3月2日、大阪地検に所属する現職の女性検事、ひかりさん(仮名)が都内で記者会見を開き、法務大臣および最高検検事総長宛てに「要望書・辞表・遺書」と題する書面を提出したと明らかにした。
独立した第三者委員会の設置などを求める内容で、3月31日までに要望が実行されなければ、4月末での辞職もやむを得ないとしている。

さらにひかりさんは同日、検事総長らに対する告訴・告発状も提出。会見でひかりさんは「毎日のように死ぬことを想像してしまう」と語りながらも、「死んだら何も残らない。大事な家族を悲しませてしまう」と声を震わせた。

「検察組織や職員を『人質』にして口止め」

事の発端は2018年9月にさかのぼる。
当時、大阪地検のトップだった北川健太郎検事正(当時)が、懇親会後に泥酔状態だったひかりさんを官舎に連れ込み、約3時間にわたって性的暴行を加えたとされる。その後、ひかりさんに対する準強制性交の疑いで起訴され、現在は公判中である。
ひかりさんは、北川被告が自身に対し、この件を明るみにすれば検察組織全体やそこで働く職員に迷惑がかかるとの趣旨の発言を行い、検察組織や職員を「人質」にして脅迫・口止めを行ったと主張する。
夫にすら被害を打ち明けることができず、仕事に没頭することで心の傷を抑え込もうとしたが、PTSDの症状は悪化。2023年末に正式な診断を受け、休職を余儀なくされた。
その後、ひかりさんは2024年3月に被害を申告し、同年6月に北川被告は逮捕、7月に起訴された。10月の初公判で北川被告は起訴内容を認めたが、その後は無罪を主張している。
また、ひかりさん側は副検事Aが、2024年5月に北川被告の内偵捜査中に捜査情報を漏洩し、北川被告との通信履歴を削除するなど、証拠隠滅に該当する行為を行ったと主張。
さらに北川被告の逮捕直後から、ひかりさんが被害者であることを示す個人情報や「ハニートラップ説」と称する事実無根の誹謗中傷を検察内部に拡散したとしている。

この副検事Aに対する捜査について、検察庁は2025年3月、証拠隠滅や犯人隠避などの容疑を不起訴とし、懲戒処分も戒告にとどめた。
これに対し、ひかりさんは「人事院の懲戒処分の指針に照らせば懲戒免職相当の事案だ」と強く反発。
ひかりさん側の代理人を務める田中嘉寿子弁護士は、自身も元検事として勤務した経験を踏まえ、こう述べた。
「私も同期会で、北川擁護派から『北川さんの件はハニートラップだという噂だよ』との話を聞き、私自身、ひかりさん本人から話を聞くまで、その説を信じていました。
それほど、北川被告の表と裏の顔は違っていたのです」

「検察の恥部がさらされるのを嫌がっているのではないか」

ひかりさん側は、検察組織の対応に二重三重の構造的問題があると主張している。
第1に、ひかりさん側が訴えるのは安全配慮義務の不履行だ。主治医は、加害者との分離がなければPTSDが悪化すると警告していたにもかかわらず、検察庁は副検事をひかりさんと同じフロアに配置し続けた。
ひかりさんが復職を試みた2024年7月、副検事の捜査妨害行為や誹謗中傷について一切の説明がないまま、同じ部署に復帰させられた。副検事はひかりさんの行動を監視し、面白おかしく他の職員に吹聴していたと、ひかりさんは主張する。
第2に、ひかりさん側が問題視するのは公益通報に対する報復的対応だ。ひかりさんは副検事の犯罪行為が検察内部で隠蔽されていると考え、2024年10月に記者会見で公表した。すると大阪高検の幹部検事は、ひかりさんに対して「外部に話せば、被害者参加人としての説明や証拠開示をしなくなる」との趣旨を伝えるメールを送付したとされる。田中弁護士はこれを「公益通報者保護法に違反する不利益取り扱い」と断じた。

第3に、訴状で指摘されているのが、ひかりさんの被害者参加人としての権利の侵害だ。ひかりさんは検察官に対し、北川被告の行為によりPTSDになった点について「致傷」とする訴因変更(※)を繰り返し要望してきたが、検察官はこれを拒否し、理由の説明もしていないという。
※審理中に、検察官が起訴状に記載した訴因(犯罪に該当する具体的事実)または罰条を変更、追加、撤回すること(刑事訴訟法312条1項参照)。訴因変更されると変更後の訴因が審判対象となる
田中弁護士は「PTSDを致傷として認めた裁判例は多数あり、因果関係を否定した例はほぼ存在しない。訴因変更しない合理的理由は見出しがたい」と指摘し、「致傷罪にすると裁判員裁判になる。検察はより多くの国民の目に検察の恥部がさらされるのを嫌がっているのではないか」との見方を示した。

「私が検事としてやるべき最後のこと」

ひかりさんは会見の終盤、次のようにコメントした。
「今回、要望書には、3月31日までに、この要望事項を実行しなければ、私はもう国が安全配慮義務を放棄したと判断せざるをえないので、辞職をせざるを得ないと記載しました。
ただ、検事として、犯罪を見て見過ごすわけにはいきません。私が検事としてやるべき最後のこととして、辞職前に職を賭して、検察の環境の改善と、ハラスメントをなくしたいと考えています。
私はもう戻れないかもしれませんが、私の大事な仲間が一生懸命働いてます。彼ら彼女らが私と同じ目に遭わないようにしてあげたいです」(ひかりさん)


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