2026年4月1日、改正民法が施行される。離婚後も父母双方が親権者となる「共同親権」の選択が可能となり、子どもの進学先や医療方針、住居といった重要事項を父母が協力して決定する新たな枠組みが始まる。

婚姻関係の有無にかかわらず父母が子に対して負う責務が明確化され(民法817条の12)、離婚は「終わり」ではなく、新たな協力関係の「始まり」として位置づけられることになった。
こうした制度転換を見据え、弁護士・大学教授・民間団体が集結し「一般社団法人 家事ADR・ODR調停人育成機構」を設立。3月30日午後、都内で会見を開いた。

「ADR・ODRの質的・量的拡充が急務」

ADRとは「裁判外紛争解決手続」の略称で、裁判所を介さずに、中立的な第三者である「調停人」が当事者の間に立ち、対話を通じて合意形成を目指す手続きをいう。家庭裁判所の調停が平日の日中に裁判所へ出向く必要があるのに対し、ADRは夜間や土曜日にも実施できる柔軟さが特徴だ。
ODRはADRをさらにオンライン化したもので、Zoomなどのビデオ会議を通じて自宅から手続きに参加できる。共働き世帯や遠方に住む当事者にとって、時間的・心理的なハードルが大幅に下がる仕組みとされる。
ただし、現状ではADRの認知度は極めて低い。全国の年間取扱件数は推定500~1000件程度にとどまり、家庭裁判所の調停開始件数10万件超とは桁違いの差がある。理事の入江秀晃教授(九州大学大学院法学研究院)は記者会見で「一般の方の認知だけでなく、弁護士を含む専門家もまだピンと来ていない」と指摘した。
だが、同機構は現状の離婚手続きについて「養育費未払い、ひとり親世帯の高い貧困率、こどもの意見反映の不足、調停の長期化による精神的負担といった課題が顕在化している」と主張。
その背景には、日本特有の「別室調停」をはじめとした、関係悪化につながる離婚の過程があるとし、「対立を激化させる訴訟構造ではなく、新しい夫婦関係の形成に向けた対話を支援する家事ADR・ODRの質的・量的拡充が急務」としている。

「納得感が養育費の支払いや親子交流の継続につながる」

会見で、同機構理事の竹内裕美弁護士はこう語った。
「(裁判での紛争の場合)勝つことだけが目的のようになってしまい、相手の人格や過去の出来事をめぐって強く非難する書面が提出され、対立が深刻化し、裁判が終わった後で『果たして当事者は幸せになったんだろうか』と思うケースもあります。

そのため、裁判によって対立が深刻化、硬化する前に、話し合いによって、さらには家庭裁判所の調停よりも柔軟に利用することが可能なADRによって、当事者が自分自身で考えて解決をする。そういう紛争解決のあり方に意義を感じています」
また、理事の小泉道子氏(家族のためのADRセンター代表)は、年間100~150件のADRを取り扱ってきた9年間の実績に触れ、次のように述べた。
「利用者アンケートでは、離婚後2~3年を経過した方々を中心に、9割近い合意履行率が確認できた。結果は思い通りではなくても、プロセスに納得しているという声をいただく。この納得感こそが養育費の支払いや親子交流の継続につながります」

調停人の育成・認証など実施へ

一方で、「ADRを実施する機関を増やせば問題が解決するわけではない」と同機構側は主張する。竹内弁護士は会見で以下のようにコメントした。
「紛争状態にある当事者が対話をすることは、決してたやすいことではありません。家族に関する紛争には怒り、悲しみ、疲れといったさまざまな感情が伴うからです」
その上で、安心して相手と向き合える場を作るために「専門的な知識とスキルを備えた調停人が必要不可欠」と述べた。弁護士であっても、DV・モラハラへの理解や離婚を経験する子どもの心理、共同養育で陥りやすい落とし穴といった家事事件特有の専門性がなければ、調停人は務まらないという。
同機構では今後、家事ADR・ODRに関する政策提言や啓発活動などを行っていくほか、調停人の育成・認証に取り組んでいくとしている。
入江教授は「家庭によってさまざまな事情があるとは思いますが、ここ10年ぐらいで、まだまだマジョリティではないものの、ADRを選択する人がかなりの数出てきた、あるいはそういう兆しがみられる」とした上で、「ADRの基盤となる、調停人の育成が求められる」とコメント。以下のように続けた。

「どのような研修・認証制度を実施していくのかについては、まだ議論をしている最中ですが、調停技法のトレーニングに加え、家事事件に特有の知識を一定程度学んでいることが示される仕組みは最低限必要です」


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