愛人の妊娠で“調停”を申し出た不倫夫 VS 金を積まれても“絶許”貫くサレ妻 離婚が認められる方法とは
離婚原因を作った側(有責配偶者)からの離婚請求は、原則として認められていません。ただし、夫婦関係が完全に壊れており、相手に過度な不利益がない場合は、例外的に離婚が認められることがあります。

本記事では、愛人の妊娠を機に‟破格の条件”で離婚を迫る夫と、それを頑なに拒む妻のケースをもとに、不倫した側からの離婚が裁判で認められるための「3つの条件」と、現実的な財産分与の相場について解説します。
※この記事は、飯野たから氏・神木正裕氏著、梅田幸子氏監修の書籍『男の離婚読本(第6版)』(自由国民社)より一部抜粋・構成。

妻を無視して、愛人と同居

鎌田利夫さん(仮名)は精力絶倫。自他ともに認める女好きで、50歳の大台を超えた今も、複数の女性と関係しています。
そのため、鎌田さん夫婦は若い時から女がらみの夫婦ゲンカが絶えず、奥さんの雪江さん(仮名)は5年ほど前、とうとう2人の子供を連れて実家に帰ってしまいました。
しかし、鎌田さんは、反省するどころか、それをいいことに愛人で2回りも若い三ツ木知恵子さん(仮名)を家に引き入れ、夫婦同様に暮らし始めたのです。
怒った雪江さんは、裁判所に夫との離婚調停を申し出るとともに、知恵子さんに対しては、不貞行為により精神的損害を受けたとして500万円の慰謝料を求める裁判を起こしました。
「離婚は、すべて主人の浮気が原因です。結婚以来20年。私は常に主人の女性問題で苦しんできました。私は主人に、慰謝料として1億円、財産分与として所有不動産全部と会社の株式の半分を要求します」
雪江さんは、調停でそう主張しました。しかし、いくら鎌田さんに非があると言っても、その請求額は彼の個人資産の約8割に当たります。こんな法外な要求は、鎌田さんとしてもとうてい呑むわけにいきません。

家庭裁判所の調停委員も、財産分与と慰謝料合わせて3000万円が妥当とする妥協案を作り、雪江さんを説得しましたが、意地になった雪江さんは最後まで自説を曲げようとせず、結局調停は不調に終わったのです。
ただ、裁判の方は被告の知恵子さんが出廷しなかったため初回で結審となり、裁判所は雪江さんの請求すべてを認めました。
もっとも、鎌田さんの経営する雑貨輸入会社のOLに過ぎない知恵子さんには差押えするほどの預金も資産もなく、雪江さんは勝訴判決を勝ち取っただけで具体的には何一つ手にすることができなかったのです。その上、知恵子さんは鎌田さんとの同棲生活を、その後もおおっぴらに続けています。
雪江さんは2人に対し、それまで以上に強い憎しみを抱いたのです。
この時もし、鎌田さんが500万円を立て替え、さらに若干でも離婚慰謝料と財産分与を支払っていれば、あるいは雪江さんは黙って離婚届にハンを押していたかもしれません。そうすれば、後々まで離婚問題のトラブルでモメることもなかったでしょう。
ところが、鎌田さんもまた、法外な要求をする雪江さんに腹を立てていました。さすがに、高校生の長男利幸くん(仮名)と長女の利江さん(仮名)の養育費だけは払いましたが、それ以外の一切の支払いを拒絶したのです。

好き勝手をしてきた結果……

あれから5年。今も別居を続ける鎌田さん夫婦ですが、最近になって今度は鎌田さんの方から離婚調停を申し出たのです。
原因は、知恵子さんの妊娠でした。鎌田さんは子供のために雪江さんと別れ、知恵子さんと再婚しようと考えたのです。
もちろん、雪江さんを納得させるため破格の離婚条件を提示しました。
その内容は、一時金として5000万円。これまで、2人の子供に養育費として月々払ってきた20万円を、その成人後は雪江さんの生活費として、彼女が死ぬまで支払うというものです。
なお、利幸くんはすでに大学を卒業して社会人になっていますし、利江さんも来春には短大卒業見込みなので、雪江さんは来春から、その20万円を丸々自分のために使えます。
しかし、夫とその愛人への憎しみで凝り固まった雪江さんは、破格の条件にも関わらず、どうしても離婚に応じようとはしなかったのです。
「夫とは、絶対に離婚しません。あの女と結婚なんかさせるもんですか」
雪江さんは調停の席でも、そう言ってはばかりません。このままでは、また不調になることは火を見るよりも明らかです。
出産予定日まであと半年。知恵子さんからは「生まれてくる子供のためにも、きちんと籍を入れて」とせっつかれていますが、雪江さんが離婚に応じてくれないので、どうしようもありません。
鎌田さんは、もし調停が不調になったら、すでに夫婦関係が破綻していることを理由に雪江さんとの離婚を求める裁判を起こすつもりです。しかし、離婚原因を作った鎌田さんの言い分を裁判所が認めてくれるかどうか自信はありません。

解説/別居状態が長ければ、愛人を作った側からの離婚請求でも認められる

離婚は、夫と妻の合意さえあれば自由にできます。しかし、どちらか一方が離婚に反対している場合には、民法770条に規定された5つの離婚原因のどれかがないと離婚できません。
また、離婚原因を作った側(有責配偶者という)からの離婚申立ても、認められないというのが常識でした。
しかし、すでに夫婦関係が破綻して修復不可能な状態なのに離婚を認めないのは不自然で、むしろ離婚を認める方が自然だという考え方(破綻主義という)もあり、昭和62年9月2日、最高裁判所は有責配偶者からの離婚請求を認めたのです。
ただし、すべての有責配偶者の離婚申立てを認めたわけではなく、少なくとも次のような条件が必要とされています。
①夫婦の別居が、その年齢および同居期間と比べ、相当長期間に及んでいること
②夫婦の間に、未成熟の子供がいないこと
③離婚により、相手が生活に困ることがないよう経済的な面倒などをみてやること
鎌田さんの場合、すでに子供も成人しており、また5000万円を超える一時金と月々20万円の支払いとを提示しているので、②と③はクリアしていると思われます。
ただ、別居期間が問題です。判例上、とくに何年以上という規定はありませんが、別居期間8年(同居23年)では相当長期間とは言えないとして有責配偶者の夫からの離婚請求を認めなかった判例もあります。もちろん、②と③がクリアされない事例では、いくら別居期間が長くても離婚は認められません。
鎌田さん夫婦の場合は、まだ別居5年。しかも、夫婦仲は悪くても、その前に20年間の同居生活もあるのですから、①の条件をクリアしていないとして、現状では裁判所が離婚を認めない可能性が強いと思います。
ただ、平成9年7月の通常国会に提出された民法改正案(審議未了で廃案)にも、「別居期間5年以上で夫婦関係が回復できないほど破綻しているとき」という項目が離婚原因に追加されるなど、社会的にも、破綻主義や有責配偶者からの離婚申立てはわずかずつですが浸透し、認知されてきているようにも思われます。
そこで、たとえ別居期間が短くても、相手方への財産分与など経済的な支払いを厚くすれば、裁判所では判決では離婚を認めなくても、和解による離婚を勧めてくるのではないかと思うのです。

鎌田さんの場合にも、裁判所は、おそらく和解を勧めてくるのではないでしょうか。ですから、雪江さんが調停でも離婚に応じなかった場合も諦めずに、とりあえず、離婚を求める裁判を起こすことです。
なお、雪江さんは自分から家を出ています。鎌田さんの浮気が原因とはいえ、これは明らかに同居義務違反です。裁判所が離婚原因として認めるかどうかは別として、夫側としては、この点を主張する方法もあります。

別れたければ、妻が生活に困らない程度の金は渡せ

令和6年に調停または家事事件手続法284条の審判(調停不調の場合、家庭裁判所が職権で行う審判)で離婚した夫婦のうち、慰謝料や財産分与が決まったのは3分の1強(34.5%)です。
愛人の妊娠で“調停”を申し出た不倫夫 VS 金を積まれても“...の画像はこちら >>
その額は400万円以下が4割強で、1000万円を超す取決めは2割弱しかありません(上表参照)。
ただし、結婚25年以上の熟年夫婦の場合には、半数近く(47.4%)が600万円を超えています(離婚した夫婦全体では29.1%)。また、1000万円超の取決めをした夫婦の割合も3組に1組(30.8%)と、支払額が高額な夫婦の割合が高いです(令和6年司法統計年報家事編)。
この現実を知らないため、雪江さんほどでなくても平気で法外な金額を要求して、離婚話を必要以上にこじらせる妻も少なくありません。
たしかに、テレビや週刊誌で紹介される芸能人など著名人の離婚話では、慰謝料何千万円とか何億円の財産分与をもらったという記事も出ます。しかし、著名人は慰謝料や財産分与の算定の基となる資産や収入が違うのです。

ごく普通のサラリーマンにすぎない夫の年収を考えたら、こんな金額はもらえないと、妻なら簡単にわかるはずです。離婚の話合いの中で、妻から必要以上に高額の支払いを要求された場合、とにかく慌てないでください。
では、離婚する際、慰謝料や財産分与として妻にいくら払ったらいいのでしょうか。
年齢や結婚生活の長さ、離婚の原因、その原因はどちらが作ったかなど、それぞれの夫婦により事情が異なるので、一概には言えません。しかし、一般的なサラリーマン世帯の場合には、次のような基準で判断したらいいと思います。
①慰謝料は、離婚原因を作った方が払います。
夫婦双方に原因がある場合は、より重大な原因がある方が払います。結婚年数にもよりますが、慰謝料額は通常100万円前後と安く、多くても500万円止まりです。
財産分与は離婚原因を作った側でも請求できます。たとえば、専業主婦の妻の不倫が原因で離婚した場合、夫は妻に慰謝料を請求できますが、妻から財産分与を請求されると原則として断れません。
②財産分与の対象になる財産は、結婚後に夫婦で築いてきた財産です。
結婚前から元々持っていた財産、結婚後に相続などで取得した財産は、対象になりません。
なお、夫婦で築くという趣旨は、何も一緒に仕事をしてということではなく、たとえば専業主婦の内助の功も入ります。
③財産分与の割合は、その財産を築くのにどのくらい貢献したかで判断します。
今日では、一般的に、共働きの場合も専業主婦の場合も、妻の貢献度は2分の1として財産分与に反映させるという考え方が定着しています。なお、サラリーマン世帯の場合、資産といってもローンの残ったマイホームしかないというケースも珍しくありません。
この場合、財産分与の対象となる金額はマイホームそのものの価格でなく、それまで支払ったローン価格の総額、またはローン残高を差し引いた額とするのが妥当でしょう。
たとえば、財産分与の対象は5000万円の土地建物だが、ローンが3000万円残っているとすると、実際に財産分与の対象となる金額は差引き2000万円となってしまうのです。
ところで、鎌田さんの場合はどうでしょうか。雪江さんに一時金5000万円の他、月々20万円ずつ支払うと提示しています。
令和6年の簡易生命表によると、日本人女性の平均寿命は87.13歳ですから、雪江さんは計算上あと40年程度は生きられます。とすると、5000万円+9600万円(20万円×12か月×40年)=1億4600万円が雪江さんに支払われる計算です。
なお、夫が厚生年金加入者で、妻が専業主婦の場合、離婚した妻は夫の厚生年金の一部を受給できます。


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