Aさん(社員):「胃がんになってしまいました」
会社:「1年ほど休職してください」
~ 約1年後 ~
Aさん:「回復してきたので復職させてください」
会社:「治癒していないですよね。休職期間が終われば自動退職になります」
Aさんが訴訟を提起したところ、裁判所は「Aさんは治癒している。
自動退職は無効」と判断した。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

Aさんは、30年以上の経験があるベテランのトレーラードライバーで、運送会社で正社員として働いていた。
入社して5年を過ぎたころ、Aさんは医師から胃がんと告げられた。
■ 胃がんの発症と経過
2014年
3月 胃がんの宣告を受ける(仕事が原因ではない)
4月 手術で胃をすべて摘出
7月 退院
■ 休職命令
同年8月、会社はAさんに対して「治療・療養に専念する必要がある」として、1年2か月(~2015年10月20日)の休職命令を出した。なお、就業規則では「休職期間が終わる前に休職事由が消滅しなかった時は自動退職とする」と定められていた。
自動退職とは、復職できる程度にまで病気が治らなかったら自動的に退職するということだ。この規定はほとんどの会社にある。
【ポイント】
今回の争いは「病気が治っていたのか(=治癒していたのか)」だ。復職をめぐる裁判では、ここが大きな争点となる。
■ 復職に向けて診断書を提出
休職して約1年後、Aさんが復職に向けて動き始める。2015年8月、Aさんは会社に診断書を提出。その診断書には主治医が「9月以降、仕事に復帰できる」と記載していた。

■ 取締役たちと面談
同年9月、取締役は話し合いのため、Aさんを呼び出した。その場には社労士も同席しており、当時の会話は以下のとおりだ(判決文を再構成)。
【会社側の発言】
「1週間は半日勤務、その後は健康状態を聞いて徐々に体を慣らしてもらおうと考えている」
「Aさんの意見を聞きつつ、一人前に仕事ができると判断したら通常の勤務に戻ってもらう」
「会社の産業医が10月20日までに復職ができると言えば、休職命令を解除できる」
これを聞いたAさんは、「復職できるかもしれない」と思ったであろう。
【Aさんの発言】
「8時間なら問題はないと思いますよ」
「段階を追ってということは私も理解していますので」
■ 会社による拒絶
その後、取締役らは産業医やAさんの主治医と面談した。しかし会社から連絡がなく、しびれを切らしたAさんは、外部の労働組合を通じて復職時期や所属部署について質問した。
ところが、会社の回答は「復職は不可能」というもの。「あと2週間で自動退職になる」とAさんに通知した。
■ 団体交渉と提訴
その後、労働組合が会社と団体交渉を行い、Aさんは復職を求めた。しかし会社は「医師は『仕事ができるか100%保証はできない』と言っている」と回答するだけで、具体的な説明を拒んだ。
Aさんは「復職できる程度に治癒しており、休職事由は消滅した。したがって自動退職は無効だ」と主張し、裁判へと発展した。

裁判所の判断

2年以上にわたる裁判の結果、Aさんが勝訴。裁判所は「復職できる程度に治癒していた」と認定した。

「治癒」とは、原則としてこれまでの仕事を通常の程度に行える健康状態に回復したことを指す。
■ 会社の反論
会社は「診断書はAさんの強い希望に従って作成されたもので、主治医の本心ではない」と反論した。
■ 裁判所の判断根拠
しかし、裁判所は以下の点から「治癒」を認めた。
  • 主治医の診断書に「9月以降は仕事に復帰できる」と書かれており、有力な資料である
  • 入院中の記録を見ても回復傾向にあり、遅くとも9月末には日常生活に支障がない健康状態だった
  • 8時間以内の勤務であれば、ドライバー業務も過重な負担ではない
  • 産業医も「一般的には胃がんの全摘出であっても、術後1年も経過すれば症状は安定し、就労できると思う」と述べていた
その結果、裁判所は「復職できる程度に治癒しており、休職事由は消滅していたので、Aさんは社員としての地位を有する」と結論付けた。
■「軽い仕事ならできる」場合は、どうなる?
仮に元の仕事が完全にできないとしても、「軽作業なら可能です」などと申し出をしておくことを推奨する(例:肉体労働は無理だがデスクワークなら可能、など)。
その申し出を会社が合理的理由なく断って自動退職させた場合、Aさんのように勝訴できる可能性がある。詳細は「片山組事件」で検索してみてほしい。

最後に

前述のように、復職については「治癒したのか?」が大きな争点となる。治癒を立証する責任は労働者側にあるので、こまめに通院し、体調の回復を主治医に伝えることが大切だ。そして「なぜ復職が可能なのか」を診断書に具体的に記載してもらおう。


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