長野県佐久市で勤務していたAさん(当時50代)が、長時間労働による精神疾患の末、2022年5月24日に自死した事件を巡り、4月6日午後、Aさんの妻と代理人の舩尾(ふなお)遼弁護士、岩本拓也弁護士が都内で会見を開いた。
Aさんの自死を巡っては、遺族が公務災害認定を申請したものの、地方公務員災害補償基金長野県支部が2024年1月に「公務外」と判断していた。
しかし今年3月9日、同基金の長野県支部審査会が原処分を取り消し、自死の公務起因性を認める裁決を下した。
同一の処分庁が自らの判断の誤りを認めた形であり、舩尾弁護士は「非常に画期的な判断とも言える」と述べている。

24時間呼び出し体制、枕元にも携帯電話

Aさんは2020年4月、建設部内の異動で土木課に配属された。道路の損傷や事故が発生すれば、昼夜を問わず現場に駆けつけ指揮を執る立場にあった。
「夜の11時、朝の4時に電話がかかってきても飛び出していく生活だった」と舩尾弁護士は説明。連日の時間外勤務が常態化していたという。
Aさんの妻によれば、結婚前は山登りや旅行を楽しんでいた夫が、土木課への異動後は一度も出かけられなくなったといい、就寝時も枕元に携帯電話を置き、土日であっても夜中に電話で呼び出され、翌朝も早くから出勤する生活が続いたとしている。
Aさんは自死の1年ほど前から、弁当をほとんど食べずに持ち帰るようになり、体重は10kg減少。運転中の独り言が増え、信号待ちで居眠りし、物忘れも目立つようになっていた。Aさんの妻は会見で、自死の1か月ほど前に、Aさんが「このまま仕事を続けていたらダメになる」と話していたことを明かした。

「喫煙休憩」で毎日1時間を差し引き

Aさんの死後、妻は2022年7月11日付で公務災害認定を申請した。公務災害とは、地方公務員が公務に起因して負傷・疾病・死亡した場合に補償を受けられる制度で、民間の労災に相当する。認定機関は労働基準監督署ではなく、地方公務員災害補償基金の各県支部が担う。
ところが同基金長野県支部長は2024年1月24日付で「公務外」と認定した。
根拠となったのが、PCのログイン・ログアウト時間に基づく時間外労働の算定方法である。原処分は、残業時間中に喫煙所へ行っていた、とする職場関係者の証言などを採用し、毎日1時間を差し引いて時間外勤務時間を算出。
発症前1か月の時間外労働を97時間、2か月前を127時間46分と認定し、精神疾患の公務起因性を認める基準――「発症前2か月間に1か月あたりおおむね120時間以上の時間外労働」を満たさないと結論づけた。

「都合の良い証言だけを選んで採用」

2024年4月18日、舩尾・岩本両弁護士が代理人に就き、審査請求を申し立てた。弁護士らは、Aさんのスマートフォンに残されたLINEの記録や通話履歴を新たな証拠として提出。休日や早朝に現場へ出動していた事実を裏付ける画像や発着信記録を示し、原処分が算定に含めていなかった時間の加算を求めた。
審査会は、発症前1か月間の4日分について計26時間30分の加算を認め、同期間の時間外労働を123時間54分と再算定した。2か月前の127時間46分と合わせ、精神疾患の公務起因性を認める基準に該当すると判断している。
喫煙休憩による差し引きについても、「職場関係者の証言は職員によって内容が異なっており、離席の頻度や時間の長さを裏付ける証拠として十分であるとは言い難い」として、毎日1時間を控除する算定は「適切さを欠く」と指摘。さらに、休日・夜間の対応により本人に相応の負担がかかっていたと認め、業務負荷を原因とする精神疾患の発症と自死の公務起因性を認めた。
この点について、舩尾弁護士は「Aさんの離席時間については『煙草は吸っていたが、たいした時間ではなかった』など、さまざまな証言がありました。ですが、原処分は恣意的に、都合の良い証言だけを選んで採用していました」と説明。「こんなにひどい話があるのか」と訴えた。

「夫は人です。機械じゃない」

妻は会見で、「夫は人です。機械じゃない」と声を詰まらせた。弁護士に依頼する前、本人だけで申請した段階で不当な認定を受け、救済までに3年を要している。Aさんの父親はこの裁決を見届けることなく昨年亡くなったという。
舩尾弁護士は「公務災害制度は、公務に起因すれば速やかに遺族を救済するための制度だ。それにもかかわらず、本件では、どうとでも取れるような証言を利用した上で、救済までに3年間も時間がかかっている。今後こうした事例が繰り返されてはならない」と述べた。
なお、遺族側は今後、佐久市に対して損害賠償請求を行う方針だという。


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