「番組の企画と称して嫌がらせを受けた」「接待役として呼び出され、罰ゲームと称して性的な言葉を言わされた」——放送業界で働いた経験のある183名への調査から、こうした生々しい証言が相次いで報告された。
一般社団法人社会調査支援機構チキラボと東京大学大学院情報学環・田中東子研究室が3月3日、都内で会見を開き、共同調査の結果を発表。
女性回答者の約4割が「性的な関係の誘いを受けた」経験を持ち、約1割は不同意性交を含む重大な性暴力を経験していたことが明らかになった。

1980年代から続く「業界の慣習」

調査は2025年5月から2026年1月にかけて実施され、スノーボールサンプリング(回答者がネットワークを通じて次の回答者を紹介する手法)により放送局勤務経験者183名から有効回答を収集した。社員のみならずフリーランスも対象としており、被害の報告は1980年代から2020年代にわたる。
報告書に記載された自由記述は、被害の深刻さを生々しく伝える。
「上司から個室に呼び出され、『膝枕してくれない?』『今夜、一緒にお風呂に入りたい』などと言われた」
「演者からホテルに誘われ、断るたびに2人きりの空間で『なぜ行かないのか』と詰められ、叩かれることもあった」
これらは特定の企業・個人の問題ではなく、局や雇用形態を問わず広く確認された実態だとチキラボの荻上チキ代表は強調した。
女性への被害集中も顕著だ。「不必要に身体を触られていた」と他者が被害を受ける場面を目撃した経験は、男性は11名(男性回答者の17.7%)にとどまったのに対し、女性では41名(女性回答者の34.5%)に上った。
さらに、同項目で被害者から「相談された」経験は女性25名(女性回答者の21.0%)、男性5名(男性回答者の8.1%)と大きな差がある。「被害を受けるだけでなく、ケアを担う役割まで女性に集中している」と荻上氏は指摘した。
また、「女性がいた方がいい」という理由で飲み会・接待に誘われた経験についても、回答者の5割以上が「経験あり」と回答。こうした飲み会・接待は、昨年3月に発表されたフジテレビ問題に関する第三者委員会の報告書に記載があったものだが、特定企業に限った話ではなく、放送業界全体に蔓延する慣行であることを、データは示している。

「日常的なハラスメントが重大な暴力の入り口に」

今回の調査が浮き彫りにした知見の1つが、被害のエスカレーション構造だ。重大な性暴力(「性的な関係を強要される」「拒否・抵抗により不利益を受ける」「性的接待要員にあてがわれる」のいずれかを経験)に至った回答者31名と、そうでない152名を比較すると、被害の連鎖が統計的に浮かび上がる。
「食事やデートへ執拗に誘われる」経験がある割合は、重大被害経験者では90.3%、そうでない回答者では23.0%。
「不必要に身体を触られる」は74.2%対22.4%、「性的な関係の誘いを受ける」は77.4%対15.8%と、いずれも大きな開きがあった。
荻上氏は「被害はいきなり重大なものが単独で生じるのではなく、からかいや日常的なハラスメントを黙認する職場風土が重大な暴力の入り口になっている」と分析した。

積極的・横断的な実態調査の実施など訴え

意識の向上と制度の実効性には依然として大きな溝がある。現在の職場で「人権やハラスメント対策への意識が高まっている」と回答したのは全体の64.1%に上る。しかし「相談窓口が十分に機能している」と肯定的に回答したのは36名(約25%)にとどまった。
放送法は公共の福祉に資するよう放送することを放送局に規定しているが、田中東子教授(東京大学大学院)は、そうした公共性を担う組織が内部で重大な人権侵害を放置してきたことについて、「メディア産業が抱える大きな矛盾だ」と訴えた。
荻上氏は「相談窓口を設けるだけでは不十分で、積極的・横断的な実態調査によって問題を発見していく仕組みが不可欠だ」と指摘。今回の調査では5つの提言が示された。
  • 職場内の「小さなハラスメント」を見逃さないための研修強化
  • 業務と私的時間・空間の境界の明確化
  • 利害関係者との会合での個人の孤立化防止
  • 現在のハラスメント対策の徹底と定期的な職場環境調査の義務化
  • 関係団体による業界横断調査の実施
ジャニー喜多川氏による性暴力を巡る調査報告書は「メディアの沈黙」をその主因の一つと位置づけた。荻上氏は今回の発表で、業界横断的な調査が行われないまま同じ状況が続けば、「第二、第三のメディアの沈黙を引き起こしかねない」と改めて警鐘を鳴らした。


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