「慢性的な人員不足で、毎日がギリギリです」「休憩も取れず、残業が当たり前の職場で、このまま続けられる気がしません」──。全国の公立・公的病院で働く医療従事者1万1661人を対象にした大規模調査には、悲痛な回答が並んだ。

地方自治体の職員らで構成される労働組合・自治労(全日本自治団体労働組合)の衛生医療評議会が3月5日に記者会見を開き、「公立・公的医療機関で働く医療従事者の意識・影響調査結果」を公表。回答者の77%が「現在の職場を辞めたい」と答えたことが明らかになった。

辞めたい理由「業務が多忙」が最多

調査は2025年11月27日から2026年1月19日にかけて、自治労加盟の公立・公的医療機関で働く組合員を対象にウェブアンケート形式で実施された。同調査の実施は6回目。今回の調査では初めて、夜勤に関する質問も追加された。
「現在の職場を辞めたいと思っていますか」(n=1万1524人)との問いに対しては「常に思う」が13%(1453人)、「しばしば思う」が24%(2813人)、「たまに思う」が40%(4654人)と、離職を検討している人が77%に上った。
辞めたいと思う理由(複数回答)では「業務が多忙」(4274件)が最も多く、次いで「賃金に不満」(2759件)、「業務の責任が重い」(2488件)、「人員不足」(2422件)となっており、自治労の原尾健作(はらお・けんさく)衛生医療評議会事務局長は「昨年度と同じ理由が上位に並んだ」と指摘した。

夜勤回数が増えるほど離職意向が上昇

今回の調査で初めて明らかになったのが、夜勤と離職意向の明確な相関関係だ。
調査対象の7職種(助産師、看護師、看護助手、薬剤師、臨床工学技士、臨床検査技師、診療放射線技師)すべてで、「夜勤労働あり」と答えた人の離職意向割合が、「夜勤労働なし」と答えた人の離職意向割合を上回った。
特に助産師では「夜勤労働なし」の離職意向割合が77%だったのに対し、「夜勤労働あり」では90%に上昇。13ポイントもの開きがあった。
さらに、1カ月の夜勤回数(2交代の場合は2回にカウント)と離職意向をクロス集計すると、夜勤回数9~10回で離職意向割合が85%、11~12回で88%、13回以上で91%と、夜勤回数が増えるほど数値が上昇する構造が鮮明になった。
加えて深刻なのは、休憩の実態だ。「夜勤中に休憩が取れていない」と回答した層の離職意向は94%に跳ね上がり、休憩を取得できている層(退職意向割合85%)と比べ、9ポイントもの差がついた。

原尾氏は「背景には明らかに慢性的な人員不足がある。このままでは現場の疲弊が進み、医療の質と安全が脅かされる」と述べ、夜勤回数の規制や十分な人員配置、処遇改善の制度化を求めた。

収入に「満足」でも51%が離職検討

賃金への不満も離職意向を押し上げる大きな要因となっている。「現在の収入に満足しているか」との問いに、「不満」(19%)と「やや不満」(46%)を合わせた不満層は65%に上った。
昨年度の67%からわずかに改善したものの、依然として3人に2人が収入に不満を抱えている状況に変わりはない。
不満の理由(複数回答)は「物価上昇に比べ賃金が上がっていないから」(5955件)が最多。次いで「業務の責任に見合っていないから」(3955件)、「業務量に見合っていないから」(3876件)と続く。
原尾氏は「2025年度の補正予算で一定の措置はなされたが、他の産業にはまだ追いついていない。社会インフラとしての医療を守るためには、人材確保につながる水準まで踏み込んだ財源措置が必要だ」と訴えた。
ただし、問題は賃金だけにとどまらない。収入評価と離職意向のクロス集計では、収入に「不満」と答えた層の90%が離職を検討している一方、「満足」と答えた層でも51%が離職を検討していた。賃金を改善しても、半数以上が辞めたいと感じている現実がある。
その背景の一つとして浮かび上がるのが、カスタマーハラスメントの被害だ。

「2025年1月以降にカスハラがあったか」との設問には、「日常的にある」(2%)と「時々ある」(25%)を合わせ、4人に1人以上となる27%が自ら経験していた。さらに「自分はないが職場にある」(40%)を含めると、全体の約7割に迫る67%の職場でカスハラが存在する計算になる。
内容は「暴言や説教」(4564件)が最多で、「大声・罵声・脅迫」(3484件)、「長時間のクレームや居座り」(1894件)と続いた。
また、カスハラが「日常的にある」と答えた層の離職意向割合は92%で、「ない」と答えた層の69%と比べ、23ポイントもの差がある。
一方、カスハラ対策として職場で実施されている取り組みは「名札の表記の工夫」(2207件)が最多だが、「手順書がある」との回答はわずか569件にとどまるなど、自治労側は「取り組みが極めて不十分」と訴えた。

「このままでは医療提供体制の崩壊は時間の問題」

自治労・衛生医療評議会は今回の調査を踏まえ、「このままでは医療提供体制の崩壊は時間の問題」として、下記の4点を政府に要望した。
  • 物価高騰に対応した賃上げの財源措置
  • 夜勤回数の規制や処遇改善の制度化
  • カスハラ対策の体制整備と財政支援
  • 人員配置基準の見直し
原尾氏は「持続可能な地域医療を守るためには、現場で働く人を守る政策の実現が不可欠だ」と警鐘を鳴らした。


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