日本のハンバーガーチェーンの草分け的存在である「ロッテリア」ブランドが、その歴史に幕を閉じようとしている。
運営会社の株式会社ロッテリアは、2月16日付で「株式会社バーガー・ワン」へと社名を変更。
3月をめどに国内全店を閉店し、新ブランド「ゼッテリア(ZETTERIA)」へ順次転換する計画だ。1972年の創業から半世紀以上、親しまれたブランド名が会社名からも店舗からも完全に消滅する。
ロッテリアを巡っては、2023年に親会社がロッテホールディングスからゼンショーホールディングスへと移っている。一般的に、親会社が交代した後、リブランディング戦略として、これほど徹底した「過去の払拭」が行われるのは極めて異例だ。
なぜゼンショーは、最大の資産であるはずのブランドをあえて「捨てる」のか。その裏側にある法的な実態と実務コストについて、企業法務に詳しい弁護士の視点を交えて解き明かす。

ロッテリアの歴史と「看板」の重み

ロッテリアは長らくロッテグループの顔として、「エビバーガー」「絶品チーズバーガー」「リブサンドポーク」「ふるポテ」などの人気メニューを展開し、ファンを獲得してきた。認知度は全国区であり、企業にとってこれ以上のブランド価値はないはずだ。
過去の名称変更としては「ジャスコ」→「イオン」などが有名だが、この場合は、自社グループ内での統合に伴うものだった。しかし今回は、買収した他社ブランドを完全に塗り替えるという特異な事例である。通常、買収側はブランドの知名度を優先して名前を残すことが多いが、ゼンショーはあえてその逆を突き進む。

「ロッテリア」という名称に法的な制約はあるのか

前提として、「ロッテリア」を使い続けることができない理由はあるのか。江﨑裕久弁護士は、「今回の転換は法的なメリット・デメリットの問題よりも、ビジネス面の狙いが大きい」と指摘する。
「2023年にゼンショーホールディングスが行った買収は株式譲渡の形で行われたため、法人格は同一のまま支配者(株主)だけが変わったに過ぎません。
つまり、会社の債権債務は今の会社がそのまま引き継いでいます。
この場合、商号を使い続けることで法的な負担がなにかあるかといえば、答えは『No』です。事業譲渡であれば、商号続用による債務引受のリスク(会社法22条1項)も考慮すべきですが、今回は当てはまりません。そもそも仮に『ロッテ』という文字を使うことに何かしら問題があったのであれば、2023年の譲渡時にリブランドを行っていたはずです。
よって、今回は法的な要請によってリブランドをせざるを得ないという場面ではなく、リブランドにかかるコストと、経営戦略上のメリットとを純粋に比較して、あえてリブランドを選んだことになります」

予測される巨額投資、それでもリブランドに踏み切る理由は…

そこで、コスト面に目を向けてみると、まずリーガルコストについて、江﨑弁護士は「今回のリブランドでは法人としての人格は変わらず、原則としてすべての契約を一から結び直す必要はない。例外的にフランチャイズ契約でライセンスされるブランド名を変更する程度ではないか」と解説する。
一般的に社名変更には膨大な契約情報の書き換えが伴うイメージがあるが、本件のような株式譲渡後の社名変更においては、法律面からの実務的なハードルは極めて低いという。
他方で、重くのしかかるのが物理的コストだ。看板や内装を一新する費用は、一般に1店舗あたり500万~1500万円にのぼると目されており、全店規模に換算すれば数十億円もの巨額投資が予測される。江﨑弁護士も、「リーガルコストよりも、こうした外装やユニホームなどの刷新コストの方が圧倒的に大きいだろう」と、その投資規模のすさまじさを指摘する。
これほどのコストを投じてまで「ロッテリア」の名を社名・店名から外すことの経営戦略上のメリットとしては、既存のブランドイメージを刷新し、ゼンショー流の新機軸を打ち出しやすくなるということが挙げられる。
江﨑弁護士は、ロッテリアという名称にはすでに確立されたイメージがあり、それが新しい顧客体験を提供する上での「先入観」となってしまうリスクを指摘する。
たとえば新商品の投入や新サービスの提供などを通じてこれまでにない価値を打ち出そうとしても、顧客の中に「なじみのあるロッテリア」という固定観念が強く残っていると、その変化のインパクトが正しく伝わりにくいからだ。
巨額の費用を投じてブランドをゼロから再定義することは、そうした既成概念を打破し、消費者に「新しいハンバーガー体験」を提示するための、経営上の選択だったといえるだろう。
長年親しまれた「ロッテリア」という安全圏をあえて離れ、新生「バーガー・ワン」として踏み出したこの一歩は、同社が日本のハンバーガー市場で新たな地位を築くための、重要な布石となるのかもしれない。


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