「使えないヤツで終わるぞ!」
「給料なくなってしまうよ」
「ペナルティ1万円ね」
これらは、とある会社で、従業員Aさんが社長や上司から受け取ったメッセージだ。
Aさんは、ほかにも執拗な暴言を浴びせられたことに耐えきれず、退職。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
Aさんは、中古航空機の販売やリースなどを行う会社で、自動車のドライバーとして働いていた。■ パワハラメッセージ
入社して3か月が経ったころから、社長や上司がAさんに対してパワハラメッセージを送るようになった。その内容は以下のとおりだ。
【社長が送信(ほかの従業員も入っているLINEグループにて)】
- ペナルティ1万円ね
- 給与から2万ひきます
- 引かれた分、歩合や契約取ってきて稼いで下さい
- もう、社会人なんだから僕に世話焼かせないで
- 給与無くなってしまうよ
- ミスしたら体か売り上げて返すのが筋
- 意味わからん
- 文字読めてる?
- ちゃんと仕事出来るようになるまで東京都の最低賃金で働いてもらおう
- 東京都の最低賃金で9月から俺のドライバーやって下さい
- ウソついて仕事する人に出せる給料はありません
- 今後、A君に頭を使って考える事を託さないようにしましょう。A君には無理です
- 教えても期待してもこれ以上は無駄と判断せざるを得ないです
- 遅いんだよ、返事が!
- 相変わらず、つ・か・え・な・い↓ガッカリだよ
- 返事してくれない??
- お前俺を舐めてない?
- 返事しろよ■(判決注:怒りマーク。以下において同じ)
- 本当に意味ない!何の為にお前に聞かせてるのか?良く考えろよ■
- 使えないヤツで終わるぞ!!
- 相手の思うがまま、話にならないよ↓
- ガキの使いじゃないをだからさ!ちゃんとお仕事しようよ、お願いだから
- 11月の合宿明けの火水の休みなんかダメに決まってるだろうが!良く考えろよ■
- そこまで迷惑かけて休んでおいて、ふざけるな■と言いたいんだよ!わかれよ
- また無視ですか?いい加減にしてくれないかな???
- イエス、ノーの返事位しろよ■
- お前が聞き出せないから、こうなってしまってるんだから!
- もういい、お前がそうゆう態度取るなら、俺も一切お前のお願いは聞かないから!わかったな!!
- 辞めるのなら最後位ちゃんと働けよ
- そうゆう事やってるから成長ないんだよ!
- お前しつこいんだよ
- ガキみたいな事止めてくれません?言いたい事あるなら、直接言ってこいや!
パワハラに加え、会社はAさんに対して給料の未払いがあり、残業代の支払いもしていなかった。その額、合計約110万円である。Aさんは提訴前に、会社に対してこれらの支払いを求めたが、会社は支払いをしなかった。
その後、Aさんは労働審判を申し立てたが不調に終わり、舞台は裁判に移行。Aさんは未払い賃金と残業代相当額として110万円、パワハラを受けたことについての慰謝料として200万円の損害賠償を請求した。
裁判所の判断
Aさんの勝訴である。裁判所は「会社は未払い賃金と残業代を合わせて約110万円を支払え。パワハラについては慰謝料50万円を支払え」と命じた。以下、パワハラに絞ってポイントを整理する。裁判所は、社長と上司がAさんに送信したメッセージについて「職務上の指導として社会通念上許容される範囲といえるか」との基準を用いて、以下のとおり判断した。
「社長および上司は、Aさんが会社において勤務していた期間中、Aさんに対し、その勤務態度等に関するメッセージを繰り返し送信している。これらのメッセージには、高圧的、侮辱的または挑発的な文言を用いる、賃金の減額を示唆する、Aさんの業務遂行能力を全面的に否定するなどの不適切、不相当な態様でAさんに対する不満感を露骨に表現したものが含まれている。
また、社長の送信したメッセージについては、他の従業員が閲覧することができる状況でもあった。そうすると、これらのメッセージを送信した行為は、職務上の指導として社会通念上許容される範囲を逸脱し、Aさんに過度の心理的負荷を蓄積させてその人格的利益を侵害するものとして、Aさんに対する不法行為にあたる」
Aさんが主張した慰謝料の額は200万円であるのに対し、裁判所はそのうち50万円と算定した。
この金額が暴言に対する慰謝料として高いと感じられるか低いと感じられるかはさておき、50万円という金額は、一般的な慰謝料の相場と比較するとやや高額な部類に属すると考えられる。「ペナルティ1万円ね」「給与から2万ひきます」などの発言があったことや、暴言の数が多いことが原因ではないだろうか。
最後に
現代のビジネス現場ではMicrosoft Teams、LINE WORKS、Slackなどのチャットツールが日常化しているが、感情をそのまま文字にして送信することは、一生消えない「パワハラの証拠」を自ら作成しているに等しい。特に本件のように、第三者が閲覧できる場での侮辱行為は、人格的利益の侵害として厳しく判断される傾向にある 。会社側は、たとえ部下の能力に不満があったとしても、感情的な暴言や給与の不当な減額示唆は「指導」ではなく「不法行為」になることを肝に銘じなければならない。

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