松井被告は2019年7月から21年8月まで同病院の脳神経外科に勤務していたが、その間、患者が後遺障害を負う、死亡するといった8件の医療事故に関与。一連の事故をもとに被害者の親族が描き、WEB上で公開している漫画『脳外科医 竹田くん』も話題となった。
このうち、20年1月に発生した事故について、松井被告は当時74歳だった女性の手術を執刀医として行った際、医療用ドリルで誤って脊髄の神経を切断し、両脚の麻痺などの後遺障害を負わせたとして、24年12月に在宅起訴されていた。
なお、当該の医療事故を巡っては、被害女性と家族が損害賠償を求めた民事裁判で、神戸地裁姫路支部が昨年5月、松井被告と赤穂市に対し、合わせて約8800万円を支払うよう命じている。
医師免許はく奪のハードルは高い
松井被告は2021年8月に赤穂市民病院を依願退職した後も、関西圏の複数の病院で医師として勤務していたが、ここでもミスを繰り返していたとされる。患者としては「なぜこれほどのリスクを抱えた人物が現場に立ち続けられるのか」と不安を抱くのは当然といえるが、日本の法制度上、医師免許の効力を止めるハードルは極めて高いのが実情だ。そもそも、医療行為における過失が刑事裁判にまで発展すること自体、現在の日本の医療現場では珍しいケースといえる。通常、診療中の事故は民事上の賠償で解決されることが多く、警察が介入し刑事事件として立件されるには、基本的な注意義務の欠如など、相応の背景が考慮されるためだ。
医師免許が制限される「5つの基準」
では、どのような状況になれば医師としての身分を失う可能性があるのだろうか。医師法7条1項、4条各号では、厚生労働大臣が免許の取り消しや業務停止を行える基準を定めている。主な項目は以下の通りだ。①視覚・聴覚・音声・言語機能または精神の機能の障害により、医師の業務を適正に行うにあたって必要な認知・判断・意思疎通を適切に行うことができない場合
②麻薬・大麻・あへんの中毒者
③罰金以上の刑に処せられた場合
④上記項目(①~③)のほか、医事に関し犯罪または不正の行為のあった場合
⑤医師としての品位を損するような行為があった場合
「推定無罪」と行政処分の関係
多くの人が疑問に思うであろう「なぜ逮捕・起訴されてもすぐはく奪されないのか」という点については、日本の行政処分の仕組みが関係している。行政側が処分を下す際は、原則として「医道審議会」の審査を経る必要がある。この際、司法の判断(刑の重さや執行猶予の有無)を基準にするのが通例だ。そのため、裁判で有罪が確定するまでは、法的に免許の効力を奪うことは極めて難しいのが実情といえる。
もちろん、刑事罰を待たずとも「医師としての適格性に欠ける」と判断されれば処分が下る可能性は理論上ゼロではない。しかし、実務上は判決を待ってから行政が動く流れが一般的だ。
免許取り消し後の「再取得」のルール
万が一、免許取り消しの処分が下った場合でも、医師法7条2項に基づき、再び免許が付与される可能性は残されている。取り消しの原因となった事由が解消されたり、その後の状況を鑑みて「免許を再度与えるのが適当である」と認められたりした場合には、再免許を受けることが可能だ。
ただし、罰金以上の刑に処せられた場合や、医事に関し犯罪または不正の行為のあった場合、および医師としての品位を損するような行為をしたことが原因で取り消しとなった場合、処分の日から5年間は再免許を受けることができない。

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