法政大学に所属するA教授が4月3日、同大学による不当な研究費返還請求と懲戒処分、さらに実名公表による名誉毀損があったとして、学校法人法政大学を相手取り東京地裁に提訴した。
原告側は、国の公的研究費をめぐる大学の処分が違法であり、2件の懲戒処分はいずれも無効だと主張している。
原告と代理人が同日、都内で記者会見を開いた。

特許トラブルで研究「中断」

大学が原告に対して認定した「不正使用」とは、法政大学がAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)から委託された研究プロジェクトの研究費から支出された人件費の「目的外使用」である。
A教授は2021年9月、乳がんサバイバーを対象にウェアラブルアプリを活用した運動トレーニングの効果を検証する研究の開発代表者に選ばれた。
ところが、共同研究に参画していた民間企業が、パイロット研究の成果について単独で特許出願を行っていたことが2021年12月に発覚。冒認出願(特許を受ける権利のない者が特許出願を行うこと)の疑いがあるこの問題により、AMED研究は事実上中断を余儀なくされたという。
研究が中断している間、原告は、AMED研究のために法政大学が雇用した研究補助者の業務の指示に頭を悩ませ、大学側から「空いた時間であれば他業務に従事させて構わない」「直接研究と間接研究は分けられないので、(研究補助者)本人が空いており、望むのであれば(他業務を)やってもらえばいいのではないか」との了承をえて、ゼミ生の卒業論文実験の実施、論文執筆指導、発表スライドの作成など、雇用契約で定められたAMED研究以外の業務を指示した。
しかし、2022年10月、大学の学内窓口に匿名通報が寄せられたことで調査が始まると、調査委員会は前述の行為を「人件費の目的外使用」と認定し、2024年1月31日の常務理事会を経て、原告に1055万1998円の返還請求がなされた。

「6割負担の法的根拠も合理性もない」

原告側は、この返還請求が根本的に誤りだと主張する。訴状によれば、被告がAMEDに研究費全額にあたる合計1758万6668円を自主返還した。そして、被告から原告への請求は、上記金額のうち6割を原告個人に負担させる趣旨のものだった。
しかし、被告がAMEDに研究費の(一部ならまだしも)全額を自主返還しなければならない点についても、その額の6割を原告に負担させる点についても、法的根拠について、被告は何ら合理的説明を行っていないという。
指宿弁護士は、研究費の使用停止は被告とAMEDの責任で判断すべきものであり、「適切な対応を取らなかったのは大学側」「にもかかわらず責任を研究者個人に転嫁しており、重大な問題がある」と指摘した。
さらに、2024年3月6日付の懲戒処分(出勤停止10日間)についても、ヒアリングが目的外使用とは無関係なハラスメント聴取にまで及び、弁明の機会が適切に設けられなかったと原告側は主張した。

「研究者としてのキャリアに回復困難な損害を受けた」

2024年12月19日付で原告に科されたもう一つの懲戒処分が、大学の外部窓口へ寄せられた告発がきっかけとなった、けん責処分である。
大学側の調査委員会が対象としたのは4件。
民間助成金の申請における「盗用」、講演会発表用資料の「盗用」、学会シンポジウムでの「不適切なオーサーシップ」、論文での「不適切なオーサーシップ」である。
調査の結果、事実認定上「研究活動上の不正行為」に該当するとされたのは学会シンポジウムの件のみだった。ところが、4件の事案全体について「不正行為」と結論づけられたという。
唯一、不正行為と事実認定された学会シンポジウムでの発表の件についても、前提となる事実自体に誤りがあるという。同シンポジウムでは共同研究者のB氏が主に資料を作成したものの、A教授が単独で口頭発表を行った。調査委員会はこれを、B氏の貢献を排除して自身単独の研究成果であるかのように見せた「不適切なオーサーシップ」にあたり、「研究搾取」とも評価すべきものだと認定した。
これに対しA教授側は、B氏が聴覚障害を抱えていたことから、シンポジウムでは発表者に対する質疑応答が予定されており、聴覚障害をもつB氏に過度な負担をかけることを避けるため、自らが口頭発表を引き受けたにすぎないと説明。
加えて、B氏は学会にも入会していなかったことから、発表者を学会会員に限定する規定に則った発表であったとしている。
もう一つの大きな争点が、大学ホームページ上での調査結果の公表である。大学側は3回にわたり公表文書を掲載。うち2回は実名で、残る1回も原告の氏名は直接記載されていないものの、所属や役職から容易に本人を特定できる状態だったと原告側は訴える。
多くの大学が個人を識別できない形での公表を基本としている点と比較し、1年以上にわたりインターネット上で閲覧可能な状態が続く公表方法は「違法性が明らか」だと主張した。

不当な公表により海外大学への移籍が事実上不可能となり、研究者としてのキャリアに回復困難な損害を受けたとしている。

「一人の研究者として尊厳を取り戻したい」

原告側は研究費返還にかかる債務の不存在確認と既払金255万1998円の返還、2件の懲戒処分の無効確認、損害賠償5000万円のほか、ホームページ掲載の削除と謝罪広告の3か月間掲載を求めた。
記者会見に匿名で出席したA教授は、次のように心情を語る。
「人の役に立つ研究をしたいと思って始めたのに、ある時から"不正研究者"という負の烙印を押されてしまった。その場その場で全力でやってきたつもりなので『どうすればよかったのか』という思いがあります」
提訴については「簡単に決めたわけではなく、いろんな方に相談した」と明かし、こう続けた。
「一人の研究者として、尊厳を取り戻したい。支えてくれる仲間や学生のためにも、裁判所という公平な場で真実を明らかにしていただくことが重要ではないかと思っています」
なお、弁護士JPニュース編集部が学校法人法政大学に取材したところ、広報担当者は「現在調査中ですのでコメントは差し控えます」と回答した。


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