震災直後は福島第一原子力発電所の事故も重なり、メディアで「トイレ」について大きく報道されることは少なかった。
しかし、ライフラインが途絶えた現場では、水洗トイレが機能しなくなり、あっという間に汚物であふれかえるという、凄惨(せいさん)な状況に陥っていた。 断水や停電だけでなく、給排水管や汚水処理施設そのものも被災した。(ライター・石川未紀)
仮設トイレが3日以内に到着した自治体はわずか34%
名古屋大学エコトピア科学研究所・岡山朋子氏の調査(協力:日本トイレ研究所)の調べによれば、東日本大震災当時、仮設トイレが3日以内に行きわたった自治体はわずか34%にとどまった。天候や道路の寸断により、設置まで1か月以上を要した自治体も14%にのぼる。ようやく届いた仮設トイレも、数が限られているため汲み取り(バキューム)が追いつかず、使用中止を余儀なくされるという悪循環が続いた。テント式の簡易トイレは強風にあおられて倒壊した。
仮設トイレが到着するまでの間、地面に穴を掘り、木の板を渡して周囲をすだれやブルーシートで囲っただけの「素掘りトイレ」でしのいだ場所もある。排泄は生理現象、待ったなしの状況だったのである。
劣悪な環境のトイレを使いたくないという思いから、水分摂取を極限まで控えたり、排泄を我慢したりする人が続出した。その結果、体調不良をきたす高齢者もあらわれ、衛生状態の悪化は感染症のみならず、他の病気を引き起こすことになった。
また、当時の学校や避難所に多かった和式トイレも大きな壁となった。足腰の弱い高齢者や障害者のために急きょ椅子を取り付けて「洋式化」を図ったものの、トイレのドアが内開きだったために、設置した椅子が邪魔でドアが閉まらないといった、構造上の問題も浮き彫りになった。
実は震災翌日の3月12日、厚生労働省から自治体へ「高齢者、障害者等の災害時要援護者が使いやすい洋式の仮設トイレの設置等、必要に応じて行うこと」という事務連絡が送られている。
しかし、言うは易く行うは難し。
現実の供給体制がその要請に追いつくことはなかったのである。
果たして、その後の震災で当時の教訓は活かされたのか。残念ながら、トイレの問題はいまだ解消しきれていない。2024年の能登半島地震に関する日本トイレ研究所の調査では、避難生活で最も困ったことに「トイレ」を挙げた人は69.8%にのぼり、食事や睡眠への不満を大きく上回っている。
さらに、道路の寸断などによって仮設トイレが3日以内に設置できた避難所はわずか10%。設置された仮設トイレの85%が和式であり、高齢化が進む地域のニーズと大きく乖離(かいり)していた。
地震は場所や時間、季節を選ばない。十分な手洗いができない環境下では、さまざまな感染症を引き起こすリスクが高まる。トイレ問題は命に関わるのだ。
進化する対策と、消えない不安
2023年に「世界共通トイレをめざす会」を立ち上げた私は、地域の防災訓練だけでなく、視覚障害者や車椅子利用者などにも焦点を当てた「だれでも防災訓練」にも積極的に参加してきた。以前の訓練は備蓄食や避難グッズの展示、身を守る方法が中心だったが、近年はこれらと並行して、下記のような、携帯トイレや仮設トイレのデモンストレーションが増えている。
- 公園のマンホール直結型トイレ
- 施設のプールなどの水を活用したトイレ
- エレベーター内の非常用備蓄ボックス(ベンチ型)
- バリアフリーを意識した椅子型簡易トイレ
災害時用の「マンホールトイレ」(YsPhoto / PIXTA)
何より、これら「公助」の仕組みは、自治体職員自身が被災した際にどこまで迅速に機能するかという、不透明な課題を抱えている。
「災害時のトイレ」を知り、自ら備える
過去の教訓が活かされたこともある。能登半島地震発生直後、避難所のうち約9割で「携帯トイレ」が使用されており、「公助が届くまでは自ら備えたものでしのぐ」という意識が現場で実践されていた。
昨今、防災のキーワードとして「自助・共助・公助」が叫ばれているが、トイレも「自助」が極めて重要だ。特に都市部のマンションでは在宅避難が推奨されており、携帯トイレの備蓄は必須である。
目安は「家族の人数×1日5回×最低7日分」。携帯トイレは、備蓄するだけでなく一度は開封し、使い方を確認しておくことが肝要だ。
また、被災直後は「まず便器にビニール袋をかぶせる」ことを徹底してほしい。
使用後は、臭い漏れを防ぐ防臭袋や新聞紙でくるむ。回収時を考慮し、袋が破裂しないよう空気を抜いて縛るなどの工夫も覚えておきたい。
携帯トイレの使い方(神奈川県ホームページ「携帯トイレを備蓄しましょう」から)
もう一つの自助努力は、「災害時のトイレを知っておくこと」だ。
近年、軽トラックを活用した移動式トイレなど、ユニバーサルデザインの優れた設備も登場している。しかし、設置スペースの関係で数は限られる。
私たちは「災害時に日常と同じ快適さは望めない」という現実を直視すべきだ。
その上で、例えば、健康で足腰に問題がない人は、和式トイレを選択肢に入れてはどうだろうか。
和式は身体との接触面が少なく、断水などで手洗いの水が十分に確保できない環境下では洋式よりも接触感染のリスクを抑えられるというメリットがある。しゃがむことができる人たちが和式を使えるようになれば、限られたバリアフリーの洋式トイレを本当に必要とする高齢者や障害者に優先的に譲ることができ、混雑緩和にもつながる。
また、和式トイレになじみがない若い世代に使い方を学ぶ機会を設けることも「防災」といえるだろう。
もちろん、無理に和式を強いるわけではない。だれがどのトイレを使うかは本人が選ぶべきだ。しかし、自分が使えるトイレの「選択肢」を増やしておくことは、過酷な避難生活を生き抜く知恵となる。
震災から学んだ最大の教訓は「トイレを軽視しない」こと――。トイレの備えを充実させることは、単なる排泄の問題ではなく、人間の尊厳と命を守ることに直結している。
■石川未紀
フリーライター&編集者、社会福祉士。2023年、「世界共通トイレをめざす会」を立ち上げる。著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか:不都合で困難な課題を解決するために』(2025年、論創社)。

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