介護保険制度は「家族の負担を社会で支える」という理念の裏で、給付抑制を目的とした、訪問介護の時間短縮を繰り返してきました。かつては90分あった訪問時間が、今では30分、時には10分単位へと細切れにされています。分刻みのスケジュールで地域を駆け回る私たちホームヘルパーにとって、わずかな遅滞も許されません。
そんな制度の余裕のなさが、私に門扉を乗り越えさせたのです。(ホームヘルパー・藤原るか)
門扉を越えた夜
先日、要介護2の柳本太郎さん(仮名/88歳)宅を訪問した際のことです。柳本さんには認知症状があり、数日前、息子さんが一瞬目を離した隙にお金も持たずに自宅を出て行方不明になりました。
その日は、私のもとにも事務所(訪問介護事業所)から、「近隣での活動中に見かけた方は連絡を」という一斉メールが携帯に入りました。「見つかりました!」と連絡があったのは、約6時間後。柳本さんは歩き通して20km離れたところで発見されました。事故にあわずに無事でよかったと関係者一同、胸を撫でおろしたばかりです。
普段は息子さんが同居されていますが、急な仕事が入ったとのことで、夕方からの臨時訪問でした。「行方不明事件を受けて門扉に新しくダイヤル式ロックを取り付けた」という息子さんからのメッセージと、その暗証番号が事務所から申し送りされました。
しかし、現地に着くころには、すっかり夜の帳(とばり)が落ちていて、手元は見えず、ダイヤル式ロックの番号が読めません。携帯電話機のライトでは明かりが足りず、何度数字を合わせてみても門扉を開けられません。
こんな時、一番手っ取り早いのは直接ご家族に伺うことですが、ヘルパーからご家族への連絡は事務所を通じて行うことが決まりです。すぐに事務所に助けを求めて電話をしましたが、タイミングが悪くつながりません。
据え付けられているインターホンは、柳本さんが音に反応して外に出てしまわないよう、以前から電池を外していて、室内との連絡はできません。
柳本さん宅への訪問時間は30分のプラン。このままでは姿も見ずに時間が終わってしまいます。ここで私は、門扉を乗り越えて玄関に向かう決意をしました。
門扉は泥棒の侵入を防ぐため上端が矢じり状にとがっています。それでも、安全に足を掛ける位置などを確認して、よじ登りました。ヘルパーになって30年以上ですが、門扉を乗り越える事態になったことは初めて。近隣から泥棒と間違えられないかと冷や汗をかきました。
無事に乗り越えて、柳本さんに会えた時にはすでに30分のうち8分が経過していました。
この日は夕食を準備して食べていただき、食器を洗って収納、服薬まで済ませるプランです。室内に入ってからも電化製品や家具それぞれにダイヤル式ロックが取り付けられており、冷蔵庫は4桁、クーラーなどのコントローラーが入った棚は3桁と次々とロックを外しながら‟時間との戦い”が続きました。
徘徊防止と家族のジレンマ
鍵をかけて認知症状のある方の徘徊を防ぐ対応は、「閉じ込め」等のハラスメントにつながるのではないかとも言われています。しかし、柳本さんのようにご自宅から外に出てしまえば、交通事故にあうことも予想されます。2007年に愛知県で認知症の男性(当時91歳)が列車にはねられ死亡した事故をめぐり、JR東海が遺族へ720万円の損害賠償を求めた訴訟で、2016年3月に最高裁が、遺族に監督責任はないとして請求を棄却し、家族側の逆転勝訴判決が確定したことが思い出されます。
この裁判では、裁判所は遺族の監督責任を認めませんでしたが、判決の中では、法律上の義務者(後見人など)でなくとも、現に監督・保護している親族等であれば、損害賠償責任を負う可能性があると示されました。
たとえ短時間の訪問でもヘルパーにとっても緊張感がありますし、同居されているご家族のご苦労もわかります。
また、こうした介護を抱える家族の葛藤がある一方で、その外側には、網の目から漏れ、介護保険制度から完全に置き去りにされた人々もいます。
その大きな障壁となっているのが、本人や家族が自ら行政に申請しなければ、介護保険を利用できない「申請主義」の仕組みです。
この制度設計がいかに実態と乖離しているかは、「認知症の人と家族の会」による調査データ(2015年「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」報告)を見れば一目瞭然です。
調査によれば「行方不明があった時期の認知症の人の要介護度」で最も多いのは、介護保険制度の申請をしていない「未診断」でした。
「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」報告書より
介護が必要な状況にありながら、制度の入り口である「申請」にすら辿り着けていない人が多いことを示しています。
国の調査によれば、軽度の方を含め、何らかの認知症状のある方は1000万人を超えています(2022年度調査)。これを65歳以上の高齢者人口から割り戻すと、約3人に1人が認知症状を抱えていることになります。
そして、私たちヘルパーの訪問先も、認知症状のある方が5割と言われています。現在は時間勝負を強いられているヘルパーですが、本来は認知症状のある方に寄り添えるだけの‟緩やかさ”が求められていると思います。
■藤原るか
訪問介護事業所のヘルパー。学生時代に障害児の水泳指導ボランティアに参加したことから福祉の仕事に興味を持ち、区役所の福祉事務所でヘルパーとして勤務。介護保険スタートにあわせて退職し、以来訪問ヘルパーとして20年以上活動している。「共に介護を学び合い・励まし合いネットワーク」主宰。

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