司法統計を見ると離婚を望む理由として最も多く挙げられるのは、長年変わらず「性格の不一致」です。しかし、この漠然とした理由だけで、法的な離婚は認められるのでしょうか。

一般的に、双方が合意する「協議離婚」であれば、どんな理由であっても離婚は成立しますが、一方が拒否した場合には、民法770条に限定列挙された5つの「法定離婚事由」のいずれかに該当するかどうかが争点となります。
「あなたとは、もうこれ以上暮らしていけません」
ある夜、妻から突然一方的に離婚届を突きつけられた男性のケースをもとに、性格の不一致で、裁判上の“離婚”が認められるかどうか、判断基準について解説します。
※この記事は、飯野たから氏・神木正裕氏著、梅田幸子氏監修の書籍『男の離婚読本(第6版)』(自由国民社)より一部抜粋・構成。

家庭内は安泰だと思っていたのに……

朝比奈三郎さん(仮名)は、郊外で小さな電器店を営んでいます。
開店して8年、儲かっていると言うほどではありませんが、家族3人が暮らすには十分な収入はあります。というのも、修理や配達も面倒臭がらずに引き受け、また店員を雇う代わりに、妻の芳江さん(仮名)が店番をして経費の節減を図ってきたからです。それに、家庭でも、息子の大樹君(仮名)は素直で人並み以上に成績も良く、三郎さんは今の暮らしに満足していました。
そして、妻の芳江さんもまた、当然そう思っていると信じていたのです。しかし……。
先週のことです。三郎さんが、いつものように店の後片付けを終え、店から5分ほどの自宅に帰ったのは、午後11時を回っていました。風呂で汗を流し、リビングキッチンで遅い夕食を済ませた三郎さんの前に、芳江さんが突然離婚届を置いたのです。届出用紙の妻の欄には、芳江さんの住所氏名が書かれ、すでに署名押印もされていました。

「あなたとは、もうこれ以上暮らしていけません。別れてください」
芳江さんが真剣な顔で、そう言い出したので、三郎さんはビックリしてしまいました。
「り、離婚だと……! お前、他に好きな男でもできたのか」
「馬鹿馬鹿しい。そんなんじゃないわよ」
「じゃあ、何だ! 一体、何が不満なんだ! 理由を言え!」
「性格の不一致。いろいろあるけど、結局はそれね。あなたとは、考え方も趣味も違うの。私、あなたに合わせて暮らすの、疲れちゃった……」
激昂して食い下がる三郎さんを尻目に、芳江さんはそう言い残すと、サッサと部屋から出ていってしまったのです。後に残された三郎さんは、必死に冷静になろうと努めました。しかし、いくら考えても、自分が妻から離婚を求められる理由など、まったく思い当たらないのです。もちろん、このまま離婚に応ずるつもりなどありません。

夫はただ、戸惑うばかり

その後、三郎さんは芳江さんと何度も話し合いましたが、彼女の方は「離婚してくれ」の一点張りです。
ただ、性格が合わない、もう愛情を感じていないと言うばかりで、具体的に何が不満なのか、三郎さんにはいまだに良く判りません。しかし、息子の大樹君まで、どうも母親の味方のようなのです。

思い余った三郎さんは、芳江さんの高校時代からの親友で、近所に住む山本裕子さん(仮名)を訪ねました。彼女なら、離婚の本当の理由を聞いているかも知れないと思ったからです。
「俺は、この12年、あいつを幸せにしようと必死に頑張ってきたつもりだ。たしかに贅沢はさせてやれなかったけど、経済的に苦労をかけたことは一度もないし、年に何度か家族旅行だって連れてってやってる。もちろん、芳江を裏切ったことなんか一度もない。それなのに、いきなり離婚だなんて……。あいつ、何が気に入らないんだ」
「そんなことも判らないの。彼女、もう何年も前から、あなたとの離婚を考えていたのよ」
芳江さんを通じ十数年の付き合いという気安さもあって、ついグチをこぼしてしまった三郎さんに向かって、山本さんは突き放すように、そう言い出したのです。
「芳江が、ずっと離婚を考えていた……」
「そうよ。あなた、本当に気づかなかったの?」
三郎さんは、あまりのことに頭の中が真っ白になっていました。結婚して12年。自分達夫婦は、ずっと幸せで、今も愛し合っていると信じていたのです。
それなのに……。
「だいたい、いつまでも芳江に店の手伝いなんかさせるからいけないのよ。彼女、電気店の仕事じゃなくて、他にやりたいことがあったの。それとも、彼女がいないとダメってわけ?」
「そりゃあ、バイト雇えば済むんだけど……。バイト料払うのが大変で……」
「ええ!? バイトで済むことを、ずっと芳江にやらせてたの。それじゃあ、あんまりじゃない。結局、あなたは彼女のことを、人として対等に見てなかったのよ。まっ、世の中の男は多かれ少なかれ、そういうものなんでしょうけどね」
「……!」
そう言われても、三郎さんは反論することができませんでした。たしかに、店で仕事の話をする以外、この3年ほど、芳江さんとはろくに口を聞いたこともありません。第一、ここ何年間か、ベッドを共にすることすらなかったのです。
結局、芳江さんの離婚の決意が固いということが判っただけで、三郎さんは、何の解決策も見いだせないまま山本さんの家を後にしました。
三郎さんは離婚に応ずるつもりはありませんが、芳江さんが性格の不一致を理由に離婚を求める裁判を起こしたらと思うと不安です。

解説/離婚の動機は、夫も妻も「性格の不一致」が第1位

民法は、夫または妻が一方的に離婚を言い出せるケースとして、相手の浮気や蒸発、それに悪意の遺棄や回復の見込みがない強度の精神病、その他、結婚を続けるのが難しい場合など5つの離婚原因を認めています。
では、具体的な離婚の動機には、どんなものがあるのでしょうか。
筆者らが独自に行った離婚経験者に対するアンケートによりますと、その動機は、性格の不一致がもっとも多く、次いで相手の浮気と続き、夫婦の会話がない、相手側の親族との折り合いが悪い、子供の問題などとなっています。
また、令和6年中に、全国の家庭裁判所で終局処分(結論)の出た5万8429件の婚姻関係調停事件でも、夫も妻も離婚の動機の第1位は「性格の不一致」でした。これによると、夫では実に6割が、また妻も4割弱が離婚動機の一つとしています(令和6年版・司法統計年報家事編)。その割合は、毎年若干異なりますが、長い間、離婚動機の第1位の地位は揺るいではいないようです。
なお、独自アンケートでわかった性格の不一致以外の動機としては、夫側では、精神的な虐待、異性関係、妻の浪費癖、夫の家族や親族との折り合いが悪い、性的な不満(性的不調和)、妻が同居に応じない、などが毎年上位に入りますが、最近は、妻が暴力を振るうという項目が増加しているのが注目されます。
一方、妻側は、夫が生活費を渡してくれない、精神的な虐待、夫が暴力を振るう、異性関係、夫の浪費癖、夫が家庭を省みない、などが主な動機です。
離婚を望む人にとっては、この性格の不一致(性格が合わない)という言葉ほど便利な言葉はありません。結婚生活は元々生まれも育ちも違う男女が一緒に暮らすのですから、一つや二つ意見や趣味が合わないことがあっても当たり前です。新婚時代ならともかく、いつも2人の考えは同じという夫婦の方が、むしろ稀だと思います。
ただ、性格も趣味も考え方もまったく違う夫婦が、何十年と円満に暮らしているケースも少なくありません。そう考えると、性格の不一致という理由だけでは離婚の決め手になりにくいはずですが、現実には、性格の不一致を理由に離婚しようという夫婦が半数を占めているのです。

よくアバタもエクボと言われますが、恋愛中は魅力的に見えた相手のちょっとしたクセが、結婚した途端、逆に嫌悪感をもよおしてしまうということがあります。また、いつしか愛情が冷め、相手の顔を見るのも嫌になったという場合もあるでしょう。
具体的にこれといった理由はないけど、とにかく別れたいという人もいます。そんな時、性格の不一致という理由にすると、なぜかもっともらしく聞こえるから不思議です。
このように、一口に性格の不一致と言っても、結婚を続けることが難しい重大な理由(法律の認める離婚原因、民法770条1項5号)に当たるものから、単なる身勝手なものまで多々あるのです。

性格の不一致を理由に、裁判で離婚が認められるか

離婚は、これといった具体的な理由などなくても、夫と妻が合意すれば自由にできます。離婚のほぼ9割は、この協議離婚です。しかし、夫婦の一方が離婚を承知しない場合、最終的には離婚訴訟を起こすしかありません。
では、お互いの性格が合わない、つまり性格の不一致という理由だけで、裁判所が離婚を認めるでしょうか。
この性格の不一致が、離婚の動機の大半を占めることは、すでに紹介しました。しかし、この動機が民法の認める離婚原因(結婚を続けることが難しい重大な理由があるとき)に該当するかどうか、その判断は大変難しいのです。
裁判所では、夫婦の年齢、職業、性格、生い立ち、結婚までの経緯など、様々な事情を考慮して判断することになります。
これといって他に特別の理由はないが、性格の不一致の程度が大きく、意見の相違などから夫婦間のヒビも深まり、愛情も冷却して、もはや元に戻れる余地はないということになれば、結婚を続けることが難しい重大な理由があるとして、裁判所が離婚請求を認めることもあると思います。

実際、夫からの性格の不一致を理由とする離婚請求を認めた判例もあります(東京高裁・昭和54年6月21日判決)。
この事件は、夫婦の生活観や人生観が大きく異なっていたことが、2人の結婚生活破綻の最大の原因として、性格の不一致を理由に夫からの離婚請求を認めたものです。
しかし、この判例はむしろ例外です。裁判離婚で、性格の不一致だけを理由に離婚を求めても、裁判所に認めさせることは非常に難しいと思います。
相手側に不倫などの不行跡があればともかく、この理由だけでは離婚動機が短絡的かつ利己的な理由でしかないとして、裁判所は離婚請求を認めないことも多いのではないでしょうか。このほか、常識がないとか、しつけが悪いとか、身体が貧弱などの動機も、離婚原因としては認められません。
ただ、動機が性格の不一致だけでなく、それ以外にもある場合には離婚が認められることもあります。たとえば、夫がたびたび暴力を振るうとか、まったく生活費を渡さないという場合は、離婚が認められると思いますし、また夫の性的な不能も、結婚前に肉体交渉を持つ機会がなく、その事実を知ることができなかった場合には正当な離婚原因になります。
朝比奈さん夫婦の場合、妻の芳江さんは性格の不一致以外にも、夫三郎さんの日頃の言動を非難し、また「他にやりたいことがあるのに、夫の店を手伝わされてる」と、友人に夫への不満をこぼしていたようです。
三郎さんは、芳江さんが裁判を起こすのではと不安なようですが、たとえ裁判(いきなり裁判にはできず、調停から始まる)になっても、裁判所は芳江さんの離婚請求を認めないと思います。調停でも裁判でも、夫婦関係をやり直してはと、裁判所は彼女に提案するのではないでしょうか。
しかし、三郎さんも離婚を避けたいのであれば、今からでも遅くありません。芳江さんに、これまでの店の仕事への寄与を感謝し、またバイトを雇って、店の仕事から彼女を解放することを考えてはどうでしょう。それくらいの努力はすべきです。

食わしてやってる――言ってはいけない夫の禁句

このケースの夫は、自分は妻子のためにしっかり働き、それなりの暮らしもさせている。離婚したいと言うのは妻の身勝手だと考えているのではないでしょうか。
はっきり言葉では出していませんが、妻の友人との会話の中からも、無意識のうちに「食わしてやってる」という意識が見え隠れします。
この話は約30年前のものですが、今日でも夫婦ゲンカの際、こんな禁句を出してしまう夫がいるような気がします。育児や店が軌道に乗るまでの間はともかく、夫には「妻の夢を奪う権利」はないのです。


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