25日午前11時55分頃、北海道札幌市白石区のスーパーマーケットで17歳の女子高校生がコメ5kg1袋(4838円)を盗み、逃走する際、追いかけてきた女性店員に対しその足を複数回蹴ったとして、事後強盗の疑いで逮捕された。
被疑者の女子高校生は住所不定とのことであり、複雑な事情を抱えている可能性が考えられる。
また、「お金がなかったから万引きした」と述べたとの報道があり、SNS等では一部で同情の声もある。
本件の被疑者は「少年」にあたるため、刑罰が科されず、種々の事情を考慮したうえでの「保護処分」等が行われる可能性が考えられる。
これに対し、成年者が貧困に耐え兼ねて犯行に及んだ場合、事後強盗罪は「5年以上の有期拘禁刑」が科される重罪であり、原則として執行猶予がつかない(刑法238条・236条1項、240条)。そうなれば、人生を棒に振るリスクを負うこともあり得る。
事後強盗罪は実務上、どのように処理されているのか。刑法・刑事訴訟法に詳しく刑事弁護の専門家である岡本裕明弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞いた。

万引き後の暴行が必ず「事後強盗罪」にあたるとは限らない

事後強盗罪は刑法238条で以下の通り規定されている。
「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、または罪跡を隠滅するために、暴行または脅迫をしたときは、強盗として論ずる」
岡本弁護士は、「暴行または脅迫」は、強盗罪(236条1項)と同程度のものが要求されると説明する。
岡本弁護士:「強盗罪の『暴行・脅迫』は、『相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫』をいいます。
万引きの場合、逃走しようとして単に振り払うなどの行為にとどまらず、それに加え積極的に殴る蹴るの暴行を加えるなどに至った場合には、『暴行または脅迫をした』と評価され、事後強盗罪に該当する可能性が高まることになるでしょう。
ただし、本件の場合、蹴った状況が明らかではないので、現時点では事後強盗が成立するとは直ちには断言できません。窃盗罪と暴行罪の併合罪(12年以下の有期拘禁刑となり、執行猶予を付することが可能。刑法235条、208条、45条、47条参照)として処理される可能性も考えられます」

犯情が重くても「酌量減軽」で執行猶予が付くケースも

本件で事後強盗罪の事実が認定された場合、被疑者は17歳の女子高校生なので、冒頭に述べた通り「少年事件」として処理され、保護処分が課される可能性が考えられる。
しかし、これが成年の場合、事後強盗罪の量刑は「5年以上の有期拘禁刑」であり、執行猶予を付けられる「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」よりも重いため、原則として実刑となる。

例外として、「刑の減軽」を受ければ執行猶予が付く余地があるが、減軽事由は「中止未遂」「心神耗弱(こうじゃく)」「過剰防衛」などに限られている。
これらの事由が認められない場合、執行猶予を付けるには、犯罪の情状に特に酌量すべき事情を考慮して裁判官の裁量で刑を減軽できる「酌量(しゃくりょう)減軽」(刑法66条)によるしかない。
岡本弁護士は、裁判実務上、事後強盗罪の事件でこの酌量減軽が柔軟に適用され、執行猶予が付されているケースも散見されると指摘する。
岡本弁護士:「たとえば、万引きの後にクルマで逃走しようとして、警備員がそれを阻止するため前に立ちふさがったのに対し、クルマを発進させてボンネットに乗り上げさせ、そのまま走行させた挙げ句、警備員を転落させ、2週間の安静と加療を要する両膝関節挫創等の傷害を負わせたという事件がありました(岐阜地裁令和3年(2021年)8月31日判決)。
裁判所は、事後強盗致傷罪(無期または6年以上の拘禁刑)が成立するとし、『家族間の話し合いや危機意識の共有が必ずしも十分なものとはいえず、被告人自身の反省や更生に向けた決意の言葉がやや弱く、窃盗症の影響からも再犯の懸念はある』と指摘しています。
しかし、酌量減軽を行い、懲役(※)3年、執行猶予5年・保護観察付きの判決を下しました」
※2025年6月から「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され「拘禁刑」に一本化されている

「刑務所に入れること」が社会にとってマイナスになるケースも

上記のケースで、裁判所が酌量減軽を適用するにあたって考慮した事情は、以下の通り。
  • 被害者(店と警備員)にそれぞれ被害を弁償し、その両方から『寛大な処分を望む』という内容の示談を成立させた
  • 前科がない
  • 被告人とその家族が窃盗症の治療に意欲を示し、現に続けている点は多少評価できる
これらは、情状として特筆すべきこととはいえない。しかも、前述したとおり、犯情が悪質であり、再犯の懸念も表明されている。にもかかわらず、なぜ裁判所は酌量減軽を認めたのか。
岡本弁護士は、「裁判所はあくまでも、あらゆる事情を総合的に考慮した上で、被告人にとって適切な刑罰を判断する責務を果たそうとしただけ」と説明する。
岡本弁護士:「刑法の目的・機能は、社会が安寧に保たれるようにすることにあります。そのためには、刑罰による制裁を与えるだけでなく、その者を更生させ再犯を防止することもきわめて重要です。

犯罪に至る動機や背景はさまざまです。『遊ぶ金ほしさ』や『愉快犯』ではなく『貧困』や『精神疾患』が原因で罪を犯してしまう場合もあります。それらの場合には、拘禁刑の実刑を科すことは、その者の再犯防止・社会化の効果が乏しいどころか、むしろ逆効果になることすらあり得ます。
上記事例でも、裁判所は、『社会内において窃盗症の治療を継続させるのが相当といえる』と明言しています。
その上で、『再犯防止のためには家族以外の第三者による監督も必要と考え、その猶予の期間中保護観察に付する』としています。執行猶予の5年間にわたり保護観察が行われることは、本人と家族の双方にとって、決して甘いものではありません」
刑罰の役割は制裁を与えることだけではない。事後強盗罪という犯罪類型に関する裁判実務のあり方は、犯罪を予防し社会を守るためのシステムである刑法をはじめとする刑罰法規の役割、ひいては「罪を償う」ということの意味についての本質的な考え方を浮かび上がらせるものといえるだろう。


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