警視庁遺失物センターのまとめ(2日発表)によると、2025年(令和7年)の1年間に都内で警察に届けられた落とし物は、件数・金額ともに過去最多を更新した。
その総数は約450万件で前年比3.0%増加。
1日平均に換算すると、なんと毎日約1万2000件もの落とし物が届けられている計算になる。
内訳をみると、最多は、運転免許証、マイナンバーカード、クレジットカードなどの「証明書類」で、約82万点。次いで、Suicaなどの交通系ICカードを含む「有価証券類」が2位、3位に「衣類・履物類」、4位に「電気製品類」、5位に「財布類」と続く。
コンビニでコピーしようと身分証明関係の書類を持ち出し、コピー機に置き忘れるといった不注意は珍しくない。しかし誰に拾われるかによっては、思わぬ被害に巻き込まれる可能性もあるだけに、落とし主は気が気でないだろう。

なぜ落とし物は増えているのか?


落とし物の件数が過去最多となった背景として指摘されているのは、大きく次の2つだ。
第一に、インバウンド(訪日外国人客)の増加。観光客の回復に伴い人流が活発化したことが、物理的に落とし物が発生する機会を増やした。
第二に、持ち歩く小型電子機器の増加だ。ワイヤレスイヤホンや電子たばこなど、以前の生活習慣にはなかった小さくて高価なデバイスを多くの人が持ち歩くようになったことが、拾得物の点数を押し上げる一因になったとされている。

セルフレジの影響と高額事例


注目されるのは現金の落とし物の増加だ。昨年の都内での現金拾得額は約45億円に達し、前年から約0.5%増加して過去最多となった。
このうち、スーパーマーケットや駅ビルなどの「施設からの届け出」が全体の7割以上を占めているという。主な原因として挙げられているのが、セルフレジでの釣り銭の取り忘れだ。
キャッシュレス化が進む一方で、現金を使用した際の受け取りミスが多発している。
セルフレジでは購入者が自らバーコードを読み込ませ、購入品を袋詰めするなどの作業を伴うため、ついお釣りを取り忘れてしまうケースもあるのかもしれない。
また、個別の事例として非常に高額なものも報告されている。昨年1年間での最高額は2700万円で、店舗に置かれたアタッシェケースの中に入った状態で発見された。幸い、翌日には持ち主が判明し、無事に返還されたという。

落とし物の法的扱いと落とし主への戻り状況



届けられた約45億円の現金はその後どのような運命をたどったのか。その内訳は遺失物法に基づく厳格な手続きを反映している。
まず、最も多いのは持ち主への返還だ。約45億円のうち、約32億3000万円が無事に本来の持ち主のもとへ戻った。これは総額の71.8%に相当するが、治安のいい日本ゆえの数字といえるだろう。
不幸にも落とし主が見つからなかった場合は一定期間(原則3か月)の保管を経て、拾った人(拾得者)に権利が移る。これにより、約5億9000万円が拾得者に引き渡されている。
それでもなお残る約6億8000万円はどうなるのか…。
これについては、持ち主が判明しない、あるいは拾得者が権利を放棄(2か月以内の引き取り期間を過ぎた場合など)するなどの理由により、権利が東京都に帰属し、「東京都の歳入」として自治体の財源に組み込まれる。
膨大な落とし物の保管や管理には相応の事務コストや手続き費用がかかる。そのため、それらに充てられる側面もあり、もちろん“ネコババ”にはあたらない。
このように、都内の落とし物は社会の動きを色濃く反映しており、特にデジタルデバイスの管理やセルフレジでの確認が、現代の遺失物問題を回避するひとつの鍵になっているといえるだろう。

カウント外の“デジタル遺失物”は見つけられる?


その意味で忘れてはならない側面もある。統計には表れない“遺失物”が実は結構な金額を占めている可能性があるということだ。
昨今、広く浸透しつつある、インターネット上で電子的やりとりができる、独自の財産的価値を持ったデジタル資産関連の“落とし物”だ。
「遺失物法における『遺失物』は『占有者の意思によらずにその占有を離れた物(動産)』を指します。そのため法律上の『落とし物』といえるかはともかく、暗号資産関連の紛失物の捜索を依頼されるケースは、結構な頻度でありますね」
こう明かすのは、探偵事務所「赤井事務所」代表の継野(つぎの)勇一氏だ。
同事務所はデジタル関係の証拠集めを得意とし、パソコンやスマホ、サーバーなどの記憶媒体から、消されたり、破損したりした電磁的記録を収集、保全、分析。法的証拠性を明らかにする「デジタル鑑識」技術、デジタルフォレンジックに長け、関連の依頼を多数解決に導いてきた実績がある。
「よくあるのが、暗号通貨に必要となるシードフレーズ(暗号資産ウォレットの復元に必須となる12~24個の英単語の羅列)を書き込んだメモや金属プレートを保管していたが紛失したのでなんとかしてほしい、スマホを落としてウォレットアプリが使えず、シードフレーズ(スクショ等の控えを含む)もなくしたのでどうにかしてほしい、といった依頼です」
紛失物ではあるものの、その「物」はデジタル空間に存在するため、法律上の遺失物にあたらず、警視庁の遺失物センターとは無縁である。
しかし、これらも、デジタル社会における“落とし物”といって差し支えないだろう。
こうしたケースでは端末や別端末、クラウド上のデータ等からシードフレーズを復元・特定し、解決に導くこともあるという。
「こういった事例で結構な金額を“紛失”してしまっている人は多々いるのではないでしょうか。遺失物ではありませんから警察の管轄外になりますし、どこに依頼していいかわからず、諦めている人もたくさんいるのでは」(継野氏)
デジタル社会は便利な一方で、セキュリティー対策が複雑になりすぎるきらいがある。45億円もの現金が遺失物になることは驚くばかりだが、安全のために強固にした“合言葉”に付随して増加したデジタル紛失物をカウントすれば、紛失による損害額はさらに莫大(ばくだい)なものとなる可能性はありそうだ。


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