東日本大震災の発生から15年が経過しました。震災から約1年後の2012年3月に岩手県陸前高田市に赴任した在間文康(ざいま・ふみやす)弁護士(弁護士法人空と海、東京都渋谷区)は、当時から今に至るまで、多くの被災者に寄り添い続けてきた弁護士です。

本記事では、今なお被災地に残された課題、そして次の大規模災害に備えるために弁護士が果たすべき役割についてうかがいました。(聞き手・岩田いく実)

震災当時の課題はどう変わったのか

東日本大震災発生から15年が経過しました。弁護士として被災支援に直面した当時の法的課題と、現在に至る制度の変化についてお聞かせください。まず、住宅ローン等を借りている被災者が減額や免除を受けることができる「被災ローン減免制度」は、今どのような状況にあるのでしょうか。

在間弁護士:被災ローン減免制度から話すと、当時この制度は、2011年8月に「個人版私的整理ガイドライン」として生まれたばかりで、私自身もまだ弁護士歴が浅く運用の手順を深く理解できていませんでした。
参照できる書籍もなく、もちろん被災者の方々もご存じない状態だった。周知も運用もほぼゼロの状態でした。
その後、東日本大震災で被災した三県(岩手・宮城・福島)の弁護士会が協議を重ね、現場の課題を一つひとつ拾い上げながら使いやすい制度になるよう改善していきました。
その成果が熊本地震の直前に行われた制度の改編です。名称も「個人版私的整理ガイドライン」から「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(※1)に変わり、東日本大震災だけでなく、以降のあらゆる自然災害に対応できる枠組みになりました。
※1:「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」は、2015年12月策定、2016年4月から適用開始。住宅ローン等の既存債務を抱えたまま生活再建が困難な被災者について、金融機関との協議のもとで債務の減免・猶予を図る非司法的手続きであり、弁護士・認定司法書士が「登録支援専門家」として手続きを無償支援する。破産等と異なり、財産を手元に残しやすい点が特徴。
令和6年能登半島地震でも適用された。

制度として整備が進んだ一方で、まだ課題は残っているのでしょうか。

在間弁護士:根本的な問題は残されていますね。このガイドラインはあくまでも債権者と債務者の話し合いのルールとなっています。つまり、債権者が「ノー」と言えば、どれだけ合理的な債務整理案であっても成立しない仕組みです。例として、複数の債権者がいて1社でも反対すれば整理できない構造は今も続いています。
さらに適用要件の問題も残っています。現行ルールでは一定以上の世帯年収があると、支払不能要件を満たさないとして適用対象外とされやすくなっています。地方では、世帯年収の多いご夫婦が多額の住宅ローン残債を抱えていることは珍しくありません。
実際、制度を使えない、あるいは全額免除でなくガイドラインに則って算定される額を大幅に超える額での合意を求められるケースが東日本大震災当時もありました。
仮に首都直下地震を想定すると、この年収要件はさらに深刻な問題になりえます。都市部では共働きで年収が高い世帯が高額の住宅ローンを組んでいるケースも多く、この支払不能要件を満たさない方が相当数出てくるはずです。

「制度はあるが使えない」という状態を避けるためにも、平時から常に要件の見直しが必要でしょう。

建物倒壊や津波などによる直接的な死亡ではなく、避難生活や環境の悪化、心理的負担の増大など、災害に起因する間接的な事情によって生じた「災害関連死」についても、当時から問題意識をお持ちだったとうかがっています。

在間弁護士:災害関連死は、私が陸前高田の仮設住宅をお茶っこ(お茶会形式の訪問活動、詳細は後述)で回る中で初めてリアルに接した問題です。帰り際に、60代のお母さんが「こういう話も聞いてもらえますか」と話してくださったのがきっかけでした。
ご主人が震災前は元気だったのに、震災後に体調を崩して何度も入退院を繰り返し、亡くなった。災害関連死として申請したら認定されなかった、という内容でした。
当時の課題は数多くありましたが、あえて例を挙げるなら2つあります。1つは、審査会で医学的な因果関係が重視されがちだったことです。例えば、心筋梗塞で亡くなった方について、「基礎疾患があるから医学的に災害が単一の原因とは言えない」と判断されるケースがありました。
しかし、労災認定基準などに基づけば、法的な「相当因果関係」の考え方はまったく異なります。過重な出来事が加わる前の時点で基礎疾患が自然経過で増悪(※2)していなければ、震災が原因として推認できる。この法理を審査会で徹底させることが弁護士の役割でした。

もう1つは、災害弔慰金(ちょういきん、※3)の不支給決定の通知に具体的な理由が書かれていなかったことです。私が担当したある方は、市が岩手県の審査会に審査を委託していたのですが、送られてきた通知には「県審査会が関連性なしと判断したため不支給」とあるだけで、具体的な理由が一切記載されていなかった。
これは行政手続法上の理由附記義務(※4)に反しています。しかし、ご遺族は「行政が違うと言うんだから、そういうものかと思うしかなかった」とおっしゃっていました。
その方は、たまたま私が関わった別の訴訟で逆転認定された報道を目にし、不支給決定から3年後に相談に来てくださったんです。再申請の結果、無事に認定されましたが、不支給のまま諦めてしまった方も相当数おられたはずです。
この問題については日本弁護士連合会(以下、日弁連)からも働きかけを行い、熊本地震前後からは通知への理由記載がスタンダードになっていきました。
ただし、審査会における法律上の相当因果関係による判断の徹底や、適正な審査会の構成など、まだ課題は山積みです。日弁連でも引き続きこれらの課題を解消すべく取り組みを進めています。
※2:もともと悪かった状態がさらに悪くなること
※3:「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づき、災害で死亡した住民の遺族に支給される(生計維持者の死亡は500万円、その他は250万円)。直接死のみならず災害関連死も対象とされ、受給者の審査は市区町村が設置する審査会が担う。
※4:申請の拒否処分や不利益処分に際し、行政機関には書面で理由を示さなければならず(行政手続法8条・14条)、理由が不十分な処分は違法として取り消しうる(最高裁平成23年判決ほか)。

「待つ弁護士」から「出向く弁護士」へ――アウトリーチという変化

弁護士の役割そのものも、震災を通じて変化したと感じていますか。

在間弁護士:ここは大きく変わりました。私が赴任する前に抱いていたイメージは、「弁護士は“待つ”仕事」でした。事務所や法律相談センターで、困っている方が来るのを待つ。実際に事務所へ相談に来られて、「今日勇気を出して来てよかった」とおっしゃってくださる方はたくさんいらっしゃいましたし、そうした役割も当然重要です。
でも、陸前高田で仮設住宅を回って気づいたのは、その背後に「そもそも勇気を出せずに相談に来られない人」がずっと多くいるという現実でした。
そこでやっていたのが、紙芝居を使った制度周知と、お茶っこ形式の訪問活動です。
仮設住宅に行ったからといって、「法律相談」という看板を掲げていては、敷居が高くて誰も来ません。そこで、まずは紙芝居で生活再建に役立つ制度などの情報を提供し、そのうえで一緒にお茶を飲みながら横に座る。そうやって少しずつ距離を縮めることで、ポツリポツリと悩みを話してくださるようになります。
その中から、被災ローンの問題が出てきたり、災害関連死の話が出てきたりする。相談に来ないから悩みがない、というわけじゃなかったんですね。

なるほど、個人の悩みとして抱えたまま暮らしていたんですね。

在間弁護士:そうです。悩んでいても、自分が抱えている課題が何なのか整理できておらず、誰にどのように伝えればいいのかわからないままの方が相当数いらっしゃった。
弁護士が災害の現場で求められる力は3つだと感じています。まずは悩みを聴き出す力、次に課題を整理する力、最後に解決策を一緒に考える力。実はこれ、特殊なスキルではなく、街弁が日々の業務でやっていることと本質的に同じなんです。
ただ、平時と決定的に違うのは、待っているだけではその声なき悩みに届かないという点です。だからこそ、こちらから「出向く(アウトリーチ)」視点が必要になりました。現在では災害に限らず、弁護士が自らアウトリーチして課題を解決する傾向が高まっていると感じます。
弁護士が災害時に提供できる価値は「法的手続きで問題を解決する」ことだけだと思われがちです。しかし、仮設住宅で話をうかがうと、一人の方の中に被災ローン、事業再建、家族関係、支援金の受け取りなど、複数の問題が複雑に絡み合っていることは珍しくありません。
それを弁護士が法的な視点から整理し、「法的な枠組みで解決できること」「行政の支援制度を活用して対応できること」などを一つひとつ丁寧に振り分けていくことで、状況は大きく変わります。今後もより一層、現場へ出向く弁護士が増えるとよいですね。

次の災害への対策には何が必要か

「弁護士版DMAT(※5)」という言葉が弁護士による被災支援の議論に出てきたことがあります。このような組織を実現するために必要なものは何でしょうか。

在間弁護士:災害に向けて弁護士が体制を整えるために必要なことは、3つあると思います。仕組み、人、そして目的です。仕組み作りについては、2025年の法改正で災害ケースマネジメント(※6)の考え方が法制度に位置づけられつつありますが、まだ完全に組み込まれたわけではなく道半ばです。
人については、弁護士自身が「自分には特別なスキルがないから行けない」と二の足を踏んでいることも課題です。先日、ある研修の講師を務めましたが、ベテランの先生でも「知識も経験もないから迷惑をかけてしまう」とおっしゃっていました。でも、現場で一番必要なのは、先ほどお話しした「聴き出す・整理する・一緒に考える」力であり、日々の実務で磨いている力です。
全国で弁護士は約5万人いますが、災害支援に継続して深く関わっている層はまだ限られています。もっと裾野を広げるためには、研修のプログラム化や、現場を経験できる機会の提供が必要です。
そして最後に、最も重要なのが「目的」です。弁護士版DMATチームが目指すのは、被災者の命や生活、尊厳を守ることです。その明確な目的意識を持つことが、被災者の人生を支えるという弁護士自身の大きなやりがいにもつながっていくはずです。
私が災害関連死の訴訟を担当した50代の男性は、ご自宅は被災を免れたものの、経営していたお店が津波で流されてしまいました。収入が絶たれたうえに事業用ローンが残り、お子さんの進学も重なって経済的な不安を抱えられ、結果的に持病の高血圧が悪化して心筋梗塞で亡くなられました。
その方は被災ローン減免制度を知らなかった。8月に制度ができて、12月に亡くなったんです。
もし誰かがその情報を届けて、課題を整理してあげていたら、亡くならずに済んだかもしれない。法的な支援は、時に被災者の命を直接救うことにつながります。弁護士版DMATの究極的な目的は、被災者の命・生活・尊厳を守ることだと思っています。その旗印がはっきりしていれば、人も集まり、継続的な組織にもなっていくのではないでしょうか。
※5:Disaster Medical Assistance Team(災害派遣医療チーム)の略称。大規模災害や事故の直後に被災地へ派遣される、専門的な訓練を受けた医療チーム。医師・看護師・業務調整員などで構成され、厚生労働省が中心となり、各都道府県や災害拠点病院を単位として整備されている。
※6:2025年に成立した「災害対策基本法等の一部を改正する法律」により、被災者の生活再建を包括的に支援するケースマネジメントの枠組みが法制度に位置づけられた。弁護士・社会福祉士等、多くの職種連携が想定されている。

取材後記

東日本大震災から約13年後、2024年の元旦に発生した能登半島地震は私たちの記憶に強く残っており、2年あまりが経過した今も、仮設住宅で暮らす被災者は多く、震災をめぐる法律相談は続いています。
「特別なスキルがなくても、弁護士にできることは多い」。話を聞く、課題を整理する、解決策を一緒に考える――それはすでに、すべての弁護士が持っている力です。
災害の問題を解決する資金や仕組みの整備は国・自治体の役割ですが、弁護士が「待つ」立場から「出向く」立場へ移行した東日本大震災の経験は、今も色あせていません。災害時に少しでも多くの命が救われるように、弁護士が一歩踏み出しやすい仕組みが作られることを願います。
■在間文康(弁護士)
1978年、兵庫県西宮市生まれ。京都大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。アストレア法律事務所(東京都新宿区)に入所。東日本大震災後の2012年より岩手県陸前高田市にて、いわて三陸ひまわり基金法律事務所(公設事務所)を新規開設し、初代所長として執務。災害関連死遺族の支援をはじめ、被災者及び周辺地域の住民の相談を幅広く担当。2016年弁護士法人空と海 そらうみ法律事務所を開設。陸前高田市や奄美大島など弁護士過疎地域に支部を置く。被災者支援制度の改善にも取り組んでいる。
■岩田いく実
損害保険会社、法テラス、一般民事系法律事務所に勤務後、ライターに転身。パラリーガル経験を活かし、年間60人を超える弁護士・税理士を取材。相続や離婚、不動産売却、債務整理、損害保険などのテーマを中心に執筆。第一法規『弁護士のメンタルヘルスケアの心得』で記事執筆、自主出版に『ルポ豊田商事』がある。


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