〈『こういう宅配の車を切るのは勘弁してやれよ』って声掛けてやった。真後ろに黒のフルスモークのアルファードも停まってんのに見向きもせず、コイツら卑怯だよな〉
某家電メーカーの宅配用軽バンに反則切符を切っているとみられる動画とともに、きつめのトーンで駐車監視員の行動を非難するXポスト。
プロフィールによれば、投稿したのは元タクシードライバーの男性とみられる。
このポストが指摘するように、軽バンは目の前のマンションへの宅配のために一時的に駐車しているだけとみられ、気の毒ではある。ちなみに、駐車監視員は2006年の道路交通法改正以降、警察官に代わって派遣され、駐車違反の取り締まりを行っている。
所属は主に民間の警備会社などになるが、「みなし公務員」として 扱われる 。

取り締まり現場で「違反切符を切りやすいか」は考慮されるのか

実際のところ、ポストの指摘のように、駐車監視員が駐車違反等の取り締まりの現場で「違反切符を切りやすいかどうか」といった「やりやすさ」を基準に検挙対象を選ぶことはあるのか。
「あります。切符は質よりも量で評価されますので、面倒臭そうな違反者だなと思ったら、時間を取られるのを嫌って、見逃すことも往々にしてあると思います。
“やりやすい”のはやはり大人しそうな『いい人』で、“ やりにくい” のは、いわゆる『輩』のような悪そうな人や 、タクシーやトラックのような職業ドライバーです。特に後者は生活がかかっているので、否認率も一般ドライバーにくらべて高いように感じました」
こう明かすのは、『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の著者で元警察官の安沼保夫氏だ。安沼氏が補足する。
「この宅配車両のような、職務上やむを得ず短時間駐車するケースについては見逃すこともありますし、違反を見つけたとしても切符を持ち合わせていなかった場合には警告だけで済ますこともあります」

無慈悲な取り締まりが重視される背景

裁量によってある程度の“見逃し”もあるようだが、市民の治安維持のために奔走することが警察官の使命だとするなら、残念な実情ではある。なぜ公正さがないがしろにされてしまうことがあるのか。
「それはノルマがあるからです。数字を稼ぐためには、本当に必要あるのかわからないような違反でも積極的に取り締まることになります。
一方で、本当に取り締まるべき対象を野放しにしている側面もあると思います。
『ではノルマをなくせばいいじゃないか』という意見もあるかと思います。そうすると、残念ですが、仕事をしなくなるお巡りさんも一定数発生すると思います(笑)」
少しでも多く違反切符を切ることなどが評価される「点数制度」。その存在は、警察官同士の競争心理が働いて組織活性化に寄与する側面もあるという。
一方で、それぞれが独自のノウハウや「漁場」を持っていながら、共有せずに秘密にすることなども珍しくなく、ギスギスした人間関係に陥ることもあるのだとか。その姿勢は、多くの市民が抱く「使命感にあふれる警察官」とは、あまりにかけ離れていると言わざるを得ない …。
冒頭の投稿には「公権力が何のために存在しているのか問い直してほしい」という意見もあった。これについて安沼氏は「仰るとおりです。ただ、現場の警察官や駐車監視員個人を晒して批判することはやめてほしいです。批判するべきは組織の在り方とノルマ主義です」と力を込めた。

春と秋の“強化シーズン”は要注意

そのうえで安沼氏は、時期特有の取り締まり強化の事情について、次のように打ち明けた。
「毎年春と秋に実施される職務質問強化月間や、全国交通安全運動が背景にあると思います。この時期になると全国のお巡りさんが職質や交通取り締まりに躍起になります。
いつもより多くのノルマが課されるからです。
ちなみに春の全国交通安全運動が、4月6日(月)から15日(水)までの10日間実施されます。私は毎年この時期になると、家族や知人に『車に乗るな』とアドバイスします。いつもなら見逃される違反が、この時期は取り締まられる可能性が高いからです。
ましてや、今年は4月1日から自転車の青切符適用が始まります。自転車の違反に対しても各署がこぞって取り締まる可能性も高いと思います」
内情に精通する元警察官が親族らに「乗るな」とアドバイスをするほど、強化シーズンは違反に対して監視の目が厳しくなる。冒頭のように無慈悲に切符を切られる当事者になる可能性も通常より俄然高くなる。

無防備は最大のリスクと心得る

「むかし、母が某県警から交通違反取り締まりを受けたことがあります。違反内容は、歩道を原付バイクを押して歩いていたら、エンジンを切っていなかったとのこと。しかも、ヘルメットを被っていなかったので、ノーヘルでも切られたそうです。
確かに道交法上では、エンジンを停止した状態でないと歩行者とはみなされません。警察官になってから、私は上記違反について交通に詳しい上司に聞いてみました。
すると、『それで取り締まるなんて有り得ない!事後否認っていう方法もあるから、今からでも否認した方がいいよ!』とのことでした。
切符の控えも処分してしまったので、いつ、どんな違反で処理されたのか定かではありませんが、通行区分違反と思料されます。
この違反は、右左折専用レーンでの直進、対向車線への逆走、歩道や路側帯の不当な走行など、決められた車線・区分以外を走行する違反です。
母の事例でいうと、『違反者はエンジンをかけたままの状態でヘルメットを着用せずに原付バイクを押して歩道を歩いていた』となります。これをありのままに報告書に書いて『通行区分違反』と『乗車用ヘルメット着用義務違反』で違反処理をしたとして、切符の審査担当が『問題なし』と言うとは思えません。
また、この違反に限らず、取り締まるためには一定の現認距離が必要だということを知りました。某県警において、スピード違反の現認距離を水増しして大問題になったことは、記憶に新しいところです。
警察の言うことだから間違いはないとすべてを鵜呑みにするのではなく、正しい知識を身につけて反論することが大事だと感じた次第です。
違反がいけないのは確かですが、無知であることは、無用な違反で取り締まられるリスクを高めます。そう認識し、交通ルールをいま一度、確認してください。
たとえば、取締りを受けた時、『現認距離は何メートルですか?速度はどれくらいでしたか?』と警察官に聞いて、それを控えておくのも手だと思います」
最後は自分の身は自分で守る。自転車の青切符制度も始まったいま、“車両”を扱う際には「無防備」ではいつ取り締まられてもおかしくない。
そう心得ておくのが賢明といえそうだ。
■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。


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