「業績が悪化してきたので・・・君の内々定を取り消すことになりました」
新卒で入社する予定だった会社から突然、こんなことを言われた大学生は、奈落の底に突き落とされた。内々定を得たことによって、就活を終了させていたからである。

この大学生が会社を訴えた結果、裁判所は会社に「慰謝料50万円」の支払いを命じた。
安易に内々定を取り消すと「違法」になる。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

大学4年生のAさんは、不動産業を営むX社から5月末に内々定をもらったが、9月末に取り消された。
順に経緯を追っていく。
■ 内々定をもらう
5月末、Aさんのもとに、X社から「採用内々定のご連絡」という書類が届いた。そこには下記の記載があった。
「今回は当社求人へご応募頂き誠にありがとうございました。厳正なる選考の結果、貴殿を採用致すことを内々定しましたのでご連絡致します。つきましては、同封の書類をご用意頂き当社へご郵送下さい」
同封の書類とは「入社承諾書」のことだ。そこには下記の記載があった。
「私は、平成●年●月●日、貴社に入社しますことを承諾します」
Aさんは入社承諾書に署名してX社に返送した。Aさんは、就活を終えたとしてホッと一息つき、就職活動をやめ、X社以外の複数の会社からの内々定も断った。

■ 取締役がAさんを呼び出す
それから約3か月後のことである。X社の取締役が、Aさんを呼び出した。
そして、取締役はAさんに対して、会社の業績悪化の話をした上で「経済的状況の悪化があっても、君は大丈夫」 という趣旨の発言をした。
こんなことを言われたら、入社確実だと思うのが普通であろう。
■ 人事部がAさんにTEL
それから1か月半後の9月末ころ、人事部の担当者がAさんに電話し、「内定式は行いませんが、内定通知書授与を10月2日に行います」と伝えた。
この連絡を受け、Aさんは、スーツを新調するなどの準備にとりかかった。
■ 「内々定取り消し」の書面が届く
しかし、人事部の電話からわずか5日後。内定通知書が授与される2日前に、突如として事態は暗転する。
Aさんの自宅に「採用内々定の取り消しのご連絡」という書面が届いたのだ。その書面には下記の記載があった。
「さて、皆様におかれましても、ご高承のとおり、昨夏以降の建築基準法改正やサブプライムローン問題、更には原油に代表される原材料、燃料等の暴騰といった複合的要因により、不動産市況は急激に冷え込み、弊社を取り巻く環境は急速に悪化しております。このような環境の下、弊社は中期的な事業計画を見直すことになりました。
新規学卒者に関しての採用活動についても慎重に検討して参りました。その結果、来年度の新規学卒者の採用計画を取りやめることといたしました。つきましては、先般、ご連絡差し上げました採用内々定の件、誠に申し訳ございませんが、取り消しさせていただくこととなりました。大変残念な結果となりましたが、何卒、弊社の事情をご賢察いただけますようお願い申し上げます」
■ 抗議メール
翌日、AさんはX社に抗議メールを送った。しかし、詳しい説明を受けることはまったくできなかった。
その後、Aさんは再び就職活動を開始したが、就職先は4月になっても決まらなかった。
そして、X社の対応に納得できないAさんは提訴した。

裁判所の判断

Aさんの勝訴である。
裁判所は、X社に「Aさんの期待を裏切っている(期待権の侵害)」として、「Aさんに慰謝料50万円払え」と命じた。
具体的には、「X社の対応によって、労働契約が確実に締結されるであろうというAさんの期待が法的保護に値する程度に高まっていたと判断することが相当」と指摘。
X社は 「経済事情が悪化し、やむなく内々定を取り消した」と主張したが、裁判所は「経済情勢の悪化は、すでに採用内定通知書授与日を通知した日から存在した事情である」と一蹴。「期待権の侵害」が認定された。
さらに、裁判所は「Xさんの抗議メールに対しても、真摯に対応してない」と指摘。
慰謝料増額の一要素になったと考えられる。

最後に

今回は内々定のケースだったが、内々定を出していなくとも、今回のケースに匹敵するような思わせぶりな態度をとっていると、求職者から損害賠償請求されるおそれがある。
最近は録音している求職者も多いので、企業側は発言に注意が必要だ。そして、就職活動中の皆さまは、思わせぶりな態度をかもしだされているときは、万が一のときのために録音しておくことをオススメする。


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