「餃子の王将」と「大阪王将」なぜ特許庁は“併存”認めた? 本来はNGだが…“特例”から紐解く「商標の線引き」
「餃子の王将」と「大阪王将」は系列店なのか。街で両方の看板を見かけるたび、そのように感じたことがある人もいるだろう。
いずれも中華料理店であり、いずれも「王将」を含むからだ。実際に筆者はそのような質問を受けたことがある。
商標の世界では、同じ事業分野で似た名称が共存することは本来許されない。先に出願・登録した者が優先される先願主義の原則があり、後から類似の商標を登録することは基本的にできないからである。
ならば、「餃子の王将」と「大阪王将」は“類似”にあたらないと認められたのだろうか? 実はそうではない。特許庁は、両者を類似と判断した上で併存登録を認めたのである(商標登録第3127269号、第3140544号)。(弁理士・岡村太一)

特例により両方とも商標登録された

ここで、この2つが併存しているのは、制度移行期の特例があったからだ。現在では、塾や美容院などのサービスについても商標登録が認められるのは当然であるが、かつては商標登録が認められたのは商品についてのみであった。
1992年にサービスマーク制度が導入され、飲食店のイートインのような役務(えきむ)についても商標登録ができるようになった。しかし、この制度の導入により、それまで使用されていた店名やサービス名について一斉に出願が殺到し、出願の先後によっては従来の名称が使えなくなる混乱が危惧された。
そこで、制度開始から半年間は、一定の要件のもと、類似商標であっても重複登録を認める特例が設けられたのである。
「餃子の王将」と「大阪王将」の併存は、この特例の産物である。したがって、この2つが共存しているからといって、一部が違うから非類似と認定されたのだと理解してはならない。
むしろ逆であり、特許庁は両者を類似と判断したのである。
この点は実務上重要であり、先に類似の名称が商標登録されている場合に「何か言葉を足せば大丈夫だろう」という誤解のもと、事業で使う名称を決めるのは危険である。一方、「どんな言葉を足しても危ない」というのも誤解である。

消費者が「系列店」と思えば“類似”?

先に登録されている商標によるリスクを正しく捉えるには、「類似」の基準を知っておく必要がある。
「餃子の王将」と「大阪王将」のケースで考えてみよう。類否(類似かどうか)の基準は、2つの店を見た消費者が、両者が同一会社や関係のある会社により経営されていると誤解(出所の混同)するかどうかである。つまり、2つの店名を見た消費者が「系列店だろう」と思ってしまうなら「類似」ということだ。
ただし、法律上これだけでは抽象的であるため、より具体的な判断基準に基づいて説明する必要がある。以下ではそのような説明をしてみることにする。
複数の言葉を組み合わせた名称やロゴ(結合商標)は、常に全体を比較するわけではない。商品・サービスの提供内容や提供場所などを示すにすぎない言葉は「識別力がない」として、類似しているかどうかを判断する際の比較対象から除外されることがある。
たとえば、飲食店において「地名」や「メニュー名」はサービスの説明に過ぎず、特定の店を識別する目印にはなりにくい。逆に、その業界と直接関係のない言葉ほど、他と区別するための強い「目印(識別力)」として機能する。

王将のケースでいうと、「餃子の」や「大阪」は提供内容や場所を示すため、比較対象からは除外されやすい。一方、「王将」は、既成語ではあるが、サービスの提供内容または提供場所のいずれを指す言葉でもないため、飲食店に関連しない言葉である。
このため、「王将」は識別力がある。そうすると、識別力のある「王将」が、商標の中核となる“要部”として注目され、その結果、類似になると考えられるのである。

「王家王将」や「うしちゃん肉王将」は“非類似”

逆に非類似の例として「王家王将」や「うしちゃん肉王将」がある(商標登録第5045312号、第6245541号)。いずれも、「餃子の王将」とも「大阪王将」とも非類似と判断された。つまり、「餃子の王将」または「大阪王将」の商標権を有する企業とは別の企業や個人により商標登録されたのである。
これも分解して考えると「王家」は飲食店に関連しない言葉であるため、識別力がある。
「うしちゃん肉」は牛肉のような意味を連想させる点では飲食店に関連する言葉ともいえるものの、一般的な表現ではない。このような場合、間接的な表現であるとして識別力を有するとされている。このため、「うしちゃん肉」は識別力がある。
そうすると、「王将」以外のパーツである「王家」および「うしちゃん肉」は独自の目印として除外されず、「王将」という共通点があっても全体としては「餃子の王将」とも「大阪王将」とも非類似ということになる。
つまり、一部が共通するだけでは必ずしも類似になるわけではないが、相違部分の識別力がなければ類似にあたるという結論になり得る。

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識別力がない言葉は常に除外されるのか

これまで、相違部分の識別力がポイントである旨を説明してきた。しかし、実際にはこの判断基準どおりにならない場合もある。全体の言葉の長さや共通部分の識別力の強弱も影響する。
「PIZZA-LA(ピザーラ)」「DOMINO’S PIZZA(ドミノピザ)」「PIZZA HUT(ピザハット)」の例を挙げ比較検討してみる。
「餃子の王将」と「大阪王将」なぜ特許庁は“併存”認めた? 本来はNGだが…“特例”から紐解く「商標の線引き」

(商標登録第3179993号から引用)

「PIZZA-LA」のうち、識別力のない「PIZZA」を除外すると残るのは「-LA」であるが、このような除外には違和感がある。「どこのピザにする?『-ラ』にしようか」とは誰も略さないからだ。識別力の判断基準に基づき説明すると次のようになる。
「-」は文字を区切る役割を果たすだけであるため識別力を有しない上、アルファベット2文字以内は識別力なしとされているため「LA」も識別力を有しない。このため、単純に「PIZZA」を除外すべきではなく、「PIZZA-LA」は全体で初めて識別力を有するのである。
「餃子の王将」と「大阪王将」なぜ特許庁は“併存”認めた? 本来はNGだが…“特例”から紐解く「商標の線引き」

(商標登録第3360174号から引用)

一方、「DOMINO’S PIZZA」であれば、識別力のない「PIZZA」を除外し残るのは、「DOMINO’S」である。
「DOMINO’S」のうち語幹「DOMINO」は飲食店に関連する言葉ではないため、識別力がある。「PIZZA」を除外することには感覚的にも納得感がある。「DOMINO」等と略し得るし、「DOMINO’S」というピザ屋があれば「DOMINO’S PIZZA」の系列店のように思いそうであるからだ。

「餃子の王将」と「大阪王将」なぜ特許庁は“併存”認めた? 本来はNGだが…“特例”から紐解く「商標の線引き」

https://www.pizzahut.jp/から引用

上記2例に比べて難しいのは、「PIZZA HUT」である。識別力の判断基準では「HUT」に識別力があるため、「PIZZA」を除外することになる。「HUT」は「小屋」の意味(※「帽子」の「HAT」ではない)を持つので、飲食サービスの提供場所といえなくもないが、一般的な表現ではない。このため、「HUT」には識別力がある。
そうすると、「PIZZA」を除外することになりそうであるが、「HUT(ハット)」と略して呼ぶことには相当違和感がある。このように単純に構成語の識別力だけでは妥当でない結論になる場合がある。
識別力以外の観点としては、「ピザハット」という発音の短さや名称全体のうち前半部分が記憶に残りやすいことから「ハット」と省略されないという理由が考えられる。ただし、この理由は明確とはいえず、結局のところ判断基準のみでは説明しきれないところがある。
これが結合商標の類否の判断の難しいところであり、実際に特許庁や裁判所で二転三転することも珍しくない。このようなボーダーライン周辺にあるケースは、戦い方、証拠次第で結論が変わり得る。

一見“似た”名前があっても商標登録を勝ち取れるケースも!

結合商標の類否の判断が難しいとして、われわれはどうすべきなのだろうか。これは企業の状況や想いによって変わってくる。
たとえば、看板の発注前で変更がしやすい状況では、ボーダーラインのものを避け、明確に非類似になる名称を採用するのがよいと思う。
一方、すでに長年店名として使用しているなど、その名称にこだわりたい場合は、ボーダーラインであれば商標登録に挑戦してみるのもありである。具体的には、特許庁から登録できないと判断されても、適切に反論することが考えられる。
反論というと“お上”に逆らうように思われるかもしれないが、反論の機会は制度上設けられているのである。さまざまな角度から理由を並べ、補強できる証拠を付ければ商標登録に導けることも少なくない。他にも先行する登録商標の使用状況によっては、交渉や取消審判といった手段も有効になり得る。
つまり、状況を踏まえて、どの手段を取るのがよいかを判断し、適切に実行していくことが重要となる。
■岡村太一
弁理士事務所ブランデザイン代表・弁理士。商標登録・意匠登録を中心に、ロゴ・ネーミング・デザインを守る業務を数多く手がける。YouTube・Podcast番組「ゆるカワ♥商標ラジオ」でも発信を続け、商標をめぐる話題をわかりやすく解説している。書籍『ロゴとネーミングの法律―事業を守る商標のしくみ』著者。
▼同番組および同著書
https://bran-design.jp/topics/news/2849/


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