岡山県岡山市にある西大寺で行われている「西大寺会陽(裸祭り)」は、締め込み姿の男性が観音院の本堂に大勢密集し、2本しかない「宝木(しんぎ)」を奪い合うという独特なお祭りです。
先月21日に行われた西大寺会陽には、約1万人の男性が参加して宝木を奪い合いました。
その際に事故が起き、男性3名が意識不明の重体となり、本記事執筆時までにそのうち2名が亡くなったとの報道がなされています。
本記事では、西大寺会陽の主催者が事故について責任を負うのか否かなどについて解説します。(弁護士・阿部由羅)

西大寺会陽(裸祭り)の免責事項

西大寺会陽(裸祭り)において宝木の争奪に参加する人に対して、西大寺のウェブサイトには次の免責事項が記載されています。
西大寺会陽は日本の伝統的な行事で神聖なものです。スポーツではありません。
注意事項を厳守の上ご参加ください。
裸群の中では多大の危険が伴います。この事を承諾の上、自己の責任において参加し自分を守ってください。怪我・死亡事故等が発生しても当会は責任を負いません。(出典:「裸祭り参加者注意事項」(西大寺)
また、宝木の争奪に関する参加申込フォームが設けられている岡山商工会議所のウェブサイトには、参加者が遵守すべきルール(飲酒や暴力行為の禁止、服装など)とともに、次の免責事項が記載されています。
裸参加者には大きな危険が伴います。裸祭りにおいては、他の参加者との接触、転倒等により怪我・死亡事故が発生する危険性があります。
裸祭りが参加者の皆さまの自己責任のもと開催されるものであることに鑑み、奉賛会並びに金陵山西大寺は、祭り参加中に生じる可能性のあるいかなる怪我、死亡等の事故に関しても損害賠償その他一切の責任を負担いたしません。

このことをご承諾の上、自己の責任において参加し、自分を守ってください。(出典:「裸参加者の皆様へ(お願い)」(岡山商工会議所)

イベント主催者の免責事項は有効か?

西大寺会陽に限らず、イベントの開催に当たって「主催者は一切の責任を負いません」といった免責事項がウェブサイトなどに記載される例はよく見られます。
イベント主催者の免責事項は、事故のリスクに対する自己防衛を参加者に促す観点からは、一定の意義があると考えられます。ただし法的には、免責事項を記載していても、それだけでイベント主催者が常に免責されるわけではありません。
特に、事故の発生について主催者に重大な過失がある場合は、免責事項が公序良俗違反(民法90条)によって無効となり、主催者の責任が認められる可能性が高いと考えられます。

イベント主催者が事故の責任を負うと考えられるケース

危険性の高いイベントについては、参加者側もその危険をある程度引き受けているため、すべての事故について主催者に責任を負わせるのは適切ではないでしょう。
しかし主催者側は、イベント開催中の事故によって参加者が生命を奪われたり、重傷を負ったりすることがないように、参加者をその危険から保護するよう配慮すべき義務を負うと考えられます(=安全配慮義務、最高裁昭和50年(1975年)2月25日判決参照)。
安全配慮義務を怠った結果として、参加者の生命や身体が害された場合には、主催者はその損害を賠償しなければなりません(民法709条)。
具体的には、イベント中の事故について次のような事情がある場合には、主催者が責任を負う可能性が高いと考えられます。
  • イベントの性質上当然に想定される危険や、重大事故につながり得る危険について、参加者に対する注意喚起を十分に行わなかった。
  • イベントの開催方法やルールについて、社会通念上許容し得ない程度に危険であることが分かっていたのに、是正せずにイベントを開催した。
  • イベント当日に開催状況を監督していた主催者が、的確に対応すれば事故の発生や深刻化を防げたのに、その対応を怠った。 など
また、主催者側が管理している土地の工作物(建物や高台など)の設置または保存が適切に行われなかったことによって事故が発生した場合は、主催者が工作物責任を負います(民法717条)。

西大寺会陽(裸祭り)の主催者は、事故の責任を負うのか?

今回の西大寺会陽(裸祭り)における事故については、その経緯や原因に関する明確な報道がいまだなされていないため、現時点で主催者の責任の有無を判断するのは困難です。

今後主催者の責任の有無を判断するに当たっては、次に挙げる要素などが考慮されることになるでしょう。
  • 参加者に対して十分な注意喚起がなされていたか
  • 開催方法やルールは、危険防止の観点から適切だったか
  • 開催当日において、主催者の対応により事故を回避できる可能性はなかったか など
特に西大寺会陽(裸祭り)は、1万人にも及ぶ男性が密集して、たった2つしかない宝木を奪い合うというものであり、死亡事故などの重大事故が起こる危険性は極めて高いと考えられます。
したがって主催者としては、重大事故の発生を防ぐために、参加者に対する注意喚起や開催方法・ルールの検討を十分に行う必要があります。このことは、ウェブサイトに免責事項を記載したとしても免除されるものではありません。
報道によれば、西大寺会陽(裸祭り)では2007年にも死亡事故が発生していたとのことです。
今回の事態を受け、主催者の西大寺は3月17日に公式サイトでコメントを発表。次のように述べています。
「五百年以上の歴史を誇る地域の大切な行事において、このような悲痛な事態を招きましたことを、重く受け止めております。(中略)今後二度とこのような悲劇が繰り返されぬよう、安全への誓いを新たにすると共に、伝統を繋ぐ者の責務として、深く内省し、祈りを続けてまいります」
長年にわたる伝統を持つ祭事についても、現代における社会的な意識に合わせた再検討が求められています。
■阿部由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。
その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。


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