〈小学生の男の子たちが赤信号の横断歩道でわざわざ車の前に飛び出す度胸試ししてて人生終わりかけた〉
3月上旬、Xで“恐怖”の経験談をつづったポストが拡散され、大きな話題を呼んだ。〈「当たり屋」と変わらないじゃん…〉 〈これでも轢いてしまったら車側に罪があるの納得いかない〉 というドライバーの不安な反応が目立った。
中には〈自分も(似たような場面に)遭遇したことがある〉 と身の回りの事例を投稿する人もいた。
こうした理不尽な飛び出しで事故が起きた場合、ドライバーはどこまで責任を負うのか? そして、飛び出しがあったという背景は、事故発生時の「過失割合」にどう影響するのか。交通事故に多く対応する鷲塚建弥弁護士に話を聞いた。

「度胸試し」でドライバーの過失はどこまで問われるのか

鷲塚弁護士は「小学生であっても、『赤信号であることを理解しつつ、あえて車の直前に飛び出す』といった行為は、その態様によっては、運転者から見て通常は想定しがたい『異常な故意行為』と評価され得ます」と話す。
大人同士の事例だが、過去には加害者とされる側の過失が完全に否定された事例もあるという。鷲塚弁護士が示したのは、大阪高裁平成30年5月10日判決だ。
この裁判は、原付で直進していた被害者が、対向車線から右折してきた加害者の原付を一度は避けたものの、その直後に「左足をひかれて怪我を負った」と主張したもの。
裁判所は、加害者側の原付の装備品などを確認したうえで、「被害者が故意に足を出さなければ接触し得ない状況だった」と判断。一度は避けたはずの相手が、わざわざ足を差し出すような行為は予見できないとして、加害者側の過失を否定した。
鷲塚弁護士は、この判決の考え方を、小学生による度胸試しのケースに当てはめ「特に、見通しが悪く、事前に子どもの存在を全く把握できず、かつほとんど接触直前になって突然飛び出した、というような極端なケースでは、この高裁判決と同様に、『そこまで異常な行為を予見する義務まではない』として、ドライバーの過失が完全に否定される余地もあります」と説明する。
ただし、こうした過失の“完全否定”まで認められるのは「ごくごく例外(極限事例)」だと続ける。
「たとえば、通学路や学校付近、住宅街、公園周辺など『子どもの飛び出しが予見される場所』で制限速度ぎりぎり、あるいはそれを超える速度で走行していたり、前方不注視などがあったりする場合には、『子どもが不意に飛び出す危険までは予測して運転すべきだった』と評価されやすく、自動車側の過失が肯定されるのが一般的です。
そのため、実務イメージとしては、度胸試しとはいえ、場所や速度、見通し等から『子どもの飛び出しをある程度予見できた』と評価される場面では、基本の過失割合(※)を起点としつつ、子ども(歩行者)の故意性の高さに応じて、歩行者側の責任が重く加算され、ドライバーの責任がより軽減される方向で調整されることが想定されます」(鷲塚弁護士)
※小学校低学年の児童が赤信号を無視した場合の基本の過失割合は、自動車40:歩行者60とされている。

理不尽な事故への「備え」

たとえ最終的にドライバーの責任が軽減される可能性があるとはいえ、事故が起きればその後の立ち会いや手続きなど、心身ともに大きな負担を強いられることに変わりはない。
「飛び出し」のような歩行者の重大な過失や、「度胸試し」「当たり屋」など歩行者の故意が疑われるケースに対して、ドライバーはどのように自らの正当性を証明し、身を守ればよいのだろうか。
鷲塚弁護士は、「事故直前・直後の対応」と「日頃から意識すべきこと」を分けて次のようにアドバイスする。
1.事故直前・直後の対応として有効な行動
「通学路や公園の近くなど子どもがいる可能性の高い場所では、制限速度ぎりぎりではなく、余裕を持って減速し、いつでも停止できる速度で走行しましょう。これは『そもそも予見可能な危険を減らしていたか』という点で、過失の有無・程度に直結します。
また、前方だけでなく、歩道側・路地・駐車車両の陰など、『死角から子どもが飛び出し得るポイント』を意識して注視してください。子どもが複数いるのを認識しながら、こうした場所に注意を払わなかった場合、運転者の過失が重く評価されることもあります。
万一事故となってしまった場合には、直ちに救護・通報を行うことはもちろん、その場の状況(信号表示、制限速度標識、見通し、路面状況、子どもの位置関係など)をできる範囲で記録・保存してください。後日の過失割合の判断において、『どこまで注意していたか』『回避可能性があったか』が問題になりますので、客観的資料を残しておくことが重要です」(鷲塚弁護士)
2.日ごろから意識すべき点・取るべき対応
「学校の新学期・長期休暇の前後など、子どもの事故が増えやすい時期は、各地の警察や自治体が交通安全運動を展開しており、その趣旨は『子どもは予測不能な動きをする』という前提での減速・一時停止の徹底にあります。
ドライブレコーダー(前後・側方を含む)の装着は、運転者が適切な速度で走行し注意を尽くしていたことを裏付ける重要な証拠になり得ます。度胸試しのような極端な飛び出しであっても、映像記録があることで『回避不可能だった』と評価される余地が広がり、過失評価の場面で有利に働く可能性があります。
自身の運転についても、『横断歩道付近での徐行』『子どもの姿が見えた時点での一層の減速』『路地・店舗出入口前での一時停止に近い注意』など、教科書的には当然とされる行動を、習慣として徹底しておくことが、結果的には最も強い『自分を守る手段』になります」(鷲塚弁護士)
“度胸試し”は許される行為ではないが、まもなく新学期だ。
慣れない道を歩く子どもたちもいるだろう。日ごろ安全運転を心がけ、万一にも冷静に判断できるよう備えたい。


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