千葉で“元タレント”含む20人の「新任保護司」が誕生 大津市・殺害事件の衝撃も残る中、更生支援の現場へ
元タレントの丸山瑞果(みずか)氏が3月3日、千葉市の千葉保護観察所で保護司(※)の辞令を交付された。
※地域の民間人の中から法務大臣が委嘱する非常勤の国家公務員で、保護観察官の指導のもと更生保護活動(保護観察対象者との面接、生活相談、地域での見守りなど)を担い、原則無償で活動する
2024年に大津市(滋賀県)で起こった保護司殺害事件で被告人に無期懲役の判決が言い渡された翌日というタイミングで、他の新任保護司とともに保護司のバッジを受け取った。
異色の経歴に加え、発達障害児童への支援にも取り組んできた丸山氏に対する、周囲の期待は小さくない。(ライター・松田 隆)

千葉では20名の新任保護司が誕生

午後1時30分から始まった新任保護司辞令伝達式では、3月から新たに保護司となる20人に辞令と保護司のバッジが交付された。市川浦安保護区の丸山氏を含む千葉県内の新任保護司らは一様に厳しい表情で、これから果たすべき責任の重さをかみしめている様子であった。式の終了後はそのまま研修に移行。研修は午後4時過ぎまで続いた。
保護司になることが幼い頃からの夢であったという丸山氏にとっては、記念すべき1日となった。「辞令をいただいて、やっと目標にたどり着いた気がしました」と語る。
その後の懇親の場で、保護観察官(※)が保護司に対して「先生」と呼ぶのを耳にして「『先生』と呼ばれる立場になったのだから、もっとしっかりしなければ、頑張らなければと思いました。ただ、『自分らしくあってください』というお話もあったので、すべて周りに合わせなくてはいけないというわけではなく、自分らしさを失わないようにしていいんだという希望も持てました」と笑顔を交えて話す。
※保護観察所に所属する常勤の国家公務員(法務省職員)で、保護司を指揮監督しつつ、更生保護の業務(保護観察、調査、生活環境調整、犯罪予防など)を担う専門家
丸山氏は旧姓の中島瑞果名義で舞台やCM出演などタレントとして活動した。2002年のリアリティ番組『サバイバー』(TBS系)に出場し、16人中3位となって知名度を上げた。宗教家や教員、自営業などが多い保護司の世界で、元タレントという異色の経歴を更生支援に役立てることが求められている点は、十分に意識している。
冒頭で述べたように、前日の2日、大津地裁が2024年に保護司が殺害された事件の裁判員裁判で、無職の被告に求刑通り無期懲役の判決を言い渡したばかりのタイミングで行われた辞令伝達式である。

1950年の保護司法制定から76年、担当する保護観察中の人物に保護司が殺害された例は、この事件以外にないという。とはいえ、罪を犯した人や刑務所を出た人、執行猶予中の人と向き合い更生支援を行う保護司にとっては、その1件が与えた衝撃は小さくない。
千葉保護観察所の田中大輔所長は伝達式での訓示の冒頭、この問題に触れ、後述する保護司法の改正によって保護司の安全は十分に配慮されることなどを強調し、安心して職務に取り組むように呼びかけた。
丸山氏はその点について「(殺人事件は)1件しかない、と所長はおっしゃっていましたが、自分にとっては、そのほうが驚きでした。傷害事件などを含めて、もっとあったのではないかと思っていましたので。ただ、昨日の(判決の)ニュースをテレビで見た時は、ドキッとしました。『保護司殺害』ですから」と、さまざまな思いが交錯した様子であった。
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真剣な表情で資料を見る丸山氏(撮影・松田隆、背後のネームプレートの氏名部分を加工)

保護司法改正で面接場所の確保が容易に

丸山氏は、大津市の事件を受けて法的措置が講じられたことについて「相当急いで法改正をしていますよね」とも話す。これは、事件からおよそ1年半後の2025年12月3日に成立した改正保護司法を指している(同10日公布、施行は1年以内、2026年2月末時点で未施行)。
改正法は16条で、国が、保護司が安全かつ安心して職務を円滑かつ効果的に行うことができる環境整備等の必要な措置を講ずることとし、18条で地方公共団体に必要な協力をするよう、努力義務を定めた。
特に大津市の事件が被害者の自宅で発生したこともあり、国が講ずべき必要な措置について「保護司が面接をするのに適当な場所の確保」(16条)という文言が盛り込まれ、地方自治体の協力を努力義務として定めたのは、事件が保護司制度の根幹を揺るがしかねないとの危機感を、立法が有していたことの証左と言えるのかもしれない。
また、前述の「自分らしくあってください」という保護観察官の話は、保護司を委嘱するにあたり3条3項で「多様な保護司がそれぞれの個性と能力を発揮して事務に従事することの重要性に鑑み、…保護司の多様性の確保に配慮」と規定されたことを意識したと思われる。このように、現場では法改正の趣旨がしっかりと新任の保護司に伝えられている。

54歳の“若き”丸山瑞果保護司にかかる期待

2025年の時点で保護司の平均年齢は65.4歳、女性の比率は27.3%である(『犯罪白書令和7年版』法務総合研究所)。54歳、女性の保護司はそれだけで希少価値があり、しかも、元タレントという異色の経歴でもあることから、周囲の期待は小さくない。
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タレント活動をしていた頃(本人提供)

丸山氏は現在54歳。50代という“若手”の参入には、保護司としての活動期間が長くできて、経験値が高まるなどの効果が期待される。
上記を前提に、田中所長は「保護司会というのは、色々な職業の方が集まっています。ある種『ごった煮』的にやって、お互いの価値観を共有していくのが保護司のグループのいいところです。こういう(丸山氏のような)方がいると活気が出て、非常にいいと思いますね」と話す。
また、丸山氏が発達障害児の子育てを続けてきたことや(※)、市原青年矯正センターを視察した際に発達障害を持つ収容者の多さを認識し、そうした人々が社会に出てから保護司が寄り添っていくことの重要性を認識したことなどは、専門的な知見を持つ存在として大きな強みになると期待できる。
※関連記事:元タレント女性が“犯罪者の更生を支える”保護司に 支援の言葉は「生き残れ」TBS系『サバイバー』出演
大津市の事件でも、被告人側は心神耗弱の状態であったと主張するなど、刑事責任能力が争われていた。
そうした点について田中所長は、現代の子どもが持つ問題の根深さに対応するためにも、保護司の多様性を確保する必要があると語る。
「今の子どもの問題は、非常に複雑です。親御さんのネグレクトだったり、性的によくない体験をしたり、それから発達障害、知的障害だったり、昔なら我々の所に来ないような子どもが結構来るようになっています。
トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)と呼ばれる事案の子どもも来ますけども、性犯罪もいれば、万引きレベルの子どももいます。
しっかりと事情を聴き取っていないと対応できない子どもは割合として非常に増えている印象を持っています。
それぞれの保護司が特性を出して、その人なりのやり方で対応すればいいと思います。その意味では色々な方がいたほうが良いでしょう。ありがたいことです、そういう(多様な)方が来るのは」(田中所長)
千葉で“元タレント”含む20人の「新任保護司」が誕生 大津市・殺害事件の衝撃も残る中、更生支援の現場へ

新任保護司の前で話す田中大輔所長(撮影・松田隆)

どんな保護司になりたいですか

丸山氏はそうした周囲からの期待にどう応えるのか。その点を問うと「私に期待が寄せられているかはひとまず措くとして」と断ってから、言葉を続けた。
「今日の研修でも、発達障害や知的障害で犯罪をする人がいるというのが、話の中でかなりの部分を占めていました。『だから、自分の出番』というわけではありませんが、(自分が)求められているのかもしれない、とは思いました。そういうことへの対応が求められ、そのための人も足りないと考えると『私がいたほうがいいな』と勝手に思いました」(丸山氏)
丸山氏はここ10年ほど、わが子の発達障害で療育(※)を続け、その対応を求めて行政に働きかけるなどの取り組みもしてきた。幼い頃の夢であった保護司になった今、その経験が活かせることを示すかのように「私の歩んできた道は一本でつながっていると感じます」と付け加えた。
※発達障害などのある子どもに対し、日常生活や対人関係のスキルを伸ばすために行われる支援
最後にどのような保護司になりたいかを問うと、しばし考えてから、こう答えた。
「保護司の世界から、大人になってからでも療育ができることを、伝えていければと思います。すべての世代に対して療育はできると考えているので、それを長い時間をかけて証明できたらいいですね」
保護司殺人事件の判決が出た翌日に、希望に胸を膨らませる保護司が誕生することは、悲劇的な事件の後でも更生支援に人生をかける人が絶えないことを示している。
その事実は、無償の奉仕さえも理不尽な暴力に脅かされる時代の暗闇の中、一筋の光を見るかのようである。
◾️松田 隆
1961年埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業。日刊スポーツ新聞社に約30年在職し、退職後にフリーランスとして活動を始める。2017年に自サイト「令和電子瓦版」を開設した。現在は生殖補助医療を中心とした生命倫理と法の周辺、メディアのあり方、冤罪と思われる事件の解明などに力を入れて取材、出稿を続けている。


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