「選挙ドットコム」(イチニ株式会社)が2月13日に公表した、「衆院選」関連や各政党キーワードを含む政党・立候補者とそれ以外の「サードパーティ」が投稿したYouTube動画を対象にした調査によると、調査期間中の総視聴数では自民党が約2億2719万回で首位、次いで中道改革連合が約1億3859万回。
また個人名での集計では「高市早苗」に関連する動画が約4億4615万回視聴されていた。
同調査では、選挙期間中に視聴されたYouTube動画の8割がサードパーティによるものだったとも指摘されており、収益目的で事実に基づかない情報を発信する個人や業者に対する警戒の声も広まっている現状だ。
しかし、そもそも、一般に公職選挙法は「有料インターネット広告」を禁止していると説明されている(142条の6)。なぜ、各党は選挙期間中にYouTubeに動画を公開したり、XなどのSNSでも動画を表示させたりすることができたのだろうか。

「選挙運動」と「政治活動」の違いとは?

公職選挙法は「選挙運動」と「政治活動」を区別している。
選挙運動とは「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為」のこと。公職選挙法は、選挙運動は選挙運動期間(※)にしかすることができないと定めており、内容も細かく規制している。
※選挙の公示・告示日から選挙期日の前日まで(129条)
一方で政治活動とは「政党など政治団体の主張をアピールすること」であり、原則として自由に行えることになっている。
具体的には、選挙期間中に、「第〇〇回〇〇選挙~」と明示したり候補者の名前を入れたりしたうえで投票を求めるビラを政党が発行・配布する、または同様の内容の動画を公開する行為などが「選挙運動」として、公職選挙法上、期間や方法・有料広告であるかどうかなどについて厳しい制限を受ける。
一方で、選挙や候補者を特定せず、あくまで政策の普及や宣伝を名目としたビラの配布や動画の投稿は「政治活動」であるため、基本的には制限なく許容される。
さらに党勢拡大のための活動や後援会活動(会員の拡大や行事など)、街頭演説会なども、選挙運動期間中に当選を目的として行われない限りは選挙運動ではなく政治活動にあたり許容される。
表現と法律の関係に詳しい杉山大介弁護士は「政治活動を制限してはいけないというのは、本来の『表現の自由』の発想からも理解できます」としつつも「選挙中にも名目上は『政治活動』にあたる広告を回転させることで、実質的には当選に向けたとしか言いようがない効果を生んでしまっているのが問題であり、現行法が対処できていない部分です」と指摘する。

インターネットは「カネのかからない選挙」を実現するはずだったのに…

公職選挙法142条の6が禁止しているのは、候補者や政党名を表示し、特定の選挙での当選を目的とする「選挙運動」用の有料インターネット広告だ。一方で、政党に限っては、選挙期間中であっても「政治活動」用の有料インターネット広告が例外的に認められている(同条4項)。
冒頭で述べた「【高市総裁メッセージ】日本列島を、強く豊かに。」を始めとして、今回の選挙期間中やその直前に各党がYouTubeなどに投稿した動画は、基本的には衆院選への直接的な言及や、特定の候補への投票の呼びかけは含まれていない。
また、高市首相などの個人が視聴者に向かい語りかける形式ではあっても、動画内で特定の候補者への投票を呼びかけているわけではない。
そのため、これらの動画・広告は「選挙運動」用のものにあたらず、現行法の枠内で合法と整理されているのである。
しかし、そもそも公職選挙法には、各政党の資金力の差などハードパワー(※)の差によって、一人一人が主権者であるという原則に反して特定の政党が圧勝することを防ぐという趣旨が含まれている、と杉山弁護士は指摘する。
※政党が保有する資金力や組織力など、選挙戦で「物量」として動員される力のこと
「この趣旨を実現するため、公職選挙法は、特定の期間に特定の手段でしか政党や候補者が投票への働きかけをできないようにしました。具体的には、戸別訪問の禁止や、運動員・車などの道具を制限しています。
また、飲食物の提供すら原則として禁止する(139条)、選挙当日の声かけ合戦(※)を禁止するため前日に選挙運動を終了させる、などの厳しい規制を設けているのです」(杉山弁護士)
※「○○候補をお願いします」などと有権者に直接呼びかけてまわるような運動のこと
インターネットの活用についても本来は、資金力がない政党でも政治的な主張を広げることを可能にする手段、つまり政党間の格差を助長するのではなく是正するものとして捉えられていたという。
そのうえで「現在起きている状態は、公職選挙法が想定している理念の真逆となっています」と杉山弁護士は指摘する。
「問題なのは、選挙に絡んだ形で、(動画を投稿する個人・業者などが)収益を得ることが可能になっていることです。そして、(YouTubeやSNSなどの広告費として)政党が突っ込んだ金額によって、表示数を左右できることです。

個人や業者が金のために情報をばらまき、また政党がプラットフォーム企業に金をどれだけ払ったかで情報の広まりが変わる。こういった法律・制度の穴が、見事に突かれている状態にあります。
選挙が、公職選挙法が最も嫌った『カネの量で決まる勝負』になっている状況にあるのです。しかも、上記のような手段で選挙に勝利した側は通常、自分たちを不利にするような制度変更を行いません」(杉山弁護士)
杉山弁護士は、上記のような問題をふまえると選挙期間中に広まったYouTube動画などについて「政治的表現の自由」を認める意味はないと指摘する。
「政治的な情報を拡散させる動画などの収益化を禁止する、YouTubeやSNSなどの各媒体に投下されている金銭を公表するなど、新たな規制を設けて制度を整理することが必要でしょう。
(選挙や政治的な物事における)インターネットの悪用は海外ではとっくに問題になっており、対応が始まっているなか、日本だけは遅れに遅れています。(ロシアや中国など)一部の国による情報操作が行われているとも、たびたび報告されています」(杉山弁護士)
24日に衆院本会議で行われた各政党代表質問で、高市首相はスパイ防止法を制定する必要性を訴えた。
「スパイなどという抽象的な危険の規制を叫びながら、現在進行形の浸食しきった情報攻撃の温床は放置するなどという、自国の弱点の悪用が今後も続かないよう切に願いますね」(杉山弁護士)


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