「警察官はやめておけ」自虐動画が長官賞の衝撃 志望者1/3に激減も…パワハラ離職のOBが「とりあえず2年経験」を勧める理由
「警察官はやめておけ」
このショッキングなフレーズは、岡山県警察が撮影したショート動画内で、父親役の男性が警察官を目指す娘役の女性に放ったもの。実は2人の出演者はともに現役の警察官だ。

動画は、採用難にあえぐ警察庁が、その魅力を若者に届けられるよう初めて実施した動画コンテスト用に撮影されたもの。同作は動画部門の警察庁長官賞を受賞している。
自虐ともとれる作品に最優秀賞を与えたことは、広告センスにあふれ、そのこと自体、警察庁の採用への強い意欲を感じさせる。一方で、採用難に対するなりふり構わない姿勢もにじむ。
この15年で採用試験の受験者数は3分の1に減少。なり手不足に歯止めがかからない背景には、人口減少に加え、不祥事が続く中で、パワハラ体質のイメージなどが背景にある。
対策として、たとえば警視庁は採用試験のハードルを下げ、社会人採用では年齢制限を60歳までにしたり、再採用試験の受験資格を「2年以上の経験」に緩和したりするなど、門戸を広げている。

OBがあえて、警察官になることを奨める理由

そうした中、約20年務めた警視庁警察官OBで『警察官のこのこ日記』の著者でもある安沼保夫氏は、就職を考えている人にあえて「新卒でとりあえず警視庁警察官を2年間やる」ことを推奨する。
「元々、警視庁の再採用試験を受けるには5年以上の経験が必要だったと記憶しています。5年なら、ある程度全体が見えてきてそれなりにやっていける期間といえますが、我慢してやり続けるには少し長い。 それが2年になったことで、いくつかのメリットがでてきました。
ひとつは2年がんばれば“第二新卒”として転職に有利になることです。辞めるイメージが固定した若者にあって、警察官を2年続けることは、真面目さの証明にもなり得ます。
さらに身元のクリーンさも証明されるので、企業も雇いやすいと思います」
「警察官はやめておけ」自虐動画が長官賞の衝撃 志望者1/3に...の画像はこちら >>

採用のハードルを下げることなどで減少歯止めへ(警視庁ホームページより)

こうしたことを考慮して受験資格を「2年以上」に短縮したのかは定かではないが、厳しい職場でも「2年限定」ならなんとか耐えられるかもしれない。安沼氏が続ける。
「もし、転職を経て、警視庁へ戻る再採用の場合、なによりのメリットは、警察学校への入校が免除されることです。通常は、4年制大学卒だと6か月間は全員が寮生活に入り、警察官としての基礎知識や実技を学ばなければいけません。いわば即戦力として復職できるわけです。
警察学校では学びながらも給料はもらえますが、食事代、道着などの必要経費は引かれますので、それがない分、経済的負担が少なくて済みます」
民間企業でも出戻りによる復職を制度として設けているケースがあるが、これまでの警察組織の常識からすれば、経験年数が「2年」の資格で受け入れるのは異例だという。逆にいえば、それくらい人手が足りていないということでもある。

警察官が辞める理由とは

安沼氏が補足する。
「私もそうであったように、警察を辞める人の大多数が人間関係に起因するものだと考えます。仕事自体が嫌いというわけでは決してないのです。 たとえば上司のパワハラで辞めた人は『裏切り者』もしくは『根性なし』のレッテルを貼られ、加害者は組織でのうのうとのさばっています。こうした体質が、志ある人間を遠ざけ、なり手不足の元凶となっているのです。
本当は警察勤めを続けたかったのに、やむを得ず辞めてしまった人はたくさんいるはずです。
そういう人に再チャレンジする機会を与えるのは良いことだと思います。その方がエンゲージメントも高まり、より健全な組織へ変わる力になっていくのではないでしょうか」

「2年の警察勤め」で得られる恩恵とは

恩恵は、警視庁の再採用試験の受験資格が得られるだけではない。
「他府県警、刑務官、入管職員での採用試験で有利になる可能性もあります。また、公務員から公務員への転職の場合、空白期間がないなどの一定の条件を満たせば、退職金が引き継がれるなどのメリットがあります。私もつい先日3回目の転職をしたところですが、全て公務員ですので、退職金はキャリーオーバーされています」
なり手不足で警察はその体質改善も迫られているが、急激には変われない。それでもなった人にはなったからこそ得られるものがある。その意味では「2年」なら、やってみる価値もあるのかもしれない。
安沼氏は最後に、次のように古巣へ期待を込めて要望した。
「現職時代は警視庁の嫌なところばかりが目につきましたが、一度離れてみると『ここをこうすればもっとよくなるのでは』というアイデアが思いつきます。復職者からそういう声をしっかりと拾ってほしいものです」
■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。
20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。


編集部おすすめ