今月4日、電動キックボードで信号無視や歩道走行などの交通違反を2回繰り返した29歳の男性が、「運転者講習」の受講命令に従わず、期限までに受講しなかったとして、道路交通法違反(受講命令違反)容疑で書類送検された。
警視庁は受講命令書を手渡した昨年7月以降、男性に対し5回の電話(うち4回通話)、2通のはがき案内を送るなど、再三にわたって受講を促していたという。
電動キックボードの運転者が「受講命令違反」で書類送検されたのは全国で初めて。
報道によれば、男性は調べに対し「取り締まりの内容に納得できていなかったので、講習は受けなかった」といった趣旨の供述をしているという。自身の正当性を主張するための「無視」だったようだが、その代償は決して小さくない。
書類送検された男性の処遇は今後どうなるのか。そして、男性は自身の正当性を主張するためにどう振る舞うべきだったのか。交通事故に多く対応する鷲塚建弥弁護士に聞いた。

「運転者講習」の対象者

男性が警視庁から命じられていたのは「特定小型原動機付自転車運転者講習」の受講だ。
この運転者講習は、電動キックボード等の乗車中に信号無視等の危険行為(17類型)を行い、交通違反として取り締まりを受けた者、または交通事故を起こして送致された者が、「3年以内に違反・事故を合わせて2回以上反復して行った場合」に、受講が命じられる。
講習制度は2023年7月から始まり、2024年は1460人、2025年は2563人が受講した(交通安全白書および朝日新聞報道より)。
危険行為に該当する17類型には、男性が取り締まりをうけた信号無視や歩道走行(通行区分違反)のほか、指定場所一時不停止、整備不良車両の運転、酒気帯び運転、携帯電話使用、あおり運転などが該当する。
受講命令に従わなかった場合には、道路交通法120条1項17号により「5万円以下の罰金」が科される。これは交通反則金(いわゆる青切符)の支払いとは異なり、刑事罰としての罰金である点に注意が必要だ。

書類送検後「不起訴」の可能性は?

一般的な刑事事件であれば、書類送検後に「不起訴」となるケースは珍しくない。だが、道路交通法違反を繰り返し、受講命令まで無視した今回のケースにおいてはどうか。

鷲塚弁護士は、「道路交通法違反であっても、最終的な起訴判断は個別事情(反省の有無・違反歴・生活状況など)を踏まえて、検察官が行います」と説明。事案によっては不起訴になることもあり得るという。
「しかし、今回のケースでは、略式起訴により罰金刑を求める運用が想定されます」として、その理由を次のように語った。
「報道からわかる範囲の情報ではありますが、少なくとも
  • 危険な違反を複数回行っている
  • 講習命令書交付後も、電話やはがきによる複数回の呼び出しを無視している
という事情から、一般的な実務感覚としては、検察官が『形式的・軽微な違反だ』として不起訴にとどめる可能性は高くはないと思います。
また、全国初の事案でもあり、かつ命令無視の態様も報道上は相応に悪質と評価し得るため、略式罰金に進む可能性が高いと考えられます」(鷲塚弁護士)

「罰金払えば終わり」とはいかない代償

なお、罰金を支払うことが確定した場合でも、新たに交通違反の点数として加算されるような免許への影響はないという。
「現行の点数制度は通常、自動車等の具体的な運転違反(速度超過、信号無視など)を対象とする仕組みであり、『講習命令に従わなかったこと』自体を点数の対象とする構成にはなっていません。
したがって、受講命令違反の罰金が、そのまま普通免許の点数加算や直ちに免許停止・取り消しの基礎点数になるとまではいえないと考えられます」(鷲塚弁護士)
もっとも、略式命令による罰金であっても、正式裁判での罰金と同様に有罪判決であることに変わりはなく、「前科」になる。
そのため鷲塚弁護士は、たとえば以下のような間接的な不利益は「十分想定される」と指摘する。
  • 受講命令違反で罰金前科が付くと、将来、別の道路交通法違反を起こした際に「過去にも講習命令を守らなかった人」として悪質性を補強する材料になり得る
  • 就職や資格取得の際に前科の有無が問題となる業種では、心理的・社会的な不利益が生じるリスクがある
「道路交通法103条は、一定の道路交通法違反があった場合に免許の取り消し・停止などの行政処分を行い得る旨を定めており、行政側は違反状況や過去の処分歴等を総合的に見て判断します。
『講習命令を軽視する態度』自体も、将来の免許行政における心証としてマイナスに働き得ることから、単に『罰金を払えば終わり』という軽い問題ではない、という点は認識しておいた方が良いものと考えらえます」(鷲塚弁護士)

納得できない→無視「法的には通用しない」

では、今回の男性のように「取り締まりの内容に納得できていない」といった“言い分”があった場合、本来はどうすべきなのか。
鷲塚弁護士は「自分が納得できないからといって受講命令を無視することは許されません」と一蹴し、不服がある場合に取り得る手段を提示する。
「受講命令に不服がある場合、まず受講命令(都道府県公安委員会による行政処分)そのものに対し、行政不服審査法に基づく審査請求を行うことが考えられます。
さらに、審査請求の結果に不服がある場合のほか、事案によっては審査請求と並行して、行政事件訴訟法に基づく『受講命令の取消訴訟』を提起して、裁判所に適法性の判断を仰ぐことも可能です。

無視をすれば、今回のケースのように『受講命令違反』という新たな犯罪リスクを自ら招く結果になってしまいますので、もしも命令に不服があるならば、法に則った正当な手段で争うべきでしょう」(鷲塚弁護士)
なによりもまずは、電動キックボード等を利用する際は「受講命令を受けないよう」交通ルールを徹底的に守ることを心掛けてほしい。


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